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人形少女は踊らない  作者: 白神 怜司
Ⅲ 人形少女と二人の神子
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3-6 冒険者 Ⅰ

 ――ハッキリ言いましょう、不愉快です。

 目覚めた私が最初に抱いた感想は、そんな一言に尽きました。


 赤竜騎士団女性騎士舎にある私の部屋。

 ベッドの上で横たわったまま天井を見上げ、先程まで見ていたおかしな夢――いえ、女神であるルナリア様が私の身体を使って話している事を、視点は自分のままに他人が会話しているという状態を思い返していました。


「――ルナ?」


 声が聞こえて視線を向けると、部屋の椅子に腰掛けていたエリーと目が合いました。


「おはようございます、エリー」


「……その、大丈夫?」


「大丈夫か大丈夫じゃないかと訊かれれば、不愉快な点を除けば大丈夫です」


「なんで不愉快ですのっ!?」


「自分じゃない自分が勝手に身体を使って会話する、というのは不愉快に感じますよ。エリーもそんな経験ありませんか?」


「ありませんわよっ!? というか記憶がありますの!?」


「えぇ、しっかりと。しかし……そうですか、経験はなかったのですね」


 あまりない貴重な経験という事なのでしょう。

 てっきり貴族令嬢のエリーなら似たような体験の一つや二つ、すでに経験しているのかと思ったのですが。


「まったく、相変わらずで何よりですわ」


「エリー」


「なんですの?」


「お腹が空きました」


「なんなんですの、そのマイペースぶりは!?」


「そうは言われても、空腹を誤魔化すのはなかなか辛いものがありますので」


「……はあ。心配する必要はない、と言っていた通りですわね」


「心配……? あぁ、私の事ですか? 大丈夫です。ルナリア様……様? あれも私ではあるので、様を付けるのはおかしいですね。ルナリアの言う通り、私は変わりません。そもそも、私に干渉するというのなら、その力を消滅してしまえば良いですし」


 目に見えないものではどうしても消滅しきれないという面倒な制約がありますが、最悪の場合、元から断ってしまえば良いでしょう。

 私は私な訳ですし、敵対するというのなら――それはもはや、排除すべき障害でしかないですから。


「……相変わらず無茶苦茶ね。とにかく、何かあったら必ず相談しなさいね?」


「分かりました。では早速ですが、エリー」


「なんですの?」


「お肉様を食べに行きましょう」


「相談ですらないですわよっ!?」


 相談と言われましても、私は今までに他人に相談するという経験がありませんので、こんな感じだと思っていました。白百合寮の談話室で女子同士がお手洗いに誘った時、特にお手洗いに行く必要がなくてもついて行く人ばかりですので。

 どうやら違ったようですが、気にせず私はベッドから起き上がり、エリーと共に食堂へとお邪魔する事にしたのでした。


 幸いにして、時間帯がお昼時に差し掛かっていた事もあり、私とエリーは食堂でごちそうしていただける事になりました。

 トレイにお皿を載せておばちゃん達がよそってくれた食事をもらい、空いている席へと移動します。


 今日も今日とて、女性騎士舎の食事量はたっぷりですね。

 さすがに騎士の訓練ともなると、しっかり食べて栄養を摂らなくては務まりませんからね。

 イオ様のようにしっかり動け、かつ豊満な女性らしい肉体を手にする為にはこれぐらいの量は食べきらなくてはならないのでしょう。


「……これでも少ない方なのですわね……」


 エリーは私とは違い、イオ様に近い肉体の持ち主ですから多く食べると思っていたのでしょう。大盛りにしようとしたおばちゃんの勢いに負けじと少なめでと訴えていましたが、それでも量が多いため驚いているようです。


 私は元々が少食過ぎて、バランス良く――けれど初めてここで出された量よりも確実に増えたお皿を渡されています。

 お肉様さえあればいいと思っているのか、お肉料理はしっかりと盛られていますね。


 まったく……よくお分かりですね。

 いざ、しっかりとお肉様を堪能させていただきましょう。


 食べるのが遅い私とは違い、エリーは優雅にカトラリーを使い分け、少量ずつですがそれなりの早さで食べます。

 量が一緒であれば確実に私の方がゆっくりと食べている事になるでしょう。

 お肉様を堪能している最中、何故かエリーが微笑ましげに目を細めてこちらを見ていましたが、羨ましいのでしょうか。


「お肉様のおかわりできますよ? おかわりしても残すと怒られるようですが」


「なんでもかんでもお肉に関連付けて思考するのはやめなさいな……。いりませんわ」


「そうですか」


 今日のお肉様はなかなかにスパイシーな味付けで、少食な自分が恨めしい程です。

 私としては満足するまでお肉様尽くしを堪能したいのですが、お肉様だけをおかわりするのはおばちゃん達に止められてしまっていますからね。

 そう考えると、あの高等科新入生歓迎パーティーの時間はなかなかに至福でした。


「ルナの体調に問題はないのよね?」


「問題ありません」


「そう、なら良かったわ。――ほら、近い内に学園行事があるでしょう? もしも参加できなかったらどうしようかと思って」


「学園行事、ですか?」


 そのような話は一切聞かされていませんが。

 小首を傾げる私を見て、エリーも私が知らない事を察したようで、「あぁ、そうだったわね」と何かを納得した様子で手を叩きました。


「王都から南西に背の低い山があるでしょう? あそこに合宿するのよ」


「魔物が出ると聞きましたが?」


「えぇ、そうね。だから事前に赤竜騎士団が間引きして、学園の騎士科生徒に実戦経験を積ませるの。今年は魔物の暴走(スタンピード)が予測されるから中止になると思っていたのだけれど、そういう訳にはいかなかったみたいね」


