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最強魔法使い、パーティを組む。①

「ん~! やっと浅層まで帰ってこれた~」


 中層から浅層への階段を上がったところでニコルは大きく伸びをした。


 ニコルの言っていることはわからなくはない。

 普段、浅層を探索しているニコルにとって、中層を探索するのは神経を使っただろう。

 言っていることはわからなくもないんだが……。


「やっとって、すぐだったじゃんか。それに、ニコルはすこし遠回りしてわざと戦闘になるルートを選んでなかったか?」

「ギク。ばれてた?」


 ニコルはバツの悪そうな顔で俺の方を見る。


 やっぱりそうだったのか。

 俺は仕方ないなと言った感じに息を吐いた。


「いくら俺が方向音痴でもあれだけ行き止まりに突き当たれば変だと気づくよ」


 中層を探索しているうちに二三回行き止まりに当たった。

 その度にニコルは「あっれれ〜?」とか言ってたけど、三回も繰り返されればさすがに気づく。

 ニコルは演技力はあまりないな。


 行き止まりに突き当たるときには必ず一体の魔物と出くわしていたしな。

 複数体のモンスターと出会う前には必ず俺に確認されたのに。


 複数のモンスターなら俺が、モンスターが一体ならニコルが戦闘をしていた。

 というか、一体しかモンスターがいないと俺がモンスターを認識する前にニコルが倒してしまうのだ。


 おそらくニコルが戦いたくてわざとその道を選んだんだと思う。

 歩いてニコルに追いついたときには解体も終わってるし、文句も言いにくい。


 どうやらニコルは視界に入る前からある程度のモンスターを察知できるらしい。


「ごめんなさい。自分で戦闘できることなんてほとんどないから」

「別に俺も急いでいるわけじゃないから(ぐ~)……」


 俺のおなかが盛大な音を立てて鳴く。

 どうやら、俺のおなかは急ぎ食事をご所望のようだ。

 恥ずかしいからもう少し待って欲しかった。


「ごめんなさい」

「謝らないでほしい。俺が恥ずかしい」


 ニコルにも俺が空腹なことがばれたらしく、頭を下げて謝られる。

 謝罪されるとみじめになるからほんとにやめてほしい。


「うーん。食べるもの……。あ! そうだ。悪いんだけどここの近くに私が落とし穴に落ちた場所があるんだ。そこに荷物があるから取りに行ってもいいかな? そこまで時間はかからないから」

「別にかまわないぞ」


 どうやら、俺たちが出会った広場はこの階段の近くだったらしい。

 本気でかなり大回りしたんじゃないのか疑問に思ったが、俺が一人で出ようとしていたら今の数百倍時間がかかったはずだし、別にいいか。


 俺の疑惑の視線にも気づかず、ニコルはさっさと移動し始めてしまった。

 俺は見失わないようにニコルの背中を追いかけた。


***


「あ、ちゃんと残ってた。よかった」

「よかったな」


 ニコルの言う通り、ニコルがかばんを落としたという場所は階段のすぐ近くだった。

 広間のようになったそこにはよく探索者が持っている背嚢が落ちていた。


 落ちている鞄なんかは発見者のものということになる。

 だから、残っていたのは本当に運がいい。


「ほかの人の迷惑にならないように探索者があまり来ないエリアを選んで探索してるからね。この辺りはトラップが多くてあまり人気がないんだ」

「なるほど。それで落とし穴に嵌ったのか」

「……いつもはちゃんと回避できてるから。今日はちょっと運が悪かっただけ」


 そう言ってニコルはカバンに近づいていく。

 確かに、ニコルは罠の発見がうまい。

 ここまで来るまでの間も、何度も罠を見つけて俺に教えてくれた。


 しかし、ダンジョンの罠って色々あるんだな。

 天井を触ると発動する罠とか、いったい誰がかかるんだ?


 あ、そういえばさっきニコルが天井を走ってたっけ。


「誰かに触られた形跡は……ない」

「そんなのわかるのか?」

「どうやって判別してるかは内緒だけどね」

「へー」


 後で聞いた話だが、他人の荷物にいたずらをする探索者がいるらしい。

 パーティメンバーの金を盗んだりとか。

 そんなことをしても信用を失うだけなのにな。


 信用を失った探索者は最悪だ。

 パーティを組めなくなるから、ソロで潜るか別のダンジョンに移動しなきゃいけない。


 パーティで稼ぎ続ける方が絶対に利益は大きくなるはずだ。


「あった。はい。これ」

「これは?」


 ニコルはサンドイッチを俺に差し出してくる。


「私の昼食のサンドイッチだよ。おなかすいてるんでしょ?」

「いいのか?」

「いいのいいの。宿のおかみさんが用意してくれてるんだけど、いつも量が多いから」


 俺にサンドイッチを差し出しながら、ニコルは自分の分のサンドイッチを取り出して食べ始める。

 一個がかなりデカいのにまだあるのか。

 いつも量が多いというのは本当なのかもしれない。


「じゃあ、もらうよ。いくら払えばいい?」

「ここまで助けてもらったのにお金を取ろうなんてしないよ。私もおかみさんにお金受け取ってもらえてないし」

「……助かる」


 自分がただでもらってるものにお金を取るのは心苦しいだろう。

 このお返しは別の方法でしよう。


 俺はニコルの隣に腰を下ろしてサンドイッチを食べ始めた。

 次話は明日投稿予定です。


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