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人形少女は踊らない  作者: 白神 怜司
第二章 人形少女と悪役令嬢
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2-25 決戦 Ⅱ

 夜会ではない、夜会。

 そんなコンセプトで開かれる高等科新入生歓迎パーティーは、まるで本物のパーティーさながらといった具合に綺羅びやかで……目に痛いです。


 貴族階級では当たり前のように行われているらしい、ビュッフェスタイルの食事。

 十五歳で大人として認められる事もあり、ワイン等も当たり前のように置かれていて、早くも酔っ払ってしまっているらしい男子生徒の姿もちらほらと見えていますね。


 そんな中、エリーが歩けば周囲がざわりとどよめき、会話という会話が一瞬途切れてしまう程に見惚れているのが見て取れます。


 あ、そこの人。ちょっとそこのお肉残しておいてください。後で行きますので。

 エリーのついでに私を見なくてもいいので、お肉確保しておいてください。


「フフフ、ルナ。あなたもなかなか人気みたいね」


「は? 何がですか?」


「……あなた、今お肉しか見てなかったでしょう?」


「私の戦場はあちらのようです」


「違いますわよっ!?」


 美味しいお料理との出会いは一期一会ですよ、エリー。

 もっとも、私はどちらかと言うと作るより食べたい派ですが。


 ともあれ、エリーの言う通りもう少し周りを見ておく事にしましょう。


 エリーが言っていた「ドレスとは己を飾る為のもの」というのは、確かにこういう場においては正しい言葉なのだと実感させられますね。

 ドレスばかりが流行りを追っているのか、本人には全く似合っていない方もいれば、地味で古びたものでも自分に似合っているとよく理解しているのか、リメイクしたらしい方もいらっしゃるようで、それはそれでオシャレに着こなせているように見えます。


「しかしまぁ、色とりどりと言いますか……」


 統一感がないせいか、どうにも全体像で見ると印象がぼやけてしまうと言いますか。

 どうにもあまりよろしくない感想が浮かぶ私を見て、エリーが苦笑しました。


「夜会では流行りのものをいかに自分に合わせてコーディネートするかが一般的だから、こういう風にはならないわ。ドレスの形、デザインは大抵が同じようなものになるわね。だからこそ、自分らしく似合ったものにできているかが余計に際立つとも言えるけれど」


「大変なのですね」


「他人事のように言うけれど、ルナ。あなた、魔法陣の解明とその他もろもろの功績で自分が叙爵する可能性を考えてありますの?」


「私は元奴隷ですよ?」


「元、でしょう? 貴族だってどこまでも元を辿れば犯罪者や平民も、それこそ奴隷だっていてもおかしくないでしょうに。少なくともアヴァロニアはそんな些事に固執して優秀な人材を野放しにする程、甘い国ではないわよ?」


 私が貴族ですか……いえ、無理ですね。

 私には貴族ジョークのなんたるかも分かりませんし、辞退させていただく事になるでしょう。


 そんな会話をしつつも、私達も残念殿下達と対峙する前に軽く食べ物を口にしておく事にしました。

 早速お肉様を何枚もお皿に盛っておきます。

 見た事のない調理法を使っているのか、それともお肉様との初めての邂逅となるのか、いずれにせよ興味が尽きませんね。


「まったく……。ルナ、目的は忘れていませんわよね?」


「ふぉふふぇひ?」


「淑女らしくなさいな。ほら、ソースがついていますわよ……って、そんなに乱暴にしちゃダメよ。化粧が崩れますわよ?」


 高級そうなハンカチで私の口元を拭うエリーは柔らかな笑みを浮かべていましたが、直後に入り口側から聞こえてきたざわめきと黄色い声に、表情をすっと消しました。


「来ましたわね」


 エリーの視線を追いかけるように入り口へと私も視線を向ければ、そこには残念殿下とジャック様にシリル様。そしてヘンリーさんの片割れであるヒースさんと、中性的少年風のロレンソ様の姿がありました。


 こうして騒がれている姿や、堂々と歩いている姿を遠巻きに見る分には、確かに貴公子然としている華やかな集団にも見えるのですが、私の中では最底辺の評価が軒並み並んでいますので、キャーキャーと声をあげる女子生徒達を見ていると、どうにもその興味は“観賞用”といった雰囲気に見えてきますね。


 そんな残念殿下御一行の後ろからやって来たのが、アメリアさん。

 そしてその横には、アメリアさんが慕っているであろう事が伺える程度には親しげに話し込んでいる、エレオノーラ様がいらっしゃいました。


「最後まで隠れてやり過ごすかと思いましたが……」


「ルナが言った通り、今向こうの外側の求心力は下がっていますもの。わたくしと違って身分や性別の垣根なく人気がある以上、ああしてジェラルド様やアメリアさん側にいれば、それを補えると踏んだのでしょうね」


