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人形少女は踊らない  作者: 白神 怜司
Ⅲ 人形少女と二人の神子
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3-3 魔装の”解放” Ⅱ

本日2話目の更新です。

前話を読んでいない方はお気を付けください。




「――……魔装に訊けば、分かる……?」


「魔装は契約精霊の力が具現化したものと言われていますが、厳密に言えば少々違います。魔装は“契約者の思い描く力”を精霊の力によって具現化したものだそうです。つまり、魔装の形状や力というものは、契約者と契約精霊次第で変化する事が可能なようですね」


 もっとも、私の場合は精霊との契約によって生み出した魔装ではありません。

 アルリオの言うところに拠ると、私の魔装は正確に言えば『生と死、破滅による再生』を司る月女神ルナリアが持っていた武器です。それを神子として生まれた私が生まれ持っていた『神の因子』とやらによって顕現させているのが、私の魔装です。


 そんな私の魔装と、一般的に契約精霊の力で具現化する魔装。

 これらは根本的に異なる存在ではあるのですが、結局のところ『具現化してはいるが、その形状に捕われる必要はない』というのは共通しているようです。

 アルリオにも訊ねた事があるので、間違いないでしょう。


 そもそもの話ですが、『下弦の月』というのは魔装の名前ではありません。

 正確に言えば、「大鎌である私の魔装が、『下弦の月』という形状である」と表現するのが妥当でしょう。

 大鎌の湾曲した刃が月のようであり、その見た目から名付けただけですから。


「――という訳ですので、私に訊ねるのではなく、契約している精霊とパスを通してやり取りしながら試行錯誤した方が早いのでは?」


 それらの事をつらつらと語っていると、皆さん揃って動かないまま頭を抱えていました。


「……おいおい、マジかよ……。そんな話、聞いた事ねぇぞ……?」


「つまり、伝説となった魔装の“解放”と呼ばれる力は、そもそも誰もができるのにできる事に気が付かなかっただけ、なのか……?」


「その通りでしょうね。私はてっきり、皆様が自分の魔装を一番気に入った形状で固定化しているだけだと思っていましたが」


 そもそも私が何故この事を知っているかと言うと、魔装を出した当初に大鎌という見た目が気に入らず、アルリオにどうにか形状を変えられないのかと訊ねたのが、魔装の形態変化について知っていた理由です。

 まぁ残念ながら私の魔装はベースとなっているものが存在しているだけに、形状はあくまでも大鎌から変わるという事はないようですが、皆さんなら色々と試せるのではないでしょうか。


「……ルナ、知っていたの……?」


「形を変えられるという点についてなら、知っていましたが?」


「なら、教えてくれたって良かったじゃねぇか……!」


「訊かれませんでしたので」


「……そりゃそうだわな」


 そもそも知りたがっているなんて、私は知りませんでしたし。


「ルナ嬢ちゃん、さっき言ってたパスってのはなんだ?」


「契約者と契約精霊の間に繋がる線のようなものでしょうか。意識してみれば分かるものだと思いますが。分からないようなら魔装を手に持っている状態の方が感じ取りやすいそうです」


「なんだと……!? って、ここじゃ狭いな。訓練場に出て魔装を使って試してみるか」


 なんだかそういう事になったようですので、私達もレイル様に連れられて騎士舎の外にある訓練場へと移動する事になりました。


 どうにか歩いている間にも感じ取る事はできないものかと、エリーや他の皆さんも先程から無言で唸りながら歩いています。

 この光景だけを見る事になった方々が、どうにも怪しい集団を見るような怪訝な目を向けてきたりもしていますが、誰も気が付きませんね。


『ルナ様ルナ様っ、僕も何かお手伝いしましょーかっ!?』


『アルリオが手伝う事でどうにかできるものなら構いませんが……、アルリオはあまり人を手伝う事をしたくないのでは?』


『そりゃ嫌なものは嫌でしたけどーっ、でも今は違うんですー! ルナ様の手伝いになるなら、人の為に何かをするのも吝かではありませんからっ!』


 ふむ、何やらやる気に満ち溢れているようですね。

 以前までは私が何かを頼まない限りは自分から人と関わらないようにしていたのですが、変われば変わるものです。


 フラム様達と話し合いをして以来、どうにもこうしてアルリオが自発的に私の事を手伝おうとしているのか、声をかけてくる機会が増えました。

 何故かやる気に満ち溢れているのは結構なのですが、私としてはアルリオの正体をひけらかすつもりはありませんし。


 エリーと創世教のフラム様やロレンソ様に正体を明かしたのは、あくまでも釘を刺すのが目的だったからに他なりません。

 フラム様の態度におかしな所は感じませんでしたが、どうにもロレンソ様は妄信的に神に近づこうとしていると言いますか、神に近づく事が目的と言うよりは、どちらかと言えば『何かの目的の為に神に近づきたい』という意思が見え隠れしていました。


