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妖精姫の幸せは  作者: 手塚立華
本編
40/54

39 知らせ

「な、なん、なんですってお父様?わ、わたくしよく聞こえなかったのですけれど…」


 春深まるフェリンド伯爵家のタウンハウスのお父様の書斎。

 よく光を取り入れるように造られたこの部屋は、今日の天気も手伝ってとても明るく温かい。

 しかしお父様に相対する私の顔はたぶん、少し青かったに違いない。

 開華祭まで一か月をきったこの日、父は私を書斎に呼び出した。


「うん、だからね。ラフィルがお前のエスコート役をできなくなるんだよね。」

「その後です!その後!」


 その年齢と不釣り合いな若作りの顔に少し困ったような笑みを浮かべ、もう一度先ほどの言葉を告げるお父様に、私は身を乗り出して彼の書斎机をたたいた。


「ウルベルト殿下が開華祭でお前のエスコートをして下さると…。」

「ああああぁぁぁ…」


 やはり聞き間違えでは無かった言葉に、私は淑女のなんたるかをかなぐり捨てて、お父様の書斎机につっぷした。


 一体何考えているんだ殿下は!!

 こちとらお見合い五連敗して帰ってきた田舎令嬢なんだぞ!

 しかも夜会にまだ一回しか出たことの無い超初心者なんだぞ!!

 なんだか言ってて自分で悲しくなってきた!

 王族とか主催側じゃないか!しかも国中の貴族にじろじろ見られる立場じゃないか!その横に立てるかどうかもうちょっとよく考えて頂きたい!

 それとも恋は盲目というやつでまわりが見えていないのか?

 しかし王太子では無いにしろ第二王子がエスコートする相手なんて他の側近の方たちだって確認なさるだろうに。

 誰だ!こんな無茶な企画を通したのは!!

 初心者の相手はまずとりあえず優しい身内でしょうが!

 いきなり最高難易度の相手をぶつけて楽しいのか!嗜虐趣味でもあるのかこの国の上層部は!!


「わたくし、ラフィルお兄様がよいです…!」


 先日訪れた王宮の人々の洗練された動きを思い出し、一通りの悪態を心中で叫びながら、うぅぅ…と項垂れる私の頭を、お父様はぽんぽんとなでる。


「いやぁ、ごめんねアリィシャ…。さすがにさぁ、跡取りをつぶすわけにもいかないんだよね家としてもさ。」


「ラフィルお兄様はロザリンドのエスコートを何度もなさっているじゃないですか!あっちは相手が王太子殿下なのだからもっとダメでしょう!?」


「いや、むこうは王太子のエスコート蹴ってるわけじゃないからさ。キースの代理だし、拝華祭でエスコートしてたっていう免罪符もあるしね?今回はうーん…ちょっと難しいかなぁ…。」


 何処までも私に甘いお父様が、今回はさすがに困ったなぁ…と眉を下げて、ひたすら私の頭をなでるに終始しているところを見るに、我が家の力ではどうにもならない問題なのだろう。

 私はうつろな瞳のままむくり、と書斎机から顔をあげた。


「わかりました…。」

「わかってくれた?」

「わたくし、クライムにエスコートをお願いします!」

「ええ!!?」


 侯爵家のクライムであれば第二王子のお誘いを蹴って捻じ込んでもつぶされるまではされないはずだ。

 拝華祭でアクス様の横にいるのは大丈夫だったのだから、彼の横なら私でもなんとか攻略できる!

 そう思っての発言だったが、お父様はブンブンと首を横にふった。


「ダメダメダメ、ダメだよアリィシャ。兄に裏切られて傷心して一年後に帰ってきたらその弟の横とか、婦人用週刊誌が色めきたっちゃうよ!グレイン子爵にも迷惑がかかるだろう!ダメだよ!」


