24 お詫びの品
「本当に、本当に、本当に行くの?」
眉根を寄せて尋ねるルミールお兄様に、私は嘆息して頷いた。
「もう、何度も言わせないでお兄様。私本当に大丈夫よ。お医者様だって熱も無いし、外に出ても良いっておっしゃってたじゃない。」
ウルベルト殿下が家に来た日、熱を出したと言われた私は、さして体調も悪くないのにさらに三日部屋から出してもらうことができなかった。
ようやくベッドから出られるようになった後、私がまずしたのは外出の許可をお父様にもらうことだった。
これがまた非常に骨を折る作業だった。
「まだ外に出るのは早い」と普段私に見せない渋い顔をするお父様にあの手この手でお願いし倒して、最後にはレディに教えていただいた必殺女の武器の上目遣いでのおねだりポーズでようやく許可をもぎとったのである。
しかしいざでかけようとしたら、次はジェニーに「やめたほうがよろしいのでは…」と身支度の手伝いを渋られ、その後にはお父様の指示で仕事を休んでまで付き添いに来てくれるというルミールお兄様にも冒頭のとおりに本当に行くのかと何度も確認されたのである。
すでに仕事を休んでしまっているというのに、なんでこの期に及んで確認するのかと私は額に手をあてた。
「まあ、リィシャがそこまで言うなら止めないけど…。もし何か気分が悪くなったりしたらすぐ言うんだよ?」
渋々ながら承諾してくれたルミールお兄様に、私がほっと胸をなでおろしていると、執事がロザリンドの到着を告げる。
今日は彼女にも付き合ってもらおうと、手紙を出しておいたのである。
執事に通されエントランスホールに入ってきたロザリンドは今日も自信に満ちて美しい。
しかし彼女は私を視界にとらえると、そのきれいな眉をわずかに寄せてこう言った。
「アリィシャ、あなた本当におでかけになるんですの?」
わたくし、今日は室内でお茶でもかまいませんのよ?と、そういう彼女に私は脱力して肩を落とす。
「ローザ、あなたもなの…。」
こうして私はまた、自分がもうまったくの健康体なのであることを親友に力説することになったのだった。
〇・〇・〇・〇・〇
なんとかロザリンドの理解も得られ、ようやく私が商店街にでかけることができたのは予定より1時間ほど後だった。
「それで、今日は何をお求めなの?」
言外に、ここまで強情をはるのだから、大事な物なのでしょう?と馬車に乗り込んだロザリンドが聞いてくる。
「ええ、その、お詫びの品を選びたいと思って…。」
本来、家族に心配をかけるのを良しとしない私が今日はこんなに家人から反対されながらもでかけたのにはもちろん訳がある。
ウルベルト殿下が我が家を訪ねてきた日、彼が帰った後に、ラフィルお兄様が「殿下がまた声をかけると約束してくださった」と私に笑顔で報告してきたのである。
お兄様的には妹を王子殿下に心配してもらえてありがたく思っていたようだが、私はこの兄の言葉に心中で震えあがっていた。
もちろん、切り捨てられずに謝罪の機会がまた得られるというのは、ありがたいことなのだとは思うのだが、それはそれとして、やはり彼と面と向かって話をするのはまだ恐ろしいのである。
しかもせっかく出向いてくれたにも関わらず、顔も出すことが叶わなかったのである。
私にはもう、手ぶらでウルベルト殿下に相対する勇気は残されていなかった。
焼石に水かもしれないが、次の機会が来る前にせめてお詫びの品を用意して誠心誠意気持ちを伝えようと思い立ったのである。
私の言葉に、ロザリンドが方眉を上げた。
「お詫びの品ってどなたにですの?まさかあの男じゃないでしょうね?」
あの男とはたぶん、最近私のまわりの人間には名前も呼んでもらえなくなったグレイン子爵だろう。
私が拝華祭の翌日に、ウルベルト殿下へという意味で謝罪しなければ、と言ったのをジェニーが誤解していたので、それを聞いたのかもしれない。
「そうじゃないわ。その、ウルベルト殿下に…。あの日とても失礼な態度をとってしまったし、先日はせっかく家まで足を運んでくださったのに、私ったらお出迎えできなかったのよ…。」
あわてて否定する私の言葉に、ロザリンドは意外そうな顔をする。
「まあ、ウルベルト殿下に?…そう、そういうことでしたの。でもアリィシャ、殿下はそんなことでお気を悪くするような方じゃなくってよ。お詫びの品では無く、お礼として渡したほうが喜ばれると思いますわ。」
何かしたり顔で頷く彼女に私は首をかしげた。
「そうなのかしら?私、失礼なことしかしてないように思うのだけれど…。ロザリンドはウルベルト殿下と親しいの?」
「あら!ふふふ、そんなことは無くってよ。お目にかかったのはあの日だけですもの。でも、少しお話しただけでもわかりますわ。あの日のことも鷹揚に許してくださったし、何よりお見舞いの品をくださった上に、ご自身でも足を運んで下さったのでしょう?」
私の質問に、ロザリンドはどこか楽しそうに笑う。
無礼を働いた張本人としてはそこまで楽観的にはなれないが、たしかに冷静に考えてみると忙しい王族の方が謝罪要求だけに家に来るというのはいささか不自然な気もする。
本来であれば出頭命令が出るところだろう。
そこを家に来て下さるというのはやはりご厚意なんだろうか?