「危険を冒してまで行事を行う意味があるのですか?」


 普通に考えても、現在は危険な状況です。

 町中ならば籠城する事も可能ですが、この状況で素人が魔物のいる環境に足を運ぶなど、危険に自ら飛び込むようなものではないでしょうか。


 そう考える私と同様にエリーもそうは思っているようですが、ため息を零してから続けました。


「あそこは魔物をしっかりと間引いているし、赤竜騎士団も実戦訓練の野営場として利用していて、安全かどうかが確認できているの。だからこそ、ね。魔物の暴走(スタンピード)が想定以上の大きさだった場合、学園の生徒も予備軍として戦いに参加するケースがあるの。だから、その前に実戦経験を積ませておきたいって腹積もりみたいよ。学園の生徒全員で、ね」


 ふむ。騎士科の生徒だけではなく、学園に所属するほぼ全ての生徒が対象ですか。


「騎士科以外には必要ないのでは?」


「そういう訳にはいかないのよね。アヴァロニアは魔物と戦う国だもの。戦闘技能がなくても生きる知恵がなければ、いざという時に意味がないわ。それは向き不向きなんて関係ないわ。それに、何も戦闘だけが魔物との戦いに必要という訳じゃないわ」


「そうですね……」


「魔物に襲われる緊張感や恐怖心といったもので、いざという時に拾える命すら拾えない事がないよう、体験し、体感しておく事。元々はそういった目的で行われる行事だからね。けど、特に今年は中止の声と同じぐらいに、早急に行うべきだという声もあがっていて、学園としても悩みに悩んだ結果の行動でしょうね。魔物の暴走(スタンピード)が本格化する前に行う方向に舵を切ったみたいね」


 そういえば、魔物の暴走(スタンピード)現象後は魔物の生息圏や分布が変わると本で読みましたね。

 そうなると、学園の行事として行うのであれば分布調査が終わってからになってしまいますし、かと言ってそれを待っている間に暴走(スタンピード)によって生徒に被害者が出てしまえば、それを理由に責め立てられかねません。


 どちらにせよ、早急に行動してしまった方がリスクは低い、と。

 そう判断したのでしょう。


「幸い王都からそう離れていないし、そこなら赤竜騎士団も警戒ついでに護衛を出せるって話でね。それでも例年より騎士の護衛人数は減ってしまうのだけれど……そこで、冒険者を雇って護衛を補充するっていう話になったみたいね」


「冒険者ですか」


「えぇ、そう。まぁ赤竜騎士団の騎士程ではないにしても、実戦経験のないわたくし達に比べれば、十分に戦力になるわ。そう考えると悪くはない方針だと言えるわね。でも、同時に注意が必要になるとも言えるかしら」


「注意とは?」


「彼らはお金の為に仕事をしているのだから、いざという時に生徒をどうにかして守ろうとはしないでしょうね。命あっての物種と言うし、護衛の任務で逃げるなんてと言いたいところではあるけれど、そこは強く咎められないわ。でも、ただ逃げるだけならともかく、生徒を囮にして逃げるような連中だったら話は違ってくるわ」


 言われてみればそれもそうですね。

 どことなり勝手に逃げてくれる分には私も構いませんが、エリーや私の知り合いを巻き込むような事態でそんな真似をされたら――さすがに私も怒ってしまいそうです。


「エリーを囮に逃げるような真似をする冒険者ならば、処分しても構いませんね。逃げる前に大鎌を投げてしまいましょう」


「……わたくしを想ってくれての嬉しい言葉だとは思うのだけれど、言っている事が物騒過ぎてなんだか喜べないわ……」


 そういうものでしたか。

 私としては妙案だとさえ思うレベルの冴えた方法ではあったのですが、エリーとしてはあまり喜ばしくないようです。


「それより、ルナ。いよいよ明日から魔法陣と魔道具作成に入れるわよ。わたくしはあなたのパートナー兼助手として、日常的に便利そうなものを考えるつもりだけれど、ルナはどうかしら?」


「どう、と言われると困りますね……ただ――」


 古代精霊語が読めるとは言っても、私が知っているのは本で書かれていた内容に加えて推測によって解析した文字に過ぎません。限定的な効果を“式”として書き足すには、おそらく正確な文字が必要になりますし、ものによっては発動しないという事も起こり得るでしょうし。


 あとは、素材という点でも色々と必要になるものがありそうですね。

 魔力を扱う素材と言えば魔石――いわゆる魔力を含んだ不思議な鉱石――になりますが、それを外に逃してしまったり、あるいは伝導率の悪さで利用目的に届かない効果しか出ないとなると、なかなかに厄介です。


 そう考えると、魔力に耐性のある代物を使う必要性があるのですが、特殊な金属である魔鋼であればともかく、布や糸、服などを魔道具化してしまえば日常的に使ったりもできそうな気がしますし。


 色々思考を巡らせた結果、私は手をポンと叩きました。


「――とりあえずエリー、冒険者になりましょうか」


「どうしてそうなったんですの!?」


 色々考えたからです。


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