反旗を翻す
ある晴れた朝のことだった。王国の兵が反旗を翻した。兵たちは勤勉であった。常に鍛錬を怠らず、常に他人への気遣いを忘れなかった。歴戦の勇士たちと呼ぶに相応しい強さを誇り、国民からも慕われていた。そして彼らは、この国の誰よりも、国を愛していた。
新しく就いた王は、無能であった。目先の利益にとらわれ、自らが理解できない軍備を縮小し、そのうえで周辺国に宣戦布告を行い、三正面に戦線を張る無謀な作戦を敢行した。設備も整っていないままでは当然勝てるわけもなく、連戦に連敗を重ねていった。領土は食い荒らされていき、事情も知らぬ国民は軍に不満をぶつけ始めていた。それでも兵たちはこの国を守り続けた。この国を愛していた。
ある日から、兵たちは見た夢を思い出せなくなっていた。何故かとても清々しい気持ちだけが彼らに残っていた。
そして王が、戦争での度重なる敗北への罰として、将軍の処刑を決めた翌日のことであった。兵たちは、王都へと攻め入ったのである。
見えた存在は、例え地を這う鼠でも、馬車を引く馬でも、そしてそれが愛した国の民であっても、彼らは切り捨て、城へ向かって行った。
彼らが通った道に、命は残っていなかった。
未だ目覚めきらぬ王城は、そのまま目覚めることなく突然の終わりを迎える。
王を殺したところで、彼らは目を覚ます。彼らの覚えていない夢とは、無意識の不満、怒り、反逆心の発散であった。それが爆発したのが、この有様であったのだ。
彼らは絶望した。自分たちから、国の滅亡を自ら願うほどに愛国心が失われていたことに、それを行ってしまったという現実に。
悲しみを抱きながら、彼らは首に刃をかけた…。
今はそこは不浄の地となり、後悔に悶える悲痛の声と、疑問を問いかけるような叫びが、辺りをこだまするようになっているという。