「ふぐぅ…。」


 あまりのことに取り乱していて、先日クライムにも言われたことをすっかり忘れていた私は再び書斎机に沈む。

 それに殿下の話を蹴って身内以外の男性にエスコートを頼むなんてもうそれはあなたではなくこの人がいいのですと言っているようなものである。

 結果クライムに降りかかる災難は大きなものだろう。当たり前の話である。たとえ友人でもそこまでは甘えられない。


「ではわたくし、開華祭はおやすみいたします!今から噴水にでも飛び込んで風邪をひきますわ!」


「いやぁ、それは是非やめてほしいな…。アリィシャが風邪ひいたら父さん心配で仕事に手がつかなくなるよ…。」


「……。」


 家族に笑顔で居てほしいと願っているのに、自ら心配をかけにいっては本末転倒である。

 この案もダメか、と私は無言でため息をつく。


「…アリィシャはなんでそんなに殿下のエスコートが嫌なんだい?王族の方にエスコートしていただけるなんてすごい名誉だよ。やっぱり殿下のことが嫌いなのかい…?」


 黙り込んでしまった私を、お父様がおろおろと心配げに見つめる。

 私はため息をついて、顔を上げ、姿勢を正した。


「そんなことありません…。殿下は立派な方ですもの。わたくしだって…慕わしく思っておりますわ。だからこそ、横に立つのが私のような者では殿下にご迷惑がかからないか心配なの…。」


 先ほどのセルフディスのダメージもあって、言葉尻をすぼめ、しょぼん、と項垂れる私にお父様は少し目を見開き、そしてふっと優しい笑みを浮かべる。


「そんなことは心配いらないよ。わたしの妖精はそりゃあもう、素晴らしい淑女だからね。殿下の横に立ってもまったく見劣りしないさ。」


「お父様は少し身内びいきがすぎるのでは無いかと…。」


「ははは、そりゃあ自分の娘だからね。よりかわいく見えてしまうのは仕方がないことさ。でもそれを差し引いてもお釣りがくるはずだから大丈夫だよ!それに今回のお話と一緒に渡された物があるんだけどね…。」


 そう言ってお父様は書斎机の引き出しを開けて中をごそごそとあさる。

 まもなく、引き出された彼の手の上には小さな黒いビロードの箱が乗っていた。


「なんですかこれは?」


「あけてごらん。殿下からアリィシャにだ。」


 言われて手のひらにのるサイズの箱をそっとあける。

 するとそこには、星鈴草を模した金剛石をあしらった銀の指輪が入っていた。

 社交シーズンに、また贈る、と言っていた殿下の言葉を思い出し、私は胸が躍るのを感じる。


「アリィシャが殿下を良く思ってないならと思って出さなかったんだけどね…。殿下はアリィシャを横にとおっしゃっているんだよ。いいじゃないか。殿下がそう言ってくださるなら。迷惑なんてかけてやればいいんだよ。それを受け止めるのも男の甲斐性だからねえ。」


 嬉しそうなお父様の声を聞きながら、私は星鈴草の指輪をまじまじと眺めた。

 銀の細いリングに、金剛石でできた星鈴草の花が連なってからまり、キラキラと春の日差しを受けて輝いている。


 これを今贈ってくれるということは、この指輪は以前フェリンドで私が口にした不安への答えなのだろう。

 あなたを知って、まだあなたを特別に思う気持ちに変わりはない、とこの指輪は言っているのだ。

 まあよくあの泥だらけな様を見てこれを贈れたもんだと感心するのだが、だからこそこの指輪にはアリィシャの中の私への答えが詰まっていると言える。

 あのまっすぐに好意を伝えてくれた笑顔は、私を知って、陰らなかった。

 その事実が、私の胸を踊らせたのだ。

 しかし私にこれを嵌める資格はあるのだろうか。

 これを身に着けるということは、すなわち婚約を了承したという返事と同意だ。


 私にも、彼を想う気持ちはある。

 どこまでも一途に心を伝えてくれる彼の態度には好感が持てるし、スキさえあれば自分の腕の中に私を収めようとする殿下の少し強引なところには困ったものだが、その腕の中も、実のところは心地よい。恥ずかしいのにはかわりがないが。

