密着修行
ユリウスとヴィクトリアは、家の庭に出ていた。
周りは木々が生い茂っており、人の気配はしない。大きな幹と葉が生い茂る青々しさを称えながら暖かな日差しが、差し込んでいた。
「ヴィカ、魂を取り戻すための修行っていうことだけど、どうすればいいんだ?」
ユリウスは、ヴィクトリアに問いかけた。
というのも、ヴィクトリアは魂の返し方について、具体的な言及はしていなかった。
また汚れた家を掃除したりとヴィカの世話を焼いているうちに、何だかんだで後回しにしていたからだ。
「一緒に暮らしていれば、お互いの理解が深まると言ったでしょう? 魂が交流していく内に勝手に慣れていくわ。ただその方法だと時間がかかるから、今回は修業をするわよ」
ヴィクトリアは、サンセ魔法店にてユリウスが侮られていたのが気に入らなかった。ユリウスが、悪く言えば、才覚がないように見えるのはヴィクトリアの責任である。本来であれば、誰もが尊敬したような魔法使いになったはずだ。
「さぁ、力を抜いてリラックスしてみて」
ユリウスはヴィクトリアに言われた通り、息を大きく吐いて気を落ち着かせた。
気持ちの良い木漏れ日であったことも、ユリウスの緊張を解きほぐし、自然な体性で立っていられた。
ひたり❤
体を楽にしていたユリウスだが、体を緊張させた。何故ならヴィクトリアが背中から覆いかぶさっていたからだ。
後ろからヴィクトリアに抱き着かれたようか恰好になるユリウスは驚き、そしてさらに仰天した。
ユリウスは背中に大きな禁断の果実の感触を得た。
ヴィクトリアが持つ巨大なお山様が意識を支配する。男なら当然の反応であるが、ユリウスはそれを恥じた。
おそらくヴィクトリアにはその気はないと推測するし、修行だと言うのだから、真面目にやらなければいけない。
そう考えて気を取り直そうとするも、柔らかい感触が無視をするなと意識に訴えかける。
もはやリラックスなど不可能だった。
「ほら、体を固くしないで。今から、魔力の流れを整えるわ。私の魔力をユリウスに通すことで、魂の慣れを早めるから」
ヴィクトリアの長い髪の毛が、ユリウスの肩にかかった。
かすかだが相手の匂いさえ感じられる距離で、ヴィクトリアはやはりにこにこと微笑んでいる。
対照的にユリウスは、体が熱くほてり思考がかき乱された。
(おかしい……っ。一緒の家に暮らして、ヴィカの用意してくれたローブを着ているのに、ヴィカから良い匂いがする。埃っぽい匂いがするはずなのに何で???)
ユリウスは、本筋ではない思考に意識を奪われて狼狽した。
「うふふ、ユリウスっていい匂いがしますのね。ちょっと酸っぱいけど心地よいわよ。不思議ねぇ」
ヴィクトリアがユリウスの思考と同じことを言っていた。
ユリウスは、ヴィクトリアの台詞に更なる動揺を重ねたが、かろうじて平常な態度を保つ。
ヴィクトリアの美しい銀髪によりユリウスの顔を覗き見られることはなかった
ユリウスはそれに気づき内心安堵するが、ヴィクトリアの表情が分からなかったのでそれは残念だった。
「ほら、魔力を流してますわ。体が熱くなってるでしょう? 私の魔力の流れを感じて下さい。ユリウスの魂が私に慣れますわ」
魂とは魔力の出力装置。魂が火を起こす装置だとすれば、魔力は火だ。
急に熱い火にあててしまえば、魂は壊れてしまう。だがこの様になれさせるようにゆっくりとならせば、壊れることはない。
ユリウスは背中からヴィクトリアの魔力を感じた。
ユリウスの胸の前に回された手から、背中を通して一周するような感触を得た。
ヴィクトリアの魔力は、何だか暖かくて優しさにあふれる、まるで冬の暖炉のようだった。
その暖かな体験は、大きな充足感を得えせた。ユリウスが本当は持っていたはずのもの。無くしたと思っていたものが、確かにそこにあったのだ。




