表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形少女は踊らない  作者: 白神 怜司
第二章 人形少女と悪役令嬢
33/76

2-5 始まる学生生活 Ⅰ

 アヴァロニア王国王立学園高等科は、授業を選択して単位を取る必要があります。

 選べるものは数多く、その中でも細部に分かれてクラスが存在しているようです。

 たとえば『騎士科』がありますが、これには更に近接戦闘向けクラスと、遠距離戦闘向けクラス、または補助支援系クラスなど、そういう風に枝分かれしている、という事です。


 基本的にエリーと行動する必要があるとなると、選択するべき科目はエリーと合わせる必要があるのですが……。


「――殿下はもちろん、高位貴族家出身の者は少なからず騎士科を選ぶものです。だからルナ、騎士科だけ選んでおいてくれれば、あとは自由に決めてちょうだい。わたくしはあなたに合わせるわ」


「私に合わせるんですか?」


「わたくしは王妃教育で必要な勉強は全て王城で修めてあるもの。それに……」


「それに?」


「……その、これからの三年でやりたい事を見つけられるかって訊いてきたのはあなたですのよ? 今までは王妃教育だけを最優先してきたから、その、何をどうすればいいのか……」


 どこか恥ずかしそうに耳まで赤くして、もじもじとしながら理由を教えてくれるエリーに、私は確信しました。

 この御方、凄く可愛らしい性格をしているのだな、と。


「――やはり潰しましょう、殿下を」


「話が飛躍し過ぎですわよっ!?」


「失礼しました。ですが、なるべくなら殿下と不愉快な仲間達が同じ講義にいない方が良さそうですね」


「え? 何故ですの?」


「エリーにとって、授業が面白くないものになってしまいますから」


 せっかく王妃以外の道が開けたのですし、これ以上わざわざ苛立つ相手と共に行動する事などないはずです。好きな事が分からない、見つからないのに、苛立つ相手と共にいては好きなものさえ嫌いになってしまうかもしれませんからね。


「ルナ……」


「私としては、魔法と魔道具が気になっていますね」


「魔法と魔道具、ですの?」


「はい。契約精霊の力を借りずとも、魔法を強くする方法はないのか。それに、魔道具には魔石という特殊な鉱石が必要ですが、それを核に魔法陣を刻印して効力を発動させていますよね。なら、魔法と魔道具は密接な関係にあるのではないでしょうか」


「……そんな風に考えた事なんて、ありませんでしたわ……」


「そうですか? 普通に考えれば、魔法と魔道具――いえ、むしろ魔法と魔法陣、と言うべきでしょう。この二つは非常に近い性質だと思いますが」


 私達が使える魔法というものは、契約精霊がいなければ戦闘で使えない程度の弱いものとされています。

 ですが、アルリオ曰く「現代の人間の魔法はしょっぱい」だそうです。

 詰まるところ、契約精霊に頼らずともそれなりに魔法が使えるようになる可能性は非常に高いので、そちらを研究したいと思っています。


 もう一つの魔道具についても、実はアルリオから教わった情報が基になって興味を抱いたものです。

 というのも、今存在している魔道具とは、かつて存在していた超古代遺物(アーティファクト)を解析し、劣化させたものが主流でしかない、との事です。

 要するに、現在の魔道具は「新しい物を創造する」ではなく、「過去の物を使いやすくする」でしかないようで、その品質も超古代遺物(アーティファクト)に比べてどんどん劣化しているのだとか。


 それらを掻い摘んで説明してみたところ、エリーはひどく真剣な面持ちで顎に手を当てて考え込み始めました。


「……そう言われてみると、確かにその通りですわね……。でも、新しい物を作るなんて難しいのではなくて?」


「難しいからと言われて諦めていては、やりたい事を見つけられないとは思いませんか?」


「――……そう、ですわね。確かに言われてみれば、その通りですわ」


 卒業単位についての科目は騎士科、魔法研究科、魔道具研究科の三つでも足りますし、エリーも思っていたよりも興味を持ってくれたようですので、この三つで確定でしょう。


「騎士科は教師や教官がいてくれるそうですが、魔法研究科と魔道具研究科についてはほぼ自習という扱いになるそうですが、大丈夫ですか?」


「そうなの?」


「正確に言えば、研究班を作ってそこで独自にテーマを決め、それを決められた期限で発表する、というものが主流になるそうです。一応見回りのスケジュールを教師の方で決めてくれるそうですし、その時間以外は教師の方も自分の研究室にいらっしゃるそうですので、訪ねて質問するような形になるみたいですね」


「ふぅん、面白いですわね……」


「既存のものを学べばいいというものではありませんからね。教わるだけでは意味なんてないのでしょう」


 どちらかと言えば高等科と言うよりは、研究室予備軍といったところでしょうか。

 成果が出ずとも、しっかりと研究していると認められれば単位はいただけるそうですし、そこまで気負わずとも良いという楽な点もあります。

 まぁ、そういった気質でもありますので、どうしても所属している生徒数は少ないようですが。


 そんな風にして相談をしたり、エリーと私のお互いのこれまでを話したりと、高等科の入学日は刻一刻と近づいていき――――。




 ――――ついに、入学の日を迎えました。




「……これと言って目新しい事はないのですね」


「いくら新学年の始まりとは言っても、だいたいの生徒が初等科か中等科から在籍しているもの。大掛かりな式典とかを催す事はないわね」


 朝からわざわざ私の部屋に寄ってくれたエリーと一緒に学舎へと向かいつつ、そんな話をしながら歩きます。この数日でだいぶ話し込むようになったおかげか、エリーの口調もお嬢様口調からは幾分か砕けたものになってくれました。

