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妖精姫の幸せは  作者: 手塚立華
本編
5/54

4 幸せへの道筋

 アリィシャとして生きることを決めた以上、その覚悟を決めなくてはいけない。

 たとえ彼女の体を脱がなくても、別人が入り込んでいると気づかれてはまったく意味がないのだ。

 私はまず彼女が幼い頃から書き綴っていたらしい日記をベッドの上で最近の物から読むことにした。

 最近の物はあまり明るい話題は無く、しきりに家族を心配している様子の文章が続いているが、まだ寝たきりになる前の日記は、日々、どんなことをしたのか、何を学んだのか、等楽しそうに綴られている。

 その内容を読めば読むほど、アリィシャという少女は善良で、誰にも愛される少女だったのだろうということが伺えた。


 その上で、今後自分が何を為すべきかについて考える。

 私は、私の命を救ってくれたアリィシャに恩返しがしたい。

 アリィシャは家族や親しい人たちの幸せを最期まで願っていた。

 だから彼らの笑顔を守りたいのだ。


 私はここ数日、代わる代わる見舞いに訪れる彼らの顔を思い浮かべた。

 フェリンド家は5人家族だ。

 父と母に兄が二人、そしてアリィシャである。


 父はセルジ・フェリンドといい、文官で国の宰相の下で働いているらしい。普段はそこそこ忙しいのだが、ここ数週間はアリィシャの体調のこともあり、休暇をとって領地のこの屋敷に戻ってきていたようだ。

 御年42歳らしいのだが、とてもそうは見えない少し若作り…というよりは童顔な顔立ちで、アリィシャより少し濃い金髪に青い目をしており、線が細い。

 黙って立っているとはかなげな貴公子のように見えるが、本人はなかなか明るい人で、妻と子供たちを溺愛しているらしい。


 母はサラ・フェリンドといい、代々騎士の家系の辺境伯、アルデムド伯爵家の出のようだ。

 亜麻色の髪の毛に緑の瞳をしており、大変優し気な雰囲気の淑女である。

 あまり表に出ず、夫の一歩後ろをついていくような控え目な女性で、にぎやかな父とは対照的な印象だが、だからこそ仲が良いのかもしれない。

 アリィシャの病状に心を痛めてか、その美しい顔が少しやつれているように見えた。


 長兄ラフィルは20歳で父を手伝い領地経営をしており、父に似て明るくお茶目な性格だ。

 母に似た優しい顔立ちで、柔らかそうな亜麻色のくせっけのある髪に父譲りの青い瞳はアリィシャより深い色合いをしている。


 次兄ルミールは16歳で、母の実家のアルデムド家の騎士たちにあこがれてか、王立騎士団に今年入団したばかりらしい。私とそっくりな顔をしており、最初は言われなかったら姉だと思っただろう。体つきはさすがに私よりは男らしいが、父と同じようにはかなげで線が細いので、はたして騎士団の勤めを果たせるのかは疑問である。


 彼らはアリィシャの日記にあったとおり、大変アリィシャに優しい…というよりは甘い。

 病弱だった娘にむける物としては普通なのかもしれないが、少し過保護に思えるほどみな私を大事にしてくれた。

 見舞いに来た父に、直接本人に聞けば間違いは無いだろう、と思い、こうきいたことがある。

「お父様の幸せは、何ですか?」

 すると父は少し驚いた顔をした後、花が咲き乱れる幻が見えそうなほど嬉しそうに笑い、こう言ったのである。

「私の幸せは、リィシャや家族が健康でいることだよ。長年の願いが叶って、今はこの上なく幸せだ。」

 そしてその後、他の家族にも同じ質問をした結果、彼らの答えは言い回しの違いこそあれ、ほぼこの答に集約されていた。


 正確さを求めて、本人に聞くというのは悪い発想ではなかったと思う。

 しかし、先日まで病で起き上がれもしなかった少女に、自分の願望を口にするほどアリィシャの家族は図々しい人たちではなかったということだ。

 むしろ、アリィシャにひたすら甘い。

 

 結局得られた情報は、アリィシャが幸せならみんな幸せ、という一点のみ。

 他のことに関しては追々何か気づければ努力するとして、まずはこの「アリィシャの幸せ」を全うするのが良いだろう。

 もとより、私は家族の他に、アリィシャも幸せにするつもりである。

 現状アリィシャは私なので、私、幸せになりたいです、と言っているようであるが、若干のニュアンスの違いをわかっていただけたらありがたい!

