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人形少女は踊らない  作者: 白神 怜司
Ⅲ 人形少女と二人の神子
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3-7 冒険者 Ⅱ

 食事を終えた私達は、早速とばかりに冒険者ギルドへと向かいました。

 王都は昼下がりという事もあって朝市の活気も落ち着き、長閑な時間帯となりますし、冒険者ギルドが混み合うのは朝早くと夕暮れ時だと聞いていますので、今なら比較的空いているでしょう。


「――それで、どうして冒険者になろうなんて言い出したの?」


 王都内を進む巡回馬車に乗った私に、エリーが改めて訊ねてきました。

 偶然にも同乗者は一人もいませんし、特に隠す必要もないのでそのまま答えてもいいでしょう。


「魔道具を作るとなれば、魔力に耐性があり、かつ内包した魔力を逃さない素材が良いと言えます。そういう意味では、魔物の皮などが一番加工しやすいのではないかと」


 魔物の皮や素材といったものは、今でも市場に流通してはいますが、その多くが軽さの割に耐刃や耐衝撃性に優れているからという理由です。素材そのものの質だけならば着目されているのは当然とも言えます。

 しかしながら、私が欲している素材は魔力に対する親和性と有用性です。

 それらを調べるにしても、一般的な市で手に入るような代物ばかりではサンプルも少なく、種類も限られてしまうのは目に見えています。


「魔物は魔力を内包していますし、魔法を使う魔物もいます。つまり、魔力との親和性という点では魔道具の素材に適していると考えられますから。劣化模造品を作り出してきた技術をそのまま流用する必要もあるでしょうが、新しい魔道具を作るのであれば新しい素材にも着目するべきではないですか?」


 ニーナ先生に教わりながら勉強してみましたが、現在の魔道具はあくまでも『過去の劣化模造品』であり、魔道具に使われる素材等も過去のものを解析し、どうにか魔鋼に辿り着き、それが定着化している状況です。

 新しいものを作るのであれば、当然求められる素材が変わる訳ですし、そうなれば魔力と親和性の高い魔物という存在の、天然の皮や生物としての親和性を流用できるに越した事はありません。


 ローレンス様にお尋ねしたところ、研究資金は潤沢に用意してくださっているようではありますが、それでも自分で調べる内に見つかる発見というものもあるでしょう。本だけでは知り得なかった世界を体感したように、魔道具でも似た事があるかもしれません。

 そう考えると、魔物の討伐でお金も稼げて素材も取れる上に、お肉様まで懐に入るのであれば、やらない理由はありません。


 それらを滔々と訴えてみせると、エリーがため息を零しました。


「……はあ。相変わらず、突拍子もないようで核心を突いてくるのだから。そう言われると、確かに納得できるわね。魔力との親和性、という考え方はわたくしにもなかったわ。ついつい新しい魔法陣ばかりに気を取られていて、そういったところに気が回っていなかったもの。……うん、そういう事なら冒険者になるのは賛成よ」


 それに――とエリーは続けました。


「魔物の暴走(スタンピード)現象が近い今、実戦経験は多いに越した事はないわ。わたくしとしてもあなたが一緒なら信頼できるし、悪い話ではないもの」


「なら良かったです」


 いざとなったら、アルリオを通して精霊に暴れてもらえば魔物はある程度どうにかなるでしょう。私も魔装の色々な使い方を試しておきたいですし。


 そんな事を考えている内に巡回馬車は冒険者ギルド最寄りの馬車停に止まり、私達も馬車を降りました。


 冒険者ギルドを遠巻きに見た事はありますが、中に入った事はないですし、どんな場所なのか気になりますね。

 こう、物語に描かれているような、ちょっと薄暗い寂れた酒場とは違うようですが。


「――あれ? ルナ、それにエリーじゃない」


「あら、ジーナさん」


 偶然近くを歩いていたジーナさんがこちらに気が付いたようで声をかけてきました。


 そういえばジーナさん、最初はエリーを様付けで呼んでいたのですが、どんどんフランクな呼び方になっていきますね。ジーナさんは貴族家出身ではあるのですが、冒険者生活の中ですっかりそれらしさが取れてしまったようです。

 エリーもいちいち堅苦しいのは好まないようなので気にしていないようですし、自然と呼び方が縮まった感じですね。なんともジーナさんらしいです。


「どうしたの、二人揃ってこんなトコで」


「冒険者になりにきました」


「……うん、意味が分からないわね。エリー、通訳お願い」


「えっと、ルナの言う通りではあるのよ。実は――」


 何故か私の説明では理解できなかったようですので、エリーが改めて説明してくれているようです。

 それにしてもジーナさんは今日は冒険者として活動していたのでしょうか。いつもの制服とは違う、革でできた軽鎧を身に着けていますし、それとなく冒険者らしい格好をしています。

 ああいうのも魔物の素材で出来ているのだとすれば、加工する職人さんを紹介してもらう事も可能かもしれませんね。


「――正気!? ルナ――なの!?」


「えぇ、もちろん。暴走(スタンピード)が近いのなら、間引きできるだけ――」


「そりゃ――ないかもしれないけど、でも、ルナを――なんて、飢えた獣を――」


「い、言い過ぎですわよ……。さすがに――」


「ちょっと――パーティーの時の――」


 何故かジーナに連れられて距離を取ってしまったので、二人の会話は明確には聞こえてきませんが……ふむ、きっと危険性を説いているのでしょう。


 エリーは公爵令嬢ですし、よくよく考えれば私のように気軽に冒険者になるなんて訳にはいかないのかもしれませんね。


 ジーナさんの言う通り、飢えた獣を彷彿とさせる勢いで魔物は人に襲いかかるはずですし、危険なのは間違いありません。そんな環境に公爵令嬢が足を進めるとなれば、ジーナさんがあそこまで必死になって説得するのも理解できます。