 まだまだ煩くなる心臓の音は厄介だが、彼の低い声が聞こえると安心するし、一見怖くも見える顔が私に向かって甘く溶けるのは胸を高揚させる。

 あの笑顔が、陰らないまま、私に向けられるのが嬉しい。

 父親のような気分で一度は断った婚約を、今は当人として、受けたいと思っているのだ。


 ただ、彼は第二王子といういと高い身分なのである。

 彼のことを慕わしく想うからこそ、その横に立つのに自分で釣り合いが取れるのかが私には自信が持て無かった。

 殿下も家族も私のことをほめてくれるが、未だに私はお見合い五連敗のダメージから立ち直れていないのである。

 五人の男性に落第点を頂いて、王族の横に立つ自信をもてるほど私は厚顔では無かった。

 いますぐにこの指輪に指を通したいという気持ちを抑え、私はふう、とため息をつく。

 そのため息をどうとったのか、お父様は笑みを崩さないまま言葉をつづけた。


「エスコートについては難しいかもしれないけどね、もし婚約が嫌なのだったら、義理兄(にい)さんに力を借りてでもお断りすることも考えているから、何かあれば言うんだよ。もう今度こそは、アリィシャを泣かせるようなことはしたくないからね。」


 そう言ってさきほどのオロオロしていた人と同一人物とは思えないほど、キリっとした表情で私を見つめるお父様に、私は一つ頷いてそっとビロードの小箱を閉じた。


「わかりましたわ、お父様。わたくし、殿下のエスコートをお受けいたします。」


 殿下にこれだけお気持ちを頂いて逃げ出したのでは女がすたる。

 お見合い五連敗して帰ってきた田舎令嬢で、夜会にまだ一回しか出たことの無い超初心者の私を横に望んでくれた彼に見合うものを返したい。

 開華祭で、殿下のパートナーを立派に立って務めあげることができたのなら、その時はこの指輪をはめよう。

 そう心に誓って私はお父様に退出の挨拶をすると、ジェニーに紙とペンをもってくるようにお願いしたのだった。


〇・〇・〇・〇・〇


「レディ!わたくしに一か月、集中淑女合宿をさせてくださいませ!」


 レディのお屋敷のエントランス、出迎えてくれたレディに開口一番、私はそう言って飛びついた。

 伺ってもいいかという私の手紙に、二つ返事で了承の手紙を送ってくれたレディの家に、私はすぐに馬車でやってきたのである。

 相変わらず美しいレディは、あらあら、と眉を上げる。


「おもしろいことを言うわね、アリィシャ。理由をきいてもよろしいかしら?」


 そう言って優雅に促すレディに付き従い、私は屋敷の応接室に通される。

 レディは現在、城近くの大きすぎないお屋敷で一人で暮らしていらっしゃる。

 伯父様からは一緒に住もうと何度も言われているらしいのだが、一人が気楽なのだと言って笑っていた。

 一年前の淑女合宿中は、ウェジントン侯爵邸で泊まり込んでいたので、私は彼女のお屋敷に来たのはまだ片手で数えるほどしかない。

 こじんまりとしていながら、どこもセンスが光る調度品にため息をつきながら、私は金の細工の美しい、ビロードのソファに座り話を切り出した。


「実は今日、開華祭のわたくしのエスコートに、ウルベルト殿下がきてくださるという申し出がありましたの。」


「あら、なかなか行動が早くていらっしゃるのね。機を逃さない殿方はわたくし評価いたしますわ。」


 私の言葉にさして驚きもせず、レディは優美にうなづき、先を促した。

 考えてみれば、ウルベルト殿下に私を迎えに来させたのはこの方なのだから、彼の気持ちもご存知だったのだろう。


「でも…わたくし、殿下の横に立つ自信が無くて…。」


 一年前、自信を持てと言われたのにこの体たらく、私は品のいいビロード張りのソファの上で、これ以上ないほど小さくなった。

 そんな様子を、レディは綺麗に整えられた方眉を上げて見つめる。


「まあ、どうしてなのかしら。わたくしの言葉では不足だったの?」


 不服そうなレディの声に、私は身をさらに縮めた。


「とんでもありませんわ。でも、わたくし一年フェリンドにおりましたでしょう?レディにお言葉を頂いた時から少し…その…鄙びてしまったのでは無いかと…おもって…。……お聞き及びかわからないのですけれど、わたくしフェリンドでお見合いをしましたの…。そしてその……五回も…断られたのですわ…。」


