魔女との契約
ヴィクトリアがクスリと笑った。見惚れてしまいそうなほど美しい。
目の前にいるのは、世界を救った魔女。何となく、ユリウスは納得した。
「あー、そうか。世界を救ってくれてありがとうな」
「あら、意外な返答ね。私が貴方の魂を勝手に借り受けたのよ、何か恨み言でも言うのかと思ったけど」
「そうだな、恨み言を言おうと思ってた。でも、美人だからいいやって思ったよ」
正直に言うと、この可愛い魔女の甘い声、そして素敵な乳と太ももを見てるとどうでも良くなった。それに奴隷に落ちたところをこうして助けてもらったのだ。
「そんなユリウスに朗報ですよ。私はユリウスの魂を長い期間借り受けましたわ。どういうことかというと、私とユリウスは他人ではなくなった。魂の契約を為せましてよ」
魂の契約、それは真の愛を経験して結婚したものが結べるものだった。愛を持ってお互いの魂を溶かし合ったものだけが結ぶ唯一無二の証。人間には魂がある。そしてそれは他人と溶かし合える尊い事実が存在している。
「は? つまりどういうこと」
「私とユリウスは、既に夫婦よりも深い関係ってことね。魔女と契約、できるってことよ。正確には事後承諾になっちゃうんだけどね。きちんと契約しないと魂と魔力は返せないともいうけど」
ユリウスとしては、欠けた魂と魔力は返してほしい。しかし魔女の契約とはどういったものだろうか。以前はこの説明不足の魔女のおかげで、ひどい目にあったのだ。同じ轍は踏んではいけない。
「はっきり言って魔力も欠けた魂も返してほしい。魔女との契約ってどういうものなんだい? 説明をよく聞かずに力を貸した後は大変だったんだよ。ちゃんと中身を聞いておきたい」
ヴィクトリアは少し逡巡した後、手を胸に抱き寄せて語り始める。おっぱいがいい感じに歪んでいてユリウスは素晴らしいと心の中で感想を漏らした。
「その節は本当に迷惑をかけたと思っているわ。契約内容は簡単よ。二つだけ。一つ目は、ユリウスと私を対等のパートナーとして認めること。つまり結婚するということね。二つ目は、私はユリウスに多大な《借り》があります。だからユリウスに《魔滅の魔女、ヴィクトリアへの命令権》を三回お渡しします。三回だけ、何でも言うことを聞いてあげますわ」
おおっと、結婚と来たか。いや、ユリウスとしては望みたい契約だ。何せユリウスは、幼い頃からヴィクトリアに憧れていた。《命令権》とやらは使う気にはなれないが、魅力的な提案だ。しかし、ヴィクトリアはそれでいいのだろうか? はっきり言ってユリウスは落ちこぼれのうだつの上がらないマダ男だ。
「なるほどね。分かりやすい。俺としては是非結びたい内容だ。でもヴィカは俺でいいのかい? 俺は容姿が優れているわけでもないし、地位も金も力もないぞ。それに君にひどい命令を下すことだってできる」
「私は、ユリウスのことを素晴らしい男性だと考えているわ。魂が欠けた状態で高潔さを保ったのだもの。お借りした魂がユリウスを教えてくれているわ」
ヴィクトリアはユリウスの目をじっと見つめてそう言った。女性に慣れていないユリウスはふいっと目を離してしまったが、ヴィクトリアは構わずに話を続けた。
「普通だったら、魂が腐って汚れてしまうもの。私と出会った後のユリウスのような環境では特にね。それにユリウスの魂を借り受けなかったら私は死んでいた。だからユリウスに人生を捧げてもいいし、それにユリウスは私の好みの男性よ。魔王のせいで色恋沙汰なんて経験しなかったしね」
ヴィクトリアは少し頬を染めながらそんなことを言う。銀髪が少し揺れていて艶めかしい。これが女性の色気という奴だろうか。女っ気のないユリウスにこれは応えた。眩しいヴィクトリアに眩暈がしてしまう。それに契約しなければ、ユリウスの望みは叶わない。ユリウスに選択肢はない。
「ヴィカの気持ちは分かった。是非契約したい。これからよろしく頼むよ」
ユリウスがそう答えるとヴィクトリアは満面の笑みを浮かべた。
「まぁ! すばらしいですわ。では契約を結びましょう」
そう言うとヴィクトリアは何もない空間から羊皮紙のような紙を取り出した。書面を確認すると、ヴィクトリアの説明通りのことが書かれている。
「これが魔女の契約を担保する書類よ。血を垂らせば契約は”成る”わ。その後指輪が出てくるから嵌めて頂戴ね」
ユリウスはヴィクトリアの言う通りに血を垂らす。書面上をまるで毛細血管のように血が巡り、光り輝いた。そうすると用紙が燃え上がり、代わりに指輪が現れた。エンゲージリングだ。シンプルなリングで装飾がなされておらず、内側にはユリウスとヴィクトリアの名前が書かれている。さらによく見ると、三本の白線が入っており、これが《命令権》だと思い至った。薬指に嵌めてみると、何だかむず痒い。
「なるほどね、これは思ったより恥ずかしいな」
ヴィクトリアをみやると、頬が赤く染まっている。ヴィクトリアが言い出したことではあるがやはり恥ずかしいのか。それを見たユリウスも体が熱くなるのを感じた。