しかしまったく面識が無かったところへ無礼な物言いをして逃げ去った令嬢を気に掛けるというのもわりと不自然な気もするのだが…。
うーん、と考えてみたが、やはりよくわからなかった。
とにかく、お詫びにせよお礼にせよ、次の対面の時の心の保険に何か品物は欲しいところである。
王族である彼が物品で心が動くとは思えないが、お守りのようなものだ。
「そうね…。とにかく、そういう理由で、殿下へ贈る品を選びたいのだけれど、私だけだと何が良いかわからないの。協力してくれるかしら?」
「ええ、勿論よ。せっかくだからルミール様にもご意見を伺いましょう。こういうのは男性の目線も必要だわ。」
曖昧に頷き、協力をお願いする私に、ロザリンドは力強く頷いて、ついでルミールお兄様に水を向けた。
どこか難しい顔で私たちの話を聞いていたお兄様は、自分に話が来るとは思わなかったのか、驚いた顔で固まっている。
「よろしいですわよねルミール様。ここは妹のために力を貸してくださるわよね?」
「い、いいけど…。」
参考になるのかなぁ、と自信なさげなお兄様に、ロザリンドは「参考になるかはわたくしが判断するから大丈夫ですわ」と笑う。
そうこうしているうちに、馬車は目的の商店街についた。
「とりあえず…基本はカフスボタンとか、スカーフとか、身に着けられる物かしら。」
「うーん、閣下は軍服でいることのほうが多そうだからなぁ…。タイとかはあまりつけないんじゃないかなぁ」
普段入店する婦人用品店ではなく、今日は紳士服店などを中心に回ることになった私は、物珍しさにキョロキョロと棚に並べられた商品を眺めながら、兄とロザリンドの会話に耳を傾ける。
二人は並べられた品物を前に、あーでもないこうでもないと議論を続けた。
「じゃあ男性用のコロンなどいかがかしら?閣下はどんな香りがお好きか知っていらっしゃる?」
「いや、普段は遠くから拝見するだけだし、騎士団なんて汗のにおいしかしないよ…。間違っても男の香りとか積極的に匂いにいかないし…。」
「そう…。香りはお好みが別れる物だから、もっとよく知り合ってからのほうがよろしいかしらねえ…」
ロザリンドが取り上げたシンプルな形の小瓶に、私は鼻を寄せた。
そこからは女性用の甘いものとは違う、落ち着いた香りがする。
男性でもコロンをお付けになるのね、と感心しながら、他の小瓶の香りも試してみたいと手を伸ばした。
「あら、アリィシャは何かお好きな香りがございましたの?あなたがお好きな香りを贈るというのも良いかもしれなくてよ?」
そんな様子を見ていたロザリンドが、楽し気に微笑んだ。
もう一つの小瓶の香りを確かめていた私は首をかしげる。
「よくわからないわ。でもこれ、この香り、なんだかお父様の香りに似ていると思って。」
「ああ、父上はコロンとかお好きだからね。もしかしたら使ってるやつなんじゃない?」
「…お父様の香りだと言われて渡されたら男性としては随分複雑なお気持ちになるんじゃなくって?」
「あ!これはラフィルお兄様じゃない?」
そんなことを言いながらひとしきり棚に置かれた香りをみんなでかおったが、結局コロンはやめよう、ということになり次の店に移動することになった。
次に訪れたのは文具店である。
ついつい、女性用の繊細なレース柄の便箋等に目を奪われつつ、男性用の物を置いている場所へ向かう。
「殿下はたしか机仕事もなさるはずだから、万年筆等いかがかしら。これなんて素敵では無くて?」
「うーん、そうだねえ。僕はあんまり万年筆とかよくわからないんだけど…。」
