魂の欠片を取り戻そう
サンセはヴィクトリアの台詞を聞いて、心底から驚いた。
商人は鉄面皮、常に笑顔が命であり、動揺を悟られてはならない。
しかし、サンセの内心としては、目前の美女が隣の普通の男に惚れる理由がさっぱり分からない。
「なるほど。それはいい出会いがあったのでしょうな。ユリウス様が羨ましい限りですよ」
しかし、サンセは歴戦の商人。目前の変わった二人には、平凡ではない何かを感じていた。ユリウスに関しては、ヴィクトリアの嘘かもしれないが、惚れられていると言わせている点。ヴィクトリアは言うまでもない絶世の美女かつ、魔力の才覚が特別であることだった。
「そういうことでしたら、仕方ありませんね。新婚生活、楽しんでくださいね」
「またお世話になるかもしれません。その時はよろしくお願いします」
ユリウスは人懐こそうな表情をしてサンセに御礼を言った。握手を交わすと、サンセもユリウスもゴツゴツとした固い手をしているなと内心思いながら目が合ったため、お互いに苦笑した。
サンセは、あまたの疑問を飲み込み、頭を切り替えて、ユリウスたちを送りたした。
また何かの縁があれば、面白いことになるだろうという思惑をもって。
丁度お茶を飲み終えた二人は、長居するわけにもいかず、サンセ魔法具店を後にするのだった。
◇◇◇
買い物を終えて、ヴィクトリアの家に戻ってきた二人。ユリウスは少々の疲れを感じながらも一日のことを思い返していた。
サンセ魔法店を後にした二人は、出店を見つけてお茶の葉を購入した。
ユリウスのお金は、奴隷になった際も取り上げられることはなかったからだ。
しかし、お茶を買ったことでスッカラカンになってしまった。ヴィクトリアに聞くと、彼女も首を振って両手を上げた。
「私はお金を持っていませんわ。ただ、持ち物を売ればそれなりのお金になると思うから、今度換金してきましょう。あの程度の魔道具であれば、たくさんありますもの」
「いやでもヴィカの私物でしょ? それも悪い気がするなぁ」
ユリウスはヴィクトリアの好意を甘んじて受けようとは思わない。流石に自分の金は自分で用意すべきだと思う。
「でも奴隷にまでなっていたのは私に責任がありますし。それに、働かれるよりやることがありますわ」
「やること?」
優先的にやらなければならないこと? 何だろうか。う~む。
イマイチピンとこないユリウスであった。
「それは魂を返すための鍛錬ですわ。お店でも、ユリウスが軽くとはいえ侮られていることがわかりました。それはひとえに魂が欠けているせいでその輝きが視えなくなっているせいですわ」
「そうだよな。侮られてたよなぁ。でもヴィカが俺のこと、その、惚れてるって言ってくれたから、すごく嬉しかったよ」
ユリウスは、自分で言っておきながら、顔を真っ赤にした。土台恥ずかしいセリフだと思う。
「それは本当のことなんですけどねぇ。今の所、ユリウス以外の男性は考えられませんわ。それはさておき、魂を取り戻すための修行をしましょう。手取り足取り教えてあげますからね」
ペロリとヴィクトリアが舌なめずりをした。




