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エルフのゼフィール

 いくら月の青白い光がしらしらと木々の隙間から差し込むさまが美しかろうと

 秋の風がそよそよ身体を優しく撫ぜようと

 どこかに潜んだ虫の音がりーん、りーんと心地良く耳に響こうと


 二時間も真夜中の森の中で来ない獲物を待ち続けていると流石に飽きてきてしまう。はぐれエルフのゼフィールは愛用の狩猟弓を横にそっと置いて、自分はすっかりヒューマンたちのペースに慣れてしまっていたんだなと心の中でため息をついた。


 年の頃は数えで40…より先は数えていない。

 300年、長い者では500年は生きるエルフにとって、40というのは子供の年齢だ。実際、外見はいまだ人間の14、5歳といった風体だ。その凹凸のない平坦な身体のせいで人間たちからは子供扱いされることが多々あった。


 幼い頃は反発を覚えたものだが、自分たちエルフの群れが、なぜ、多種族と関わらないように大森林の中を放浪し続けていたのか、現在になって振り返ればその理由がよく分かった。


 ヒューマンの一生は短い。少なくとも300年は生きることのできるエルフがヒューマンたちの社会で過ごすと、50年かそこらで心が老け込んでしまうのだ。

 かつての友が皆墓石の下に入ってしまっても、エルフである私たちはそこから更に250年生きることになる。


 溜息をつく。


 しかしだからと言ってゼフィールはもう退屈な森の生活には戻れそうにはなかった。

 王国の王位継承権争いに端を発する戦争に次ぐ戦争に嫌気がさして大森林の中に戻ってきたゼフィールだったが、早々に喧騒と愛憎と利害にまみれた人間社会へ戻りたくなっていた。


 そういえば私が大森林を抜け出したときもこんな風に退屈に耐えかねてじりじりしていたんだったっけ。


 ◆◇◇◆


 ゼフィールが18歳のときの唯一の楽しみは、たまに来る行商人から人間世界の噂話を聞くことだった。

 北方に新たに生まれた身の丈以上の大剣を自在に操るドラゴンスレイヤーの英雄譚だとか、都市で奴隷とされていた亜人種が蜂起して新たな国を建てたとか。


 森の中で定住することなく木のウロや洞窟を転々とするエルフの生活に比べて、人間社会のなんと劇的で煌びやかなことか。


 行商人が手土産で持ってくる砂糖菓子の蕩けるような甘さ。聞けば子供の食べるような安物だという。コレが子供騙しだと言うのなら、大人のニンゲンはどれほど美味いものを食べているのか。思わず行商人の荷物の中に紛れて集落から抜け出してきたとして、なんの咎があるというのか(いや、ない!)。ゼフィールは退屈を持て余して自分の過去を振り返る。


 そういえば、樽の中の私を発見したときのあの商人の顔は傑作だったな。いや、今思い出しても笑えてくる。身体が子供だからなのか、心は老け込んでも笑いの沸点は低いままだ。いかんいかん、これでは立派な大人のレディになれはしない。


 未だにしばらくの間一緒に過ごしたあの男に色仕掛けをしかけて子供扱いされたことは忘れてはいない。絶対に妖艶な美女になって見返してやるのだ(やるのだ!)。そのころにはあの男はすっかりよぼよぼ老人だろうけど。エルフ基準でいくと、ついこの間のことなんだけど懐かしいなぁーーーー





「ーーお前、そんなとこに隠れて何してるんだ?」


 馬車の中の樽に潜んでから三日ぶりに蓋が開いた。

 差し込んだ日の光に一瞬目が眩んだが、私は驚かせようと考えて勢いよく樽から飛び出し、バランスを崩して思い切り顔面から床に突っ込んだ。


「お、おい、大丈夫か?」恐らく商人は続けて怒鳴り付けようとしたんだろうけど、ド派手にズッコケた私の醜態に人が良いのかそんな言葉を掛けてきた。そして一度優しさを見せてしまったら、すぐに怒りを装うのは難しいものだ。お陰で私はそのまま馬車から放り出されることはなくなった。


「む、大丈夫。ケガはない」


「そうか、そりゃ良かったーーじゃない! その、君の一族の皆も今頃心配しているんじゃないか?」


「どうせもう元の場所にはいないよ」


 三日も間が空いてしまっては、とっくのとうに移動してしまっている。それにもしも私を心配して連れ戻そうとしたなら、森から抜け出す前に誰か大人のエルフが接触を図るはずだ。森の民であるエルフ族なら轍の残る馬車の跡を追うくらいは訳ないだろう。


「そりゃあ、そうだけども…」


 群れから見捨てられたのかと神妙に頷く顔はなんともお人好しそうで、この商人が結構いい歳なのに未だに行商なんて危険なことをやらざるを得ないのも分かる気がした。

 それに私もエルフだから分かる。

 私の一族は心配なんてしない。長い寿命を生き抜くコツは、全ての物事を気にしないことだ。エルフというのは淡白なのだ。きっと再び会えたときは何事もなかったように挨拶を交わすことだろう。


 風の妖精に愛された我が種族の気性は『雲』

 気の向くままに大森林を彷徨って日々のヒマを潰す生き物。

 ヒューマンたちはその悟ったような私たちのライフスタイルを見て我々を『森の賢者』なんて言い方をすることもあるけど、これは結構な勘違いだ。


「そんなわけで、」私は商人に素晴らしい提案を持ち掛ける「私を養ってはみないか?」


 弓の腕はそれなりにいいし、少しは魔法も使えるし、何より私は可愛い(かわいい!)し、正直お買い得だと思うんだ!!!

シャングリラ・フロンティアが面白いのなー。

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