「ルミール様、ラフィル様が弟がまったく領地の仕事の手伝いをしないと嘆いていらっしゃったわよ?」
「苦手なんだよね頭脳労働は…。」
「お兄様は昔から剣のほうがお好きでしたものね。」
三人で喋りながら、ケースの中にきれいに並べられた万年筆を一つ一つみていく。
繊細な物やしっかりとした物、艶々光る物もあれば、木を削り出して作られた落ち着いた物もある。
物としてはとても素敵なのだが、あまりウルベルト殿下がペンを握っているところを想像できず、私は首をひねった。
ラフィルお兄様やお父様へ贈りたいと思う物ならあれこれと見つかるのだが…。
やはりこれはイメージの問題なのだろうか。
結局そこでもこれというものは無く、さらに私たちは移動をすることになる。
「なかなか良いものが見つかりませんわねえ…。ルミール様はどのような物を贈られたら嬉しいんですの?」
「え?僕は食べ物とか嬉しいけど……。うーんそうだな…。」
食べ物、という言葉にロザリンドに呆れられた視線を投げられ、ルミールお兄様はあわててもう一度考えはじめた。
しかし少し考えた後、へにょ、と眉毛がはの字に下がる
「よく考えたら僕、女性から何かもらったことあまりないかも…。」
「もうこの際男性からの贈り物でも構いませんわよ」
「受け取らないから!贈られたことはあっても一個も受け取ってないからね!」
「あら、ルミール様にはお祝い事に贈り物を下さるご友人もいらっしゃらないの?わたくし別に変な意味で申し上げたわけじゃございませんのよ?」
「う!?そ、それはいるけど…」
友人からのお祝いっていつも食べ物だった気がする…というルミールお兄様に、彼の友人の深い理解を思いつつ、私とロザリンドは顔を見合わせため息をついた。
まあでも、食べ物というのはいいかもしれない。
下手によく知らない人にあまり好みではない身の回りの物を贈られても、捨てられずに邪魔になるだけだろう。
食べ物なら笑顔で受け取っておいて、苦手なものであれば親しい人と分けて食べることができる。
そういえば殿下が私に送ってくださった物も花とお菓子だった。
最終的に形が残らないほうが、負担も少なくていいのかもしれない。
そうだ、紅茶等どうだろう。お菓子よりも男性にも喜ばれるのではないだろうか。
先日フラットン様に頂いた紅茶の缶は、きれいな絵が描いてあって贈り物にもよさそうだった。
そう思い至り、二人に提案しようと顔を上げたところ、一瞬、私の視界の隅をキラリと何かが光った。
目を瞬かせてそちらへ振り向くと、そこにあったのは装飾品店のショウウィンドウに飾られた金色の石を配した赤い紐だった。
まじまじとそれを眺めていると、後ろから声がかかる。
「どうしたのリィシャ、何かほしいものでもあった?」
「これ…この紐が綺麗な色だと思って…。でもこれ、何かしら?ネックレスにしては紐が太すぎるように思うのだけれど。」
一緒にショウウィンドウをのぞき込んでくるお兄様に、私は見ていた物を指さす。
すると彼はああ、と言って説明してくれた。
「これは帯剣する時の飾り紐だよ。これでベルトと鞘を固定したり、それに結んで飾ったりするんだ。まあ普段はこんな綺麗なの使わないけどね。結構擦り切れて消耗品だし。」
そう言いながらほら、と自分の腰についている剣に巻かれた、緑色の紐を示した。
私はその紐をまじまじと見た後、ショウウィンドウの飾り紐へ目を戻す。
金色に光る石はたぶん、竜目石だろう。竜の目のように金色の石の中に一本筋が入って見える。