 しょぼーーんと項垂れる私の様子を見守っていたレディが、扇子の後ろで、ふふっと声を出して笑った。


「レディ?」

「あら、うふふ、ごめんなさい。笑ってはいけなかったわね。ふふふふ、そう、そういうことだったの。ふふふっ。」


 いかにも面白い、といった様子で、笑いをこらえきれないらしく、黒い繊細なレースをあしらった扇子で顔を隠して笑うレディを、次は私が首をかしげて眺めた。

 一通り笑った後、レディは居住まいを正し、こほんと咳払いをする。


「いいことアリィシャ。お見合いというのはね、家と家との問題でもありますのよ。だから一概にあなたのせいというわけでは無くってよ。」


「でも…。お父様が親しくしてらっしゃる方のご子息様でしたのよ。家格や都合的にはなんの問題もなかったと思うのですけれど…。」


 ご紹介していただいた家はどこもフェリンド家と結ぶのにちょうどよく、私とお相手の方の相性さえよければ、というお家ばかりだったのだ。

 納得できないと首をふる私に、レディは黒く長いまつげの乗るアメシストの瞳を細め優しい微笑みを向ける。


「まあ、フェリンド家とお相手の家についてはそうでしょうね。でもねアリィシャ。私もそのお見合いのお話は聞き及んでいるのだけれど、あの面々のお家柄の方たちには第二王子の想い人とのご縁はすこーし、荷が重くってよ。」


 うふふ、と面白そうに言うレディに、私は目を丸くした。

 彼女の言葉を、一つ一つ頭の中で整理する。


「えっ、で、でも…わたくしが殿下のお気持ちを知ったのはこの春先なのですけれど…。」


「まあ、あなたはね。でも周りはそうではなかったということよ。」


「周りは…?」


 では、私の縁談が上手くいかなかったのは殿下の想いを相手のお家の方が知っていたから?

 でも、そうなら最初からお見合いの話事態受けなければいい話だ。

 お父様だって知っていたならお見合いを設けてはくださらなかっただろう。

 いや、そういえば私、お父様に「ウルベルト殿下はいいのか」と聞かれたのだった。

 それに「お許しは頂いています」と答えたからセッティングしてくださったのか。

 でもどちらにせよ許しを得ているという私の言葉を信じたなら相手のお家にうちの娘、殿下に好かれてるんですとか言わないはずである。

 となると、どこか他の…。


「まさか殿下が?」


「あらあらうふふふ、そうだったら素敵ね!でもあの方は少し真っ直ぐすぎるきらいがあるから、残念ながら違うでしょうねえー。うふふ、さあ、誰かしらね。でも誰でもよろしいんじゃないかしら。問題はリィシャのせいでお見合いを断られたわけでは無いということですものね。」


 嫌な予感に思い至った私の結論に、レディは恋に恋する少女のような笑顔で手をたたく。

 そんなレディとは対照的に、私は数か月越しに知らされた事実に、しばし呆然としてしまった。

 それではお断りの手紙が届く度に項垂れた私の気持ちはどうなるのか。断るなら断るでもうちょっとはっきり理由を教えてくださったら良かったのに。


 しかしなるほど、ロザリンドが言っていたのはこういうことだったのか…。

 わからない…わからないわよロザリンド。

 やっぱり第二王子が足元に見えるっていう時点で彼女と私は次元が違うのかもしれない。


「さあ、これで私のリィシャの自信は回復したかしらね。あなたは自信を持って第二王子でも王太子でも王様でも横に侍らせればいいの!何も気負うことなんてなくってよ。もしお相手が気に入らないようならわたくしが蹴飛ばしてさしあげるから、その時こそは我が家の扉をたたきなさいな。」


 パンパン、と手をたたいてなにやら恐ろしいことを言いながらレディがにっこりとウェジントンのアメジストと呼ばれたそれは美しい笑顔で微笑む。

 私はあまりのことに、それに返事をするのが一瞬遅れた。


 バタァン!!