 不肖の身ながら、アリィシャから命のバトンを託されたのであれば、残る彼女の人生を最大限、良いものとしたいのである。


「これは大仕事ね。」


 本来、自分や親しい人たちの幸せを願うのは、人間にとっては当然のことである。

 誰もが幸せを願い、それにむかって邁進するのだ。

 しかし、それでも世の中皆が幸せというわけにはいかない。

 家族の笑顔を守り、アリィシャの人生を豊かな物とするのはなかなかスケールの大きい目標と思えた。


 改めて己に気合を入れていると、部屋のドアを誰かがノックした。

「はい」

 と答えると


「アリィシャ様、ロザリンド様がお見えになられました。お通ししても良いでしょうか?」


 というメイドの声が聞こえてきた。


 ロザリンドという名前に、読み進めている途中の日記の内容を頭の中でめくる。

 たしか彼女は、先日私の肩をつかんだ黒髪に口ひげの男性…ウェジントン候の一人娘で、アリィシャにとっては従姉だが、それ以上に病弱なアリィシャの唯一の友人であり、親友であったはずだ。


 彼女の父親、グラムズ=ウェジントンは、フェリンド伯爵領の隣に領地を持つウェジントン侯爵家の当主で、父、セルジの今は亡き姉、イサイラの夫でもある。

 イサイラはアリィシャによく似ていたらしく、亡くなった妻に瓜二つのアリィシャをかわいがってくれているらしい。


 その娘のロザリンドもまた、父と一緒によく遊びにきてくれていたという内容が日記に書かれていた。

 特に現在住んでいるセイルーム城はイサイラ伯母様が愛した城で、フェリンド伯爵領のウェジントン侯爵領寄り…というよりはもうほぼウェジントン侯爵領といっていいほどの近くにある。

 この城のまわりの森は空気も澄んでおり、病気の静養のため、アリィシャはほとんどの時間をこの城で過ごしていたようだ。

 そのため、お隣さんに遊びに来るくらいの気軽さで、頻繁に交流があったのだという。

 病気のアリィシャを気遣ってくれるとても心優しい少女で、日記からは彼女のことがアリィシャは大好きらしいということが読み取れた。


「うれしいわ。どうぞお通しして。」


 たしか彼女はあの夜、アリィシャが死んでしまった日も伯父と共に屋敷へ来ていたはずだが、その後すぐ眠ってしまったため、あの中の誰がロザリンドだったのかはわからない。

 というか、残念なことに家族とウェジントン候以外の顔はあまり覚えていない。

 間近にせまったウェジントン候の顔があまりにインパクトが強かったせいである。


 体の主が慕っていた友人がどんな少女なのか、私はわくわくしながら扉が開くのを待った。

 ほどなくして、廊下をカツカツと歩く規則正しいヒールの音が聞こえ、ドアの外からメイドが再度ドアをあけていいかを伺う。

 ソファから立ち、どうぞ、と促すと、ようやく扉はひらいた。


 そこに仁王立ちしていた少女は、アリィシャの日記を読んで想像していたロザリンド像とはまったく似ていなかった。


「ごきげんよう、アリィシャ。お元気そうで何よりですわ!先日まで今にも死にそうなお顔でしたのに、驚きましたわ!」


 そのように述べながら、自信にあふれた足取りで部屋に入ってきた少女は、釣り気味で少しきつめの印象の紫の瞳に、赤い唇、白い肌をしており、非常にメリハリのきいたはっきりとした顔立ちだ。

 父親譲りらしいつややかな黒髪はきれいに縦ロールして揺れておりなんというか、昔物語できいたことがある意地悪なご令嬢、というイメージにぴったりはまりそうな迫力美人だったのである。


