レモン味の背徳
恋が何か分からない。
14にもなって何言ってるんだろうと、自身の幼さに辟易する。
クラスの友人たちのように、普通に誰かを好きになり、普通にときめき、普通に恋する。その普通が、私には遠い。
「起きなよ。こんなところで寝てたら、風邪ひくよ?」
だから嘘をついた。誰も信じてくれないんだもの、仕方がない。
林間学校の夜、恋バナになったとき、一人だけ秘密を打ち明けないつもりだと、周りがずるいと咎めるものだから、隣の子を真似て、サッカー部の先輩が好きだと言った。好きであることにした。
相手は怒るかもしれないけど、とても人気な人だから、似非ファンが一人紛れ込んだところで許してくれるだろう。
「寝たふりでしょ?バレてるよ。
今日ね、初めて告白されたよ。とても人気のある人なんだよ?
自慢してあげるから、ほら、起きて」
そんな先輩が、私を好きだと言った。
もっと可愛い子も、もっと美人の子もいるのに、私と付き合いたいと。
なんで私なのか、なんとなく分かる。
「強情だなあ。ほら、くすぐっちゃうよ?
耳の裏とお腹、弱いところまだちゃんと覚えてるよ?」
きっと、あの先輩も誰も好きじゃない。誰のことにも興味がない。
ううん、違う。自分だけが好きなんだ。そこは私とは違うか。
自分だけが好きで、周りはみんな自分が好きじゃないと許せない。
先輩のこと、好きだと言っておきながら、取り巻きに加わりながら、何にも見てないのがバレたのだろう。なんの興味も抱いていないのを見透かされているのだろう。
もし、彼が自分を愛さない相手に惹かれるというなら、私はこの先も先輩の期待に添うことができるだろう。
「起きないの?本当に寝てるの?
……仕方ないか。いっぱい頑張ってたもんね。夜遅くまで、ずっとずっと頑張ってたもんね」
好きという設定なのだから、デートぐらいしてみるか。一層のこと、このまま付き合ってみるのもいいかもしれない。
強引な人だから、何度かのデートでキスして、いつかはセックスして、そうしたら、そうやって何も考えずだらだらと流されたなら、私は恋をするのかもしれない。普通に成れるのかもしれない。
「それでも、ねえ、起きて。
今起きないと、きっと後悔するよ」
気持ちが移り変わると言うのなら、きっとその方がいい。
嘘を誠に。
秘密は秘密のままで。
大切な今を守れるなら、未来なんかどうだっていい。
世界がどう変わろうと、例えば私が女の人を愛しても、もしくは誰も愛さないでも、優しく受け入れ赦してくれる寛容な未来が来たとしても、私の禁忌だけは、決して赦してはくれないこと、分かっているから。
「好きだよ、お兄ちゃん」
リビングのソファーで眠る、決して叶わぬ想い人に口づけをする。
初めてのキスの味は分からなかったが、代わりにレモンの香りがした。
制汗剤の匂いかな。レモンが不完全なるものの象徴なら、なるほど私によく似合う。
願わくは、眠りの君の魔法が、このまま解ける事ないように。