 無茶を言い過ぎましたね。

 つい私はエリーが一緒にいるものだと思い込んでいましたが、よくよく考えれば元奴隷と貴族の最高位である公爵家の令嬢なのですから、影響を考えなくてはなりません。


「――エリー、無理をしないでくださいね」


「え……、ルナ……?」


「エリーがいなくても、私がしっかりと()ってきますのでご安心――」


「余計心配になるわよっ、それっ!?」


 エリーも断りにくいだろうと考えてこちらから譲ろうとしたのですが、何故かジーナさんが私の言葉を遮って叫びました。


 ……はて、何故余計に心配になるのでしょうか。

 少なくとも、私一人であれば心配する要素は減ると思ったのですが……。


 そう考えて小首を傾げると、ジーナさんは「あーっ、絶対勘違いしてるわ、あれ!」と叫んで頭を掻きむしると、私を見つめました。


「いいわ、冒険者になるのは構わない! けれど、それには必ずエリーと私、それにフローラとも一緒に行動すること! いいわね、ルナッ!」


「ふむ、私としては否やを言うつもりはありませんが……魔物とはそんなに危険なのですか」


「私が心配しているのは魔物()危険よ!」


 何か特殊な技能でも持っているのでしょうか。

 だとしたら、確かに経験者でもあり現役冒険者でもあるジーナさんとフローラさんが味方になってくれるのはありがたいですね。


「……ちょっと、エリー。ルナのぽんこつ勘違いっぷり、どうにかならないの……?」


「……無理ですわよ、諦めなさいな。いっそ、あれはあれでルナの持ち味だと思って楽しむ事をオススメ致しますわよ?」


 何やらボソボソと喋る御二人に連れられて、私は冒険者ギルドの扉を潜りました。




 冒険者ギルドとは、基本的には他国で言うところの傭兵ギルドです。

 本来の傭兵の仕事と言えば、戦争や荒事、或いは護衛といったところでしょうが、しかしながらアヴァロニア王国内の冒険者は様々な依頼を行います。


 最たるものは、やはり魔物の討伐でしょう。

 アヴァロニア国内だけでしか発見されていない異常生物とも言える魔物は、アヴァロニア国外での認識は「獰猛で巨大な獣」といったイメージに集約されているようではありますが、実際にはその程度の生易しい存在ではありません。


 私がフィンガルにやって来た時に狩った、灰魔狼(グレイウルフ)が分かりやすい例でしょうか。


 もともと狼は賢い生き物ですが、魔物は従来の獣をベースに、知恵と戦闘能力を強化し、かつ魔力を体内に内包し、魔法さえ使ってくる、という存在となります。

 あの時は赤竜騎士団の皆様が同行していたから早急に始末できましたが、魔物との戦闘に慣れていない方々であったなら、一方的に蹂躙されかねない――それだけ危険な存在です。

 それを狩り、その素材を手に入れるのが冒険者の最も稼げて、かつ危険が伴う仕事でしょう。


 そんな魔物の討伐以外にも、傭兵ギルドが行うような護衛依頼。それに希少素材等の採取であったり、あるいは町中での雑用お手伝いであったりと、その仕事は多岐に渡る、という訳です。


 そんな訳で、冒険者ギルドを入った先はまるでお役所のようで、広々としたロビーと長いカウンター。そこに建てられた看板など、私が想像していた場末の居酒屋風の雰囲気もなければ、たむろしている冒険者の姿、というのも見受けられません。


「……なんだか肩透かしですね」


「唐突な罵倒!? やめて、ルナ! 変な事言わないの!」


 ガッカリしながら呟いたら、ジーナさんが私の口を塞ぐようにやって来ました。

 しかしながら私の声が聞こえてきた人もいるようで、じろりと剣呑な眼差しを向けている方々もいらっしゃるようです。


『――お? やんのか、人間? 精霊暴れさせちゃうよ? お?』


『アルリオ、三下のチンピラみたいですね。そういう事を言うとあっさりやられるそうですよ』


『えぇっ!? そうなんですかっ!?』


 まるで「オレ様の背後にはビッグな御方がいるんだぜぇ」と言いながら、あっさりとやられる小説のやられ役のようなセリフですからね。間違いなく強い相手に負けて、「ちくしょう、覚えてやがれ!」って言いながら逃げるまでがセットになっているはずです。


 そんなアルリオの情けない姿を想像してぼんやりとしていると、私達に近づいてきた一人の男性が口を開きました。


「なんだぁ、嬢ちゃんども。こんなトコに来て、なんの用だ?」


※ルナには聞き取れなかったジーナとエリーの会話※


ジ「ちょっと正気!? ルナが冒険者になんて大丈夫なの!?」

エ「えぇ、もちろん。暴走(スタンピード)が近いのなら、間引きできるだけ間引いてしまった方が、積もり積もって影響も出るでしょうし」

ジ「そりゃルナなら問題なんてないかもしれないけど、でも、ルナを冒険者にするなんて、飢えた獣を餌場に解き放つようなもんじゃない!?」

エ「い、言い過ぎですわよ……。さすがにルナだって食べられない程の魔物を大量虐殺なんてしないでしょうし……多分」

ジ「ちょっとエリー、よぉーく思い出しなさいよ? パーティーの時のルナを覚えてない訳じゃないでしょう? あの子、延々と食べ続けるわよ?」


ル「エリーがいなくても、私がしっかりと()ってきますのでご安心――」


ジ「余計心配になるわよっ、それっ!?」



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