 私は変わっていませんが。


 私が住んでいる『白百合舎』は比較的学舎からも近いので助かりますが、他の宿舎はかなり離れた場所にもあったりするので、同じ敷地内でありながらも遠いという、なんだかよく分からない状況に陥りそうですね。


 この休みの間に所属する科に申請は出してあるので、スケジュール表も渡されています。

 決められた授業時間に出席し、空いている時間は自由時間、という形ですね。


 そんな私達の本日一度目の授業は、騎士科での授業です。

 希望する科の中でどのクラスに入るのか。それとついでに実力確認の試験が行われるため、騎士科に入る生徒は今日一日拘束される形となっています。


「ルナは騎士科では何を学ぶつもりなの?」


「そうですね……。私の場合は……――」


 私が持つ〈才〉は【滅】で、契約しているのは精霊ではなく天使のアルリオです。

 なので、この休みの間にアルリオに何ができるのかを確認してみたのですが……。


 ――「僕にできる事、ですか? 基本的に精霊も従えられるので、どの属性でも使えますよっ!」との事。


 要するに、私の契約精霊ではなくとも、アルリオを介してしまうと全ての魔法が軒並み契約精霊持ちの威力を発揮してしまう事になりますので、遠距離戦闘型になるのは憚られるのですよね。


「――近接戦闘を学んでみようと思います」


「あら、そうなの? ルナは小柄だからあまり向かないと思いますわよ……?」


「力では及ばずとも、技でどうにかできると聞きまして」


 アヴァロニアへとやって来る際に魔物を投げ飛ばした事もありましたが、イオ様とアリサ様、それに赤竜騎士団副団長のレイル様にも言われたのですが、どうやら私は目が良いそうなので、近距離戦闘技術を磨いた方が良い、との事でした。


 ――「だってルナってば、【滅】で敵の武器消せちゃうじゃない」とはアリサ様の言でした。


 というより、体術をしっかりと学んで距離を取り、アルリオと一緒に攻撃に移れるようになるのが理想ですね。なので、基本的には防御面を鍛えるという形でしょうか。


 ――――なんて、思っていたんですけど、ね。


 まさか私の魔装があんな事(・・・・)になると知らなければ、そういう純粋な気持ちだけで護身術を学ぼうとしたりもしたかもしれません。

 非常に残念ですが、私の魔装を見たイオ様とアリサ様、それに私を知る面々は「ルナは近接戦闘決定だね」と口を揃えて言いましたからね……。


「護身術を学ぶ女性も多いし、悪くないのかもしれないわね」


「エリーはどうするのですか?」


「私は昔から細剣術を学んでいたから、これね。契約精霊も【風】だから、速度を重視した戦い方を得意としているの」


 そう言いながら制服の腰に提げた細剣を見せてくれます。

 鍔はまるで薔薇の花をモチーフにしたかのような造りで、鍔より下の部分をスウェプトヒルトと呼びますが、握りにつけられた護拳は薔薇の茨がモチーフになっているのか、ずいぶんと綺麗な造りになっていますが棘が……あれで殴りつけたら刺さりそうですね。


「強そうですね」


「……あのね、ルナ。あなた、完全にこの護拳を見てその感想を口にしたでしょう?」


「刺さりそうだな、と」


「……まぁ、状況によってはそうやって使う場合もありますわね」


 やはりですか。

 意外と怖いんですね、細剣。


 アヴァロニアで細剣の扱いは、どちらかと言えば対人用や儀礼用に使われる事が多いと聞きます。

 細剣の強みは刺突攻撃とも言えます。もちろん斬撃も可能ですし、十分な威力を発揮できますが、魔物が相手では、刺突と同時に剣が抜けなくなるリスクも高く、ヒットアンドアウェイといった戦法がどうしても難しいです。だったら、最初から斬撃に特化し、重量で押し切れるような剣の方が合理的、という考えみたいですね。


 とは言っても、そんな細剣で魔物を斬り裂くイオ様という例があるため、結局のところは人によると言うべきでしょうか。

 イオ様は「刺突はトドメを刺す時に使えばいいだけじゃない~」と朗らかに語っていましたが、そういうものなのでしょうか。


「――ルナ、あれが騎士科の訓練棟よ」


 ついついイオ様とのやり取りを思い出している内に、その建物は見えてきました。

 大きく、白を貴重にしたどこか無骨な角張った建物。

 室内でのトレーニング用に地下にも訓練場があるとは伺っていましたが、その大きさはかなりのもののようです。


 ともあれ、ようやく私の学生生活が始まろうとしている訳ですね。


『……あのー、ルナ様……? なんだか殺気というか、どす黒い何かが溢れているような……あ、ハイ。なんでもないです』


 アルリオからよく分からない念話が届きましたが、無視でいいでしょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