還る魔力
俺がヴィカと暮らしはじめて一年。魂の同調のための修行を続けた。
振り返ると、風呂を覗いてしまったり、魔力の鍛錬中におっぱいを触ってしまったりと、何だかセクハラ三昧の修行の日々を送ってしまった気がする。
しかし。そういった日々も振り返れば美しい。
修行中にデートしたり、喧嘩したり、色々な経験をした。
俺とヴィカは、強い信頼関係で結ばれている。
ようやく、魔力を返してもらうための修行が完了した。
今から、ヴィカに魔力を返してもらうのだ。
立ったまま、お互いを見つめあい、抱きしめあった。
最初は恥ずかしがったが、今では心地よさを感じるようになっていた。
俺はヴィカの目をじっと見つめる。
美しく芯のある目。
朗らかに笑ったら、とても落ち着く表情。
彼女の何もかもが愛おしく、そして……
体が溶け合うように魔力が同調した。
◇◇◇
ようやく、ようやく俺に魔力が戻ってきた。
足りなかった、魂のかけら。それが返ってきたのだ。
「長らく、貴方には不便をかけましたわね。でもこれで大丈夫」
ヴィカはそういって俺の体を柔らかく、そして強く抱いた。
全身にめぐる強烈な魔力。
失っていた、どこかへなくしたと思っていた自分自身。
なんてことはない。失われていたと思っていた魔力は確かに存在していたのだ。
ヴィカ自身が大事に預かってくれていたのだ。
自身の内なる魔力の翻弄に集中する。
俺自身が持っていた、確かなモノ。
「あぁ……! ようやく……! ようやく俺は……。 俺自身になったように思うよ」
俺自身の内に宿る魔力。そしてそこに確かに感じる、ヴィカのあたたかな魔力。
「あぁ、ヴィカ。君に言わないといけないことがあるんだ」
俺は、ヴィカにずっと言いたかったことがあった。
修行が終わって、魔力と魂が返ってきたら、必ず伝えたかったこと。
「あら、何かしら」
ヴィカは、安心したような、落ち着いた顔をしていた。
きっと俺も同じような顔をしたと思う。
「ヴィカ、君のことを愛している。俺のうちに入った君の魔力、魂。とても愛おしい。君はこんな気持ちで僕の魔力を預かっていてくれたんだろう。あぁ、だからこれからも一緒にいてくれないだろうか」
ヴィカは呆けたような顔をして、そして頬を思いきり釣り上げて笑った。
「うふふ、当然ですわ。私だって、貴方のことを愛しています。私こそ、貴方との日々で、貴方を知り、そして儀式であなたの魔力と魂を混ぜましたわ。とても愛おしくて愛おしくて、狂ってしまいそうなほどでしてよ」
そして、しばらくずっと無言でお互いを見つめあった。
頬を撫でる風が、木々から聞こえる鳥の囀りが。
そして何よりも彼女のぬくもりが。
あぁ、俺は幸せになれたよ。
俺は、俺は、俺は!
幸せの絶頂の時。
走馬灯のように人生の過去を見た。
辛い記憶しかなかった。
慰められた記憶は少しだけだった。
でも信じていた。自分の幸せを。
「ヴィカ、愛してる」
そして俺はヴィカへと口づけをした。
◇◇◇
とある街に店が開かれた。
---凄腕の何でも屋として知られたその店は。
世界各地へと噂が広がり、依頼人は後を絶たず。
そこには、優し気な店主と美人妻が仲睦まじく暮らしていて。
依頼人達はその当人達の幸せそうな様子を見に来るんだとか。
◇◇◇
「本当に美人が空から落ちてきて、人助けをしたんだな」
とある酒場のマスターは、グラスを拭きながらそう言ったそうな。
以上、完結となります。
本作についての活動報告も、興味のある方はご確認下さい。
感想もお待ちしております。
ユリウスには今後、楽しい人生が待っています。
ヴィカが傍で彼を支え続け、幸せな人生を生きることでしょう。
今まで応援頂いた方、誠にありがとうございました。