 あの瞬間に私が感じたのは――嫌悪感、という代物でした。

 私自身、何故あそこまで強く否定的な態度を取ったのか、敵対する意思を固めたのか。

 正直に言うと、自分でも理由についてはいまいち判然としない部分があります。


 ただ、どうにも放っておいてはいけないような気がしたのです。

 気のせいと言えば気のせいだとも思うので、特に私自身気にしてはいませんが。


『――ルナ様?』


『あぁ、いえ。少し考え事をしていました。――では、アルリオ』


『はいっ!』


『大人しくしていてください』


『任せてくだ……えっ?』


『あなたが介入してうまくいったところで、他の人が自分もと押し寄せてきても面倒ですので。誰でもできる事なら、いちいち手を煩わせる必要もないでしょう』


 エリーやアラン様、それにイオ様やアリサ様に力を貸すというのは私も否やはありませんが、私の周りだけがうまくいき、他では成功しないとなると、余計な勘繰りやちょっかいが増えかねません。

 今そんな事になれば、創世教が騒ぎに乗じておかしな動きを見せないとも限りませんし、警戒するに越した事はないでしょう。


『それにアルリオ。私の為だからと言って、嫌な事までする必要はないのですよ』


『ルナ様……! ありがとうございますっ!』


 はて、何やら感極まったような勢いで御礼をしてきましたが、どうしたのでしょうか。

 単純に、嫌な事はしなければいいだけの話なのですが。


 そんな念話をアルリオと飛ばし合っている内に、訓練場へと辿り着きました。


「さて、早速試してみるか。ルナ嬢ちゃん、気になる事があったら遠慮なく言ってくれや」


「はい」


 レイル様のそんな言葉を皮切りに、皆さん揃って魔装を具現化し、意識を集中させるように目を閉じました。


 先程までは周りから怪訝な目を向けられていたものですが、今度は一周回って興味を惹かれたのか、こちらを窺うように見つめてくる人もいますね。

 赤竜騎士団団員達がコンラッド先生に声をかけようとして近づきましたが、真剣な表情である事に気が付いたのか、今は遠慮してくれたようです。


 契約精霊とのパスは、私がアルリオに感じて取れるものよりも細いのかもしれません。

 アルリオを眷属として迎えた時、私には明確にそれが感じ取る事もできましたし、苦労した事はありませんでしたが、何やら皆さん揃って動かないまま、時間ばかりが過ぎていきますね。


 暇なので、私も色々と魔装の形態変化を試していきます。


 まずはシンプルな大鎌状態の『下弦の月』。

 大鎌と私の居場所を入れ替える、【幻月】という技ですが……これはおそらく、魔装の形態変化ではありません。

 むしろ、私の左手に持つランタンが可能とさせている特殊な力だと考えられます。

 普段は金色に揺らめくランタンの中の光が蒼く輝いたりもしていますし。


 これが使えると感覚的に理解できたのは、エリーを救出した後の事でした。

 エリーを助けた時、ランタンが輝いて、淡く光る球状の何かを吸い取るような動きを見せていましたが、それによって“【幻月】が使える”という感覚が強まった、と感じたのです。


 まだまだ謎の多いランタンの持つ能力については、もう少し調べなくてはなりませんね。

 もっとも、アルリオに訊ねても答えは持っていなかったようですし、手探りで調べ続けるしかないのでしょうが。


 そんな私の魔装の形態変化は、『大鎌をベースにしたもの』から離れてくれません。


「――廻りなさい、『満月』」


 これが私にとっての正真正銘の形態変化でしょう。

 大鎌の湾曲した刃がぐるりと一周し、長柄の部分が中心部を繋いだ代物。円の中に線が一本入ったような姿です。大鎌を投げるよりもこちらを投げた方が、全方位に刃がついているだけに殺傷能力は高そうです。

 円月輪と呼ばれる武器によく似ていますね。持ち手が中心部にしかありませんが。


「――穿ちなさい、『弦月』」


 続いて、大鎌の刃を上下に携えたような弓へ。同時に、手に持つランタンの持ち手が私の腰に巻き付きました。ランタンの上部、普段は鎖が生えているその場所には青白い炎が矢のような形となって揺らめく、奇妙な矢筒となっています。

 まだ試した事はありませんが、正真正銘の遠距離攻撃用の形態変化でしょう。


 それぞれの形態に【幻月】のような技があるらしい事は分かるのですが、未だに使えた試しはありませんし、なんとなくですが使えるようになるにはまだまだ“足りない”という感覚もあります。

 いずれは使えるようになってみたいものですが。


「――できましたわッ!」


 ふとあがった声に視線をあげてエリーへと振り返ると。

 そこにはいつもの細剣ではなく、緑がかった光を放ち、風を纏った不思議なショールを肩にかけたエリーが立っていました。


 ……武器だけではなかったのですね、魔装の形態変化って。


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