 その一瞬の間に、静かなレディの邸宅にはふさわしくない大音量を持ってレディの応接室の扉が開かれた。

 そこにはその佇まいでどうやってそんな勢いよくドアをあけたのかと不思議になるほど、優雅に立つ黒髪縦ロールの美少女の姿。


「おばあ様!わたくしに特訓をしてくださいませ!」

「まあ、また面白いのが増えたわね。」


 ロザリンドの力強い懇願に、扇子を口にあて、レディは動じることなく面白そうにつぶやいたのだった。


 〇・〇・〇・〇・〇


 それより2時間前、ウェジントン侯爵家のタウンハウスにある書斎にて。


「まあ、王太子殿下がわたくしをエスコートしてくださると?」


 ピリリとした空気をまとって、つい今しがた父から告げられた言葉をロザリンドが繰り返す。

 それにウェジントン侯爵はため息まじりに頷いた。


「ああ、断るかい?」


 王太子からのエスコートを断るのは少し骨が折れそうだが、ロザリンドを説得するよりはましだろう。

 どうせその場合は息子がこの娘のエスコートをするのだからなんの問題も無い。

 彼であれば、自分の身に降りかかる災難は自分で対処できるはずである。

 そう思っての父の言葉に、ロザリンドはふん、と鼻をならす。


「そう、そうですの。ようやく行動に移す気になられましたのね。よろしいですわ、王太子殿下がウェジントン侯爵邸までいらっしゃって、わたくしに跪いて請うのでしたら考えて差し上げますわ!お父様、そうお返事してくださいませ!」


 王子様のエスコートを受けるとは思えない冷ややかな目と闘志でもってロザリンドがそう宣言すると、ウェジントン侯爵はふう、と深いため息をついた。

 そしてロザリンドの後ろの書斎の扉が開かれる。

 その音にいぶかしく振り返ったロザリンドは、そこに居た人物に目を瞠った。


「ふふふ、あなたならそう言ってくださると思いました。ご挨拶に参りましたよロザリンド嬢。私もあなたの愛をもう少し頂いてからと思っていたのですが、この度の開華祭では弟がアリィシャ嬢のエスコートをしたいと申しましてね。私もさすがに一人では参加できないでしょう?」


 どこにあっても色褪せない鮮やかな赤い髪の毛を黒いビロードのリボンで緩く結び、髪の毛と同じ色の長いまつげを嬉し気に瞬かせて、少したれ気味の柔和な瞳が嬉しそうに細められる。

 第二王子とは違う細くしなやかな肢体で優雅にそこに立つその人物は、竜王国の王太子、エラン=ドラグ=ハズルーンその人だった。


 彼は振り返った姿勢のままのロザリンドに構わず、優美な所作でその長い脚を動かし書斎に踏み込むと、ロザリンドの前でうやうやしく跪き、手にもっていた彼の髪の色と同じ赤いバラを差し出した。


「ロザリンド嬢、開華祭でわたしの華として、あなたが横に咲いくれるのであれば、これ以上の喜びはありません。どうかお受けいただけませんか。」


 秀麗な王子が跪いて請う、乙女の夢を詰め込んだ劇の一幕かのような光景に、ぴきり、と完璧なロザリンドの顔にひきつりが生じる。

 しかしそれは一瞬のことで、我を取り戻した彼女は王太子に負けず、それは優美にほほ笑んだ。


「まあ、そうですの、アリィシャが…。よろしいですわ。お受けしましょう。王太子殿下の華として、美しく咲いてご覧にいれましてよ。」


 ~覚悟なさい、この狸!!


 親友を人質にとるなんてなんて姑息な、という言葉はぐっとこらえ、ロザリンドは王太子からバラを受け取った。

 たとえそんなことをしなくても、勝負をしかけられたら逃げるわたしではないのに、随分なめられたものだと内心怒りに燃えながら、黒薔薇と言われる美貌でもってにっこりと微笑む。

 その微笑みを、立ち上がった王太子はいつも通りの柔和な笑顔でもって受け取ったのだった。

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