「では、向こうは方針を変えるつもりはない、と」


「そうなりますわね。早い段階でわたくしを追い込み、自分の立場を確固としたものにしておきたいと内心では焦っているのでしょうね」


「……なるほど。つまり、予定通り(・・・・)、ですね」


 先程までの柔らかな印象から一転して、お嬢様らしい言葉遣いで冷たく言い放つエリーが鋭い目を向けていましたが、私の一言に笑みを隠すように扇子で口元を隠しました。


 こうしてエレオノーラ様が表舞台に出ざるを得なくなった事は、エリーにとっては狙い通りに事が運んだ証左でもあります。


 エリーが誘拐された件については、世間に公表された訳ではありません。

 ただし赤竜騎士団が動いた事や、ファーランド公爵家と親しい家は誘拐されたという事実を掴んでいます。

 シリル様の暴走によるものですが、赤竜騎士団が密かに黒幕を探っているという情報をばら撒き、敢えてシリル様やエレオノーラ様にもその情報を掴ませ、精神的に追い込むという策です。

 エレオノーラ様を表舞台に引きずり出すには好機だと考えた陛下とエリーが相談した結果、見事にこうして実を結んだようですね。


 同時に、シリル様を誘導して暴走させたエレオノーラ様ですが、今回、公爵令嬢の誘拐にまで発展した今回の騒動のおかげ――というのもおかしな話ですが、陛下とローレンス様は背後関係について本腰を入れて動けるという口実を手に入れました。


 アメリアさんの家であるリファール家、エレオノーラ様の家であるランベール子爵家についても、アリサ様のお兄様であるチェスター様率いる〈影狼〉が色々と調べてくれました。

 結果として、アメリアさんは“勘違いお花畑少女である”という調査結果。

 エレオノーラ様に至っては、アメリアさんとは違う方向での“勘違い少女”という辛辣な評価と家の背景を掴んであります。


 エレオノーラ様はエリーを蹴落としつつ残念殿下とアメリアを応援し、王家の庇護を得ようと画策しているようですが、そもそも今回の一件が暴かれてしまえば御破算という訳です。

 赤竜騎士団が犯人――つまりシリル様に辿り着いていないフリをしている事には気付いていないエレオノーラ様が、このパーティーで決着をつけたくなるのも無理はありません。


「ルナ、今日の騒動で口出しは無用ですわよ?」


「エリーが全て受け持つ、と?」


「さっきも言ったけれど、わたくしは人気がないし、“悪役令嬢”らしく決着をつけますわ。他の生徒は今後、わたくしを恐れる事になるでしょう。そこにあなたを巻き込みたくないもの」


「……まぁ、善処はします。――もっとも、人気がないというのはエリーの勘違いだと思いますが」


「……? 善処してくれるのなら、それでいいですわ」


 ぽつりと呟いた一言は届いていなかったようですが、無理に伝える必要もないでしょう。

 エリーは自分の人気がないと思い込んでいるようですが、そんなあなたを見て顔を赤くしつつ目を輝かせている女子生徒が割とすぐそばにいるのですが、気付いていないのでしょう。


 どうも白百合寮で見かけた事のある生徒のようですし、白百合寮での騒動で残念殿下派からエリー派に移った生徒でしょう。


 実は無口(クロ)さんから聞いたのですが、白百合寮での騒動以降、残念殿下に対するファンの一部が熱狂的なエリーファンになっているそうです。

 美しさと気品の高さ、平民であるアメリアに対して陰湿な真似もしなければ、よくよく聞いてみれば残念殿下こそがしっかりとルールを教えてあげるようにと、アメリアさんが恥をかかないように手を回す素振り――に見えるようです――が、孤高でありながら気高い『薔薇姫』と呼ばれ始めているらしいのです。


 ちなみにそんなエリーと一緒にいるせいか、私は『殲滅姫』などという物騒な呼び方をされているそうです。どうも私の魔装である『下弦の月』の見た目が広まったそうで、さながら私は『薔薇姫』の護衛にして処刑人なのだとか。


 まぁ、あながち間違った評価ではありませんね。

 実際私はエリーの近くで騒動を見つめる護衛のようなものですし、つい先日、実際にエリーに手を出した方々を殲滅しましたので。


 生徒が集まった事を確認し終えたのか、出入り口の大きな扉が閉じられ、音楽科の生徒達の演奏が開始します。


 色々な意味でのパーティーが、今、始まりました。


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