「ロザリンド、様、はお変わりなく…今日は来ていただけてうれ、嬉しいですわ。どうぞ、おかけになって。」


 その迫力に押され、うっかり呆然と立ち尽くしてしまいそうになったところを、なんとか貴族の礼をもって彼女を招き入れられたのは、我ながら上出来であった。


「まあ、ロザリンド様だなんて。何時になく他人行儀ではなくって?いつも通りローザでよくってよ。アリィシャ、あなた普通の物も食べて大丈夫になったのですって?昔あなたが好きだった菓子をうちの料理人が作りましたのよ。持たせてきたから是非どうぞ。とは言っても、最後にお茶をご一緒できたのは3年ほど前でしたかしら?まだお好きだとよろしいのだけど!」


 ほほほ、と笑いながら、その口から休むことなく言葉を紡ぎ、ロザリンドは進められるままソファに腰を下ろす。


 どうやらアリィシャは彼女を敬称つけては呼んでいなかったらしい。友人であれば当然か、とも思ったが、貴族というのはどうも呼び名にうるさいようであるので、一応の安全策をとったのだ。


 それにしても、嵐のような少女である。

 この他人にペースを乱され無さそうな勢いは、ウェジントン侯にそっくりだと言わざるえない。

 となりの侯爵領の人間はみなこのような感じなのであろうか。


「本当に、こうしてローザとお茶を囲めるのはとても久しぶりね。あなたを迎えるのがベッドの上じゃないのがとてもうれしいわ。」


 ロザリンドが座ったのを確認してから私が対面のソファに腰を下ろすと、ジェニーが淹れたてのお茶と、ロザリンドが持ってきてくれたらしいお菓子を並べてくれた。

 お菓子は丸い焼き菓子で、半分にチョコレートがかかっており、色とりどりのデコレーションが上にかかっている、とても少女が好きそうな可愛らしい物だった。

 たしかに、アリィシャの数年前の日記にも、ロザリンドが持ってきてくれたお菓子がとても美味しかった、ということが書いてあったように思う。

 その後病状が悪化し、甘いものは控えるようになったようなので、それ以後口にすることはできなかったようだが。


「私が好きだったお菓子、覚えていてくれたのね。じゃあ遠慮なく、いただくわ。」


 一つつまんで口に運ぶと、見た目より優しい甘さが広がる。

 それと同時に、私の瞳からぽろっと何かがこぼれ落ちた。


 私がその事態に気づくよりも早く、ロザリンドが声をあげた。


「まあ、どうなさったのアリィシャ、もしかして泣くほどお口にあわなかったのかしら!?」


 手にした扇子を口元にあて、眉根をよせて驚く彼女は、その容姿から一見、私を糾弾しているようにも見えるが、どうも本気で心配してくれているらしい。


「い、いえ、ちがうの。…うれ、しく…て…」


 あわてて訂正し、自分の気持ちを口にして、私は胸に暖かく灯る気持ちの正体を知る。

 そう、嬉しいのだ。

 三年前を最後にロザリンドとお茶を囲めなくなったのも、お菓子を食べられなかったのも私ではない。

 アリィシャだ。

 なのに私の胸は今、嬉しさに優しい暖かさをともしている。

 兄の腕の中や、母の微笑みに安心感を覚える度、薄々気づいてはいたのだが、胸の暖かさを確認しながら私は今度こそ確信した。


 アリィシャはたしかにあの日、死んでしまったけれど、彼女の体にはまだ彼女の魂の残り香のような…彼女の心の欠片のようなものが残っている。

 体にまだ残るアリィシャの欠片が、もう一度ロザリンドとお茶を囲み、好きだったお菓子を食べられることに喜んで、私の胸を暖かくともしているのだ。


「まあ、泣くほど美味しかったんですの?それは良かったですこと。持ってきたかいがあったというものですわ。」

「ええ、本当に…本当にありがとうロザリンド。」


 私は涙を拭いながら、扇子の後ろでほっとした顔をしているロザリンドに、心のそこからお礼を言う。

 このアリィシャの欠片は、きっと私を進むべき道へ導いてくれる。