たしか竜王国の国玉であるこの石は、フェリンドやウェジントン侯爵領付近の守護を司る月の女神の守護石でもあるので、お父様が使う道具などにあしらわれているのを、よく見かけたことがある。
フェリンドで見た石はどちらかというともう少し象牙色っぽい物が多かったが、眼の前の飾り紐にあしらわれた石は、深い金色をしており、本当に竜の目のようだ。
その輝きが、二年前の月夜に見た瞳と重なって、私は我知らずに息を吐いた。
「あら、この石、殿下の瞳の色とよく似ていますわね。」
更に後ろからかかったロザリンドの声に、ドキッと胸が跳ねる。
「紐の赤も見事ですし…よろしいのではなくて?」
そう言って頷く親友と、飾り紐を交互に見る。
今さっき形が残らないもののほうが迷惑にならないだろうと考えていただけに、あまり装飾品を贈るのは気が進まない気がしたのだが、それを差し置いても目の前で光る竜目石は私の目を捕らえて離さなかった。
~消耗品なら、いいかしら…。
そう考えてしばらく迷った後、結局私はその飾り紐を購入することに決めた。
装飾品店に入り、店主に購入の意志を伝えると、愛想良く対応してくれる。
ほうっと息を吐いて、店の人が飾り紐をケースから取り出して包装してくれるようすを眺めていると、探し物が見つかって、安心したせいだろうか、それまであまり聞こえなかったまわりのざわめきが耳に届いた。
またロザリンドが衆目を集めているのだろうかと思ったが、どうやら違うようである。
装飾品店ということもあり、店には私たちの他にも何人かの令嬢が同じように思い思いにアクセサリー等に見入っている。
そんな彼女たちの中の数人がこちらをチラチラと伺いながら、何か小声で話している。
「ほら…あの方…」
「まあ、噂どおりの方ね。」
「グレイン子爵様とご婚約なさっていたのだけれど、子爵様が他の女性を選んで破棄になったとか…」
「あら、わたくしはグレイン侯爵家は不貞などなかったと言っているときいておりますわ。」
「わたくしは元々侯爵家は婚約破棄をのぞんでいたのに、受け入れずにグレイン子爵様が思いを寄せた女性を見て不貞だと騒ぎ立てたと聞いているけれど…。」
「まあ、どちらにしても侯爵家はお気の毒ね…」
これはもしかしてもしかしなくても私についての噂話のようである。
聞き耳をたてるのはお行儀が悪いかと思ったのだが、聞こえてきてしまうのだから仕方がない。
そういえば侯爵家との婚約について、正式に破棄されたと聞いていなかったのだが、今どうなっているのだろうか。
お父様やお兄様は私が傷つくと思ってなのか、なかなか詳しい話をしてくれないのだ。
こうやって出先で囁かれるくらいにはフェリンド伯爵家の評判を落としているとなると大変申し訳ない。
できればひそひそと話続ける令嬢たちにもう少し詳しく!と詰め寄りたいところであるが、そんなことをしても彼女たちは逃げてしまうだけだろう。
こうなってくると殿下から逃げ出した不審人物も、婚約者に愛想をつかされてしまった令嬢も、家族への迷惑度はあまり変わらないな、とため息をついたところで、なんだかものすごく冷ややかな空気が横から流れてくるのを感じた。
見ればロザリンドが、見たことも無いような冷たい視線を令嬢たちに向けている。
自分に向けられているわけでもないのに震えあがってしまうその瞳に、話に夢中の令嬢たちはまったく気が付かない。
お願い!気づいてお嬢さんがた!!私じゃなくてその横を少しだけでも見て!
