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最強魔法使い、クビにされる。②

「支部長、あんな約束をしていいのですか?」

「ふん。あの無能が一か月で中級魔法を使えるようになるわけないだろ」


 支部長はジンが出て行った扉をにらみつける。


 支部長はただの市民が栄光ある国立魔導士団にいるのは間違いだと思っていた。

 初級魔法程度しか使えない者が団に入団し、さらに団から恵んでもらった金を使って中級や上級の魔導書を手に入れようとしている。


 なんて恥知らずな連中なんだ。

 これだから平民は嫌いなんだ。


 中級魔法までならまだ見逃してやっても良かったが、上級魔法を習得するものまで出てき始めた。

 ここらで立場を分らせてやるべきだろう。


 そもそも市民出身の団員を貴族と同じ正規の団員とすることが間違いだったのだ。

 市民出身の団員など皆クビにするべきだ。


 支部長は正しいことをしたと思っていた。

 この行動に続く者は多いはずだとも。


「お前たちも訓練に行かなくていいのか? お前たちをかばってやるつもりはないぞ?」

「は、はい。すぐに行ってきます!」


 支部長がにらみつけると、支部長の子飼いの部下は慌てた様子で支部長室から出て行く。


 おおかた、私の口利きで訓練をさぼるつもりだったのだろう。

 今日の鍛錬は相当厳しいものだと聞く。


 高位貴族であり、最初から特別待遇で国立魔導士団に入隊した支部長には関係のないことではあるが。


「これで少しは団内の空気もよくなるだろう」


 団員の中には支部長に侮りの視線を向けるものもいた。

 支部長は高位貴族の出身だが魔力量は少ない。

 それは団員にもわかるようで、自分より魔力量の少ない支部長を侮るような視線で見てくる団員は何人かいる。


(ふん。魔力量など権力の前では何の役にも立たないのだよ)


 だが、そんな団員もこの団で魔力量が一番多かったジンがクビにされたことで、魔力量など、権力の前では何の役にも立たないと気づくだろう。


 支部長は上級魔法もギリギリ一発撃てる程度の魔力量しかない。

 一発ではスタンピードの主を倒せるかは怪しい。


 だから、家の力を頼ってスタンピードが起きにくい支部の支部長を転々としていた。


 ダンジョンのスタンピードは一度起きればそれから数年は起きない。

 この街のダンジョンは二年前にスタンピードが起きたばかりだからあと十年はスタンピードが起きることはないだろう。


 支部長は高位貴族の自分がそんな逃げ隠れしなければいけないということも気に入らなかった。

 魔力量を伸ばすためには鍛錬をすればいいだけなのだが、それは大変だからしたくない。


「また気に食わない奴がいれば同じ方法でクビにすればいいだけのことだ」


 ジンと違って相手は貴族だ。

 抗議されるかもしれないが、家の力で何とでもできるだろう。

 この支部にはそこまで高位の貴族はいない。


(いや、一人いたか)


 支部長は金髪の団員のことを思い出す。

 おそらくあの金髪は地毛だろう。


 金髪や銀髪は高位貴族に多い髪の色だ。

 そして、その髪色の人間は神の加護を受けやすい。


 何でも、創造神が最初に作った人間が金髪の男性と銀髪の女性だったらしい。


 それにあやかって髪を金や銀に染める者は多い。

 支部長も金髪に髪を染めていた。


 何とかあの団員も追い出せないものか。


 ……難しいか。


(やめだやめだ。こういう時は女を抱くに限る。なんでも下町の酒場にかわいい看板娘が入ったとか。あそこに行くか)


 支部長はムシャクシャしてきたので、気分を変えるために今日の仕事はこれで終わりにすることにした。

 これ以上仕事をしていたら、邪魔者がいなくなっていい気分になっていたのに台無しになってしまう。


 支部長はいつものように、闇ギルド『酔い狼』の本部へと向かった。


〇〇〇


「やっとあの目障りな孤児出身がいなくなったな」

「そうだな。ほんとに扱いやすくて助かる」


 支部長室を出た支部長の子飼の団員は訓練場に向かいながら今日の戦果を話し合っていた。

 彼らにとってもジンは目の上のタンコブだった。


 中位の貴族出身である自分たちより魔力量が多く、器用に魔力を使う市民出身者など、目障り以外の何物でもない。

 前々から追い出すチャンスをうかがっていたのだ。

 今回、市民出身の支部長が出たというので、それを支部長の耳に入れ、矛先がジンに向くようにした。

 そうすればあの支部長は面白いように乗ってきた。


「でも、あいつがやってた雑用をやらなきゃいけないんだろ?」

「そんなもんさぼればいいだろ? 魔導師ギルドの連中もいるんだから」

「……それもそうか」


 彼らは自分の分の雑用をずっとジンに押し付けていた。

 武器の手入れや魔道具の修理など、魔法を使ってやる方が効率的な部分は伝統として魔導士団が行っていた。


 しかし、伝統とは名ばかりで魔導士ギルドの魔法使いを雇って実作業はやらせて魔導士団員はその監督をするだけというのが普通だ。

 実作業を外部の魔導士ギルドがやるのだから、監督をさぼっても大して変わらない。

 魔導士団を敵に回したいものはダンジョンを有するこの街にはいないのだから。

 だから、監督しなくとも魔導士ギルドは必死に作業をする。


 だが、彼らは知らなかった。

 ジンが実作業もやってしまうため、魔導師ギルドの職員がクビになっていることを。

 また、魔導師ギルドをクビにした際、魔導師ギルドと支部長の間でひと悶着あり、この街の魔導士ギルドと魔導師団の間ですでに決定的な溝が生まれていることを。

 次話は明日投稿予定です。


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