 そう思うと、壮大な目標を前にして、とても心強い気持ちになる。


「どういたしまして。さ、沢山食べてちょうだい。しばらく食べられなかったのだもの。ちょっとくらいのオーバーカロリーは許されましてよ。」


 にっこりと笑うロザリンドは、上機嫌でお茶菓子を勧める。

 私も遠慮なく、その勧めに応じることにした。


〇・〇・〇・〇・〇


「それにしても、本当によろしかったこと。先月のあの日はわたくし、親友とお別れする覚悟でこちらに参りましたのよ。それが息を吹き返したばかりかご病気も完治なさるなんて、思いもよらないじゃない?神様の奇跡って、本当にあるのだと思いましたわ。」


 私に菓子を勧めながら、ロザリンドはため息深く、あの日のことを回想する。

 またも彼女の眉根に寄せられた皺が、どれだけ私を心配してくれたのかを語っているようだ。


「ええ、本当に。ご心配をおかけして…。」

「あら、いいのよ。結果的に戻ってきてくださったのですもの。それで、最近はいかがなの?体調に変化は無いのかしら?」

「ええ、お陰様でとても調子がいいの。本当は屋敷の外に出たいのだけれど、まだ許してもらえて無くて…。まあ、ベッドから降りることを許してもらえたのだって快挙なのだから、もう少し大人しくしていなくてはいけないわね。」


 ロザリンドの問いかけに、私は頻繁に顔を出してはあれやこれや心配する家族の顔を思い出して苦笑する。

 あの様子では、まだしばらく外へは出してもらえないだろう。


「そうねえ…あなたと外へ遊びに出たのなんて、それこそ5歳くらいの頃が最後なんじゃなくって?覚えてらっしゃる?うちの領地の森に迷いこんで、一緒に獣に追い回されたでしょう。」

「え?そ、そうだったかしら…」


 まだ日記を読んでいない時代の話に、思わず目が泳ぐ。

 とはいえ、5歳の頃の話なら、覚えていなくても不自然では無いだろうか…。


「そうよ。といっても獣じゃなくて妖精だったのでしたわね。必死に逃げて森の外まで出た時に、振り向いたら妖精が飛ぶ光が見えたってあなたがおっしゃっていたのよ。迷ったのを助けてもらったんだって。覚えていらっしゃらない?」


「それは…うっすらと覚えているわ…」


 ただし、追われるほうじゃなくて追うほうの記憶だが。

 何度か同じことをして遊んでいたので厳密に覚えているわけでは無いが、たぶん迷い込んだ子供を森の外へ追い出した内のいずれかが、アリィシャたちだったのだろう。


「あなたあの後熱をお出しになって、それっきり外で遊ぶのを禁止されてしまったのよね。…あの時の妖精、討伐されてしまったらしくってよ。悪い妖精では無かったように思うのに、残念だわ。」


「そ、そうなの…ほんとうに…たすけて…?くれたのに残念ね…」


 実際のところ、子どもたちを追いかけ回して森の外へ出したのは助けようという発想ではなかったので、残念に思っていただく筋合いは無いのだが、そんなことをアリィシャが知るはずもないので冷や汗を流しつつロザリンドに話をあわせておく。


「も、もし!家族から外に出る許可が取れたらその時は星鈴草を見に行こうと思うの。ロザリンドももし良ければご一緒にどうかしら。」


 あまりこの話題は精神衛生上よろしくない。私は若干強引に思えたが、話題を変える。

 星鈴草は春に咲く、クリーム色の花で、複数の丸い小さな花が、鈴のように連なって一本の株に咲く。夜になると花の中のめしべが星のように光るので、そういう名前が付けられているのだ。

 フェリンドの春はこの花が一面に咲き、昼はクリーム色の絨毯、夜は大地にも星空が広がるような景色が広がり、妖精の頃からのお気に入りなのだ。


「あら、もちろんよ。でもアリィシャ、あなたここ最近寝たきりで外に出るドレスがそろってないのではなくて?もし流行がわからなかったらご相談になってね。いくらでも協力してよ。」