そんな私の願いもむなしく、ふん、とロザリンドは鼻を鳴らした。
「いやだわ、わたくし耳がおかしくなったのかしら、こんな場所で豚の鳴き声が聞こえるみたい。」
わざと聞こえるように言っているだろう彼女の言葉に、私も令嬢たちも固まってしまう。
「そ、そんなわけないじゃないローザ。わ、私は何も聞こえないわ?」
なんとか金縛りを解き、自分の口元がひきつるのを感じながら、背後の令嬢たちに早くにげて!と念を送るも、いまだ固まってる令嬢たちはそこから動く気配が無い。
そんな彼女たちには目も向けず、ロザリンドはとりなす私ににっこりと愛らしい微笑みをむける。
「うふふ、そうですわよね、おかしいですわね、こんな場所で誇り高いメゼット男爵家と、マイアン子爵家のご令嬢が家畜を連れてらっしゃるわけありませんもの。」
ほほほ、と笑う彼女に私はぎょっとする。ご令嬢たちにいたっては顔色を失って震えている。
彼女の脳内の貴族名鑑の充実ぶりに感心すると供に、その名前をはっきりと出した理由に思い至ったからである。
ロザリンドははっきりと言っているのだ。
お前たち、潰すぞ、と。
国の上層に位置する侯爵家の令嬢の、しかも王太子の覚えもめでたい彼女が一声かければ、彼女たちの家はひとたまりも無いだろう。
普段家の力を誇示しないロザリンドの、らしくない発言に私は肝を冷やした。
私は助けを求めてルミールお兄様をちらっと見たが、彼は我関せずといった体で店主と購入の手続きを進めている。
令嬢たちの言葉が聞こえていなかったか、彼もまた怒っているのかのどちらかだろう。
これは私がなんとかするしかないと腹をくくり、ロザリンドに笑顔を向ける。
「ふふふ、ロザリンドは冗談がうまいのね。ね、お兄様が買い物を済ませてくださるまで少し外に出ない?私新鮮な空気が吸いたいわ。」
あくまでも明るくそう言って彼女の腕を引く私を、ロザリンドはじっと見つめた。
そして私が大丈夫、と目で語りかけたのに気づいてか、ふう、とあきれたようなため息をつくと
「そうですわね、わたくしもそう思っていたところですの。ルミール様、あとはお願いいたしますわね。」
そう言って私の誘いに応じてその足を店外に向けた。
なんとか面倒事にならなかったことに安堵しながら、私はロザリンドの腕を引っ張りながら店外に出る。
外の新鮮な空気に、ふーっ、と止めていたらしい息を吐きだすと、後ろからついてきたロザリンドが不服そうに声を上げた。
「アリィシャは優しいですわね。わたくし少し虐め足りませんでしたわ。」
「そんなことないわ。私のせいでローザに迷惑をかけたく無かっただけよ。あの方たちに情けをかけたわけではないわ。」
普段、優しいロザリンドにあんなことを言わせてしまったのは本当に申し訳ない。
家族だけでなくウェジントン侯爵家にまで迷惑をかけるのは私の幸せ計画的には絶対回避したい事態である。
しかしそんな私に、ロザリンドはむう、と可愛らしく唇を尖らせ、そっぽをむいた。
「もう、ラフィル様もあなたも、全然わたくしを頼ってくださらないのですもの。面白くないですわ。」
そう言ってすねる彼女が、いつもの自信ありげな姿とはうって変わり、子供っぽくかわいくて私はこんな時なのに胸がキュン、となってしまった。
「何言ってるの!目一杯頼っているじゃない!今日だってお買い物につきあってもらったわ!」
そう言ってつかんでいた彼女の腕に身をよせてぎゅっと抱きしめる。
まったくこの親友にはいつも助けられてばかりだというのに、彼女はこれ以上何をしてくれるというんだろうか。
私を思ってくれる彼女の気持ちが嬉しくて、心がとっても温かくなる。
そんな私にロザリンドはまだ何か言おうとして開きかけていた口を、困った笑顔を作って閉じた。
「まあよろしいですわ。アリィシャが良いのならそれで。」
そう言って、腕に抱き着く私の腕に、抱き着き返してくれる。
本当に、こんな素敵な親友が居て私はつくづく幸せものだと思う。それに比べたら顔も知らないご令嬢に陰口をたたかれるのなんて砂粒くらいの些末事である。
しかし二人でふふふ、と笑いあっていたところ、おもむろに私の肩を誰かがつかみ、強引に彼女から引きはがした。
「っきゃ!?」
いきなりのことに声をあげ、すんでのところで転びそうになるのをたたらを踏んで踏みとどまる。
お兄様が店から出てらっしゃったのだろうか?と振り向くと、そこには長身の男性が、笑顔を向けて立っていた。
「まあクラ…」
見上げた先の灰色の瞳にクライム様?と声をかけようとして、その人の髪色が赤茶であることに私は気づいた。




