プロローグ
先輩と会わなくなってから来月で2年になる。僕は先輩と働いる当時自分の気持ちに気づいていなかった。
離れて2ヶ月が立った時点家で一人でいる特になんともなく涙が落ちた。
その時、初めて先輩と離れた悲しみに打ちひしがれ次の日は仕事を休んだ。
先輩と僕は別に付き合っていたわけでもデートをした訳でもない。同じチームで仕事をしていただけだ。幸いにしてチームメンバーの頑張りで社内でも何かと表彰されるチームで、各地の研修と言う名のご褒美旅行に先輩と僕は何回も一緒に出かけた。
その中の一回で、センターの偉い人が付いてきて飲み会をしようと提案してきた。先輩はあまりそういった騒がしい場が好きではないと思い、それとなくどうするか聞くと
「私だって会社員だから大丈夫ですよ。」
先輩は緊張した面持ちで、そう僕に返した。
一所懸命な人だなと、思うと同時に僕は多分その時に先輩に恋に落ちた。
それからも特に何か進展があったわけではなかった。そして先輩はあの日退社した。
もっといい職場が見つかったらしい。先輩は残念なことに周りの人に好かれる生き方が得意な人ではなかったので恒例の退社の際のプレゼントや宴会を用意してくれる人はいなかった。それがたまらなく嫌で、自分の親しい同僚を集めて心ばかりのプレゼントを用意して先輩に手渡した。
「ありがとう。」
先輩はほとんど笑わない人だったけど、その時だけは笑顔でそう言ってくれた。
そして最後の日に手紙をくれた、今でも時々取り出してその手紙を眺めている。
その中には先輩の先輩としての葛藤と、同時に僕に対する励ましで溢れていた。
先輩ともう一度会いたい。
30歳にもなって気持ち悪い話だが、今そう思った僕は先輩の生まれた地元に足を運んだ。
生まれたところや趣味なども職場でほぼ話さない先輩だったけど、一回だけ先輩の育ったその場所について話を聞いたことがある。本来その地方都市としてはそれ以上望むべくもない職についていた先輩は何故か離れた場所で、決して勝ち組とは言えない職についていた。そこに先輩がいてくれたからこそ会えたのだけど、同時に先輩みたいな人がその職場にいることは大きな違和感を発生させていた。
先輩の地元で、先輩に教わったお菓子を食べた。都会の華美な味のついたものとは違い、目立つ美味しさはないお菓子だけどそこが先輩とそっくり泣けてきた。先輩は確かにここで育ったのだなと。こんなことをしていても先輩に会えるわけない。よくわかっているつもりだが、心の中には虚しさが一定残っている。それでもいい、その寂しさも今の僕には心地いい。心と向き合っていなかったあの2ヶ月間の百倍生きていることを実感する。
「会いたいなぁ・・・。」
そう一人でつぶやく、はたから見たら完全に危ないやつだ。
でも仕方ない、危ない奴なんだから。
白い息の出る気温の中、暖かいものを求めて喫茶店に入った。喫茶店の中には壮年のマスターと常連らしき客が2組ゆっくりした空気の中でお茶を飲んでいた。どうやらチェスの様なボードゲームに興じている様で、静かながら真剣に盤面を睨んでいる。カウンターの端の席に座り、ウィンナーココアを注文する。メニューにはないが、ウィンナーコーヒーとココアがあったのでできるだろうと踏んでの注文にマスターが笑顔で注文を受け付け、ココアを作り出す。
ウィンナーココアも先輩に教えてもらった飲み物だ。あの日も今日の様に底冷えする日で、先輩と僕は走っていた。一緒に出席するはずの表彰式の時間を上司が間違えており、余裕を持って移動ができず電車とタクシーを乗り込んで会場に向かっていたからだ。タクシーの運転手さんが道に詳しく、いろいろな裏道を使ってくれたおかげで現地には15分前に着いた。そのまま集合場所で待てばいいのだが走った中でスーツの下は汗をかき、外は冷えてこのままでは風邪を引きそうだ。先輩に「10分だけ、お茶でもしませんか?」そう問いかけると「そうですねこのままだと落ち着かないですし、お茶でも飲みましょうか。」そう答えた。
集合場所のビルの地下にある喫茶店で先輩はウィンナーココアを二個注文して席に持ってきてくれた。自分の分のお金を払おうとすると先輩は首を振って、「これぐらい奢らせて、先輩なんだからね。」とちょっとだけ偉ぶった。
「出世して返しますね。」と僕は可愛くない後輩らしく返した。
そんな思い出に浸っているとマスターがウィンナーココアを持ってきてくれた。そして、「2年前のやっぱりこんな寒い日だが、同じ注文をした女の人がいてね、珍しい注文だったんで思い出したよ。若い人たちのうちでは流行っているのかい?」
「その人はショートカットで目が細くて、吹けば飛びそうな人でしたか?」僕はつい立ち上がって聞いてしまった。
「ど、どうしたんだい。2年前だから外見までしっかりってわけにはいかないけど、確かに髪は短かった気がするよ。」
「その人は、ここでココアを飲んでいたんですね?」僕は尋ねる。
「ああ、ここでココアを飲んだ後考え事をしていたよ。知り合いかい?」
「ええ、多分僕が今世界で一番会いたい人です。」
「中々情熱的だねぇ、はっはっは。」マスターは鷹揚に笑うと、言葉を続けた。「その子に本当に会いたいなら、ここを訪ねるといい。」そうして一枚の紙に住所を記し僕に手渡した。確か彼女はここに行くと行っていたよ。」
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自分は現在神社の境内にいる。全国的な有名な神社で、毎年一回この神社で行われる古典ゲームの大会は全国で中継されるほど有名だ。この境内の中に座れる形をした石の椅子があり、そこに座ると求めている人が見つかる場所に行けるという。
もし、先輩に会えるなら神でも悪魔でも鬼でも構わない。普段迷信なんか信じない僕だが、先輩の足跡をたどっている興奮に身を委ねその石に座る。
瞬間----------------------
[探し人:Xxxxxxxx Xxxxxx]
[転送先:中大陸]
[ユニークスキル:印象操作]
処理完了—転送を開始します
こうして僕は先輩を探し続ける。
異世界でも。