 急な話題変更を気にした様子もなく、ロザリンドはニッコリと笑って応じた。

 彼女が笑うとなにか悪巧みでもしているのではないかという風情が漂うが、真実に親切で言ってくれているらしいことが私にはわかる。これもアリィシャの欠片のおかげだろうか。


「そうね、たしかにここ最近、ずっとベッドの中だったから、あまり服は無いの。お母様が急いで手配してくださったのだけれど、さすがにすぐにというわけには行かなくて…。」


 私のクローゼットの中は、寝間着がほとんどである。

 そんな寝間着だって、森の中で暮らしていた私からすれば立派なものなのだが、貴族にはそうではないらしい。

 昼と夜で服装を変えなくてはならない上、ドレスの形に流行り廃りもあるので、いつまでも同じような服を着てはいられない。

 あまりそういうことには詳しくない私にとって、ロザリンドの申し出は大変ありがたかった。


「ドレスはお母様が整えてくださるはずだけれど、私、ずっと寝間着姿だったから服飾に疎くて…良ければどのような物が良いのか、教えていただけたら、自分でドレスを選ぶ時に役に立つと思うわ。」


「ええ!もちろんよ。美しくあることは私達の義務ですもの。今度最新のカタログをお持ちするわね。アリィシャが美しく装えば、きっと叔父様たちは喜ばれてよ!」


 大輪の花が咲きほろんだような華やかな笑顔でもって、ロザリンドが了承してくれる。

 私はそんな彼女の最後の言葉に反応した。


「お父様たちが…お喜びになるかしら?」


「当たり前じゃない。わたくしたち、もうすぐデビュタントですもの。完璧な淑女としてそこに立てば、両親にとっては誇らしいものでしょう。」


 デビュタントとは、成人した貴族が、まわりにお披露目するための儀式のようなもの…だと聞いたことがある。なるほど、たしかにお披露目の席で完璧であればあるほど、両親には鼻が高いものだろう。


「ロザリンド…私、ずっと病で床に臥せっていたでしょう?だから、元気になったら家族を幸せにしたいと思っていたの。私が完璧な淑女となって、デビュタントを飾るのは、家族の幸せにつながるかしら?」


 思いついたことを、目の前の親友に相談する。

 ロザリンドは大きな目をさらに大きく見開いて

「まあ…」

 と扇子の後ろで小さくつぶやいた後、少し考えるようなそぶりをした。

 部屋に入ってきてから今まで、ずっと自信にあふれているように感じた彼女が、はじめて見せる逡巡だった。

 少し時間をあけた後、彼女は小首をかしげながらも答えてくれる。


「元気になって真っ先に家族の幸せを願うなんてあなたらしいわね、アリィシャ。ただ…わたくし、あなたのご家族は皆、あなたが息をしているだけで幸せを感じてくださると思うわ。」


 おっしゃるとおりです。全員に面とむかって同じことを言われました。

 肩を落としかけた私に、ロザリンドはつづけた。


「とはいえ、息をしているだけというのはやはり怠惰だとわたくし思いますの。少を幸せに思う者が、多を幸せに思わないわけではありませんわ。ですから、貴族の娘として、高みを目指すのは悪いことじゃないとわたくし思いますわ。せっかくお元気になられたのですもの。理想の淑女を目指すことが無駄ということは無いのではなくって?」


 そこまでいって、扇子を顔からどけて、にっこりとそれは美しく微笑む。

 その笑顔は女の私でも赤くなってしまうほど華やかで優雅だ。


「わたくしと一緒に、社交界の星を目指しましょう!」


 びしぃ!!とロザリンドが指した先。

 そこには未だ日の高い、のどかな我が家の庭の上に、爽やかな青空が広がっている。

 その星はどこにあるのか。

 よくはわからなかったが、自信に満ちたロザリンドの言葉と勢いに、私は思わず大きく頷いたのだ。

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