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妖精姫の幸せは  作者: 手塚立華
本編
16/54

15 拝華祭2

 貴族子女の社交界デビューのタイミングについては様々あるが、ある程度中央に名前が通った貴族の子女であると、「拝華祭」でデビューするというのが竜王国では一般的である。

 この夜会は春の社交シーズンのはじめに催される王室主催の夜会で、その歳に15歳を迎える女性と、17歳になる男性へ招待状が届く。

 集まった子女たちはまずエントランスのホールで、他の客たちに挨拶等を終えてから王宮の待合室に通される。その後他の招待客と、王族が待つ拝華の間という広いホールに入り王と王妃の前で整列する。名前が呼ばれたら紳士淑女の礼をもってご挨拶をし、全員の挨拶が終わったところでその日のパートナーと共にはじめてのダンスをするのである。

 その後は王から祝辞をもらって新米紳士淑女たちは開放され、普通の夜会となるのである。


 はじめての王族との面会を控え、私は待合室で少し緊張していた。

 できればロザリンドを探したかったのだが、拝華の間への入場はパートナーの内、その日デビューする者の家格順なので、さすがにグレイン子爵が横にいるとしても侯爵家の姫であるロザリンドと伯爵家の私では随分開きがあるのか、彼女の姿は近くには見当たらなかった。


 あまりお茶会などにも参加をせずに特訓ばかりしていたせいで、知り合いと呼べる者も少ない。

 少し心細さを感じて、私はグレイン子爵の腕にかける手をきゅっとにぎった。


「大丈夫ですか?」


 それに気づいたらしい子爵が、気遣わしげにきいてくる。


「あ、申し訳ありません。私王宮に来るのは初めてで…。グレイン子爵様にとってはお仕事場ですもの。おかしいですわよね?」


 そう言って苦笑すると、グレイン子爵は少し眉を上げたあと、目を細めて微笑んだ。


「いえ、私がはじめて父について王宮に参じたのは12の時でしたが、その時は随分緊張しました。普段どおりしていらっしゃれば何も心配はいりません。」


「まあ、ありがとうございます。」


 視線を前に戻しきれいな姿勢で入場を待つグレイン子爵を、私はお礼を言いながら見上げた。

 彼は普段の振る舞いから教科書のようなきれいな動きをするので、たぶん普段どおりふるまっていてもなんら問題はないのだろう。

 そういうところは羨ましいなぁ、とそっと息をつく。


 しかしパートナーが落ち着いているというのは心強いものである。

 まわりの子女たちはどこかソワソワとした浮足立った雰囲気で、自分もはたから見ればそう見えるのだろう。

 私は横にたつグレイン子爵にならってぐっと顎をひき背筋を伸ばした。

 ここまで頑張ってきたのだ。ここで怖気づいていては始まらない。


 すると間もなく、待合室の拝華の間へ続くドアが開かれ、前に並ぶ順に、参加者たちの名前が読み上げられた。

 私とグレイン子爵の名前が読み上げられると、子爵が「行きましょうか。」と短くいい、私達はホールへ進み出た。



 ホールの中は今までみたことが無いほど光に満ちていた。

 大きなシャンデリアの光、着飾った御婦人たち、入場する者を見ながら歓談する紳士たち。

 一瞬、その光景と喧騒に圧倒されそうになるが、なんとかふんばり、背筋をのばす。

 レディに教えてもらったことを一つも無駄にしてはならない。


 所定の位置に並びながら、私はまっすぐ前を見据えた。

 そこには壇上に座る一組の男女と、その脇に立つ男性がいる。

 座っているのはこの国の王と王妃だろう。

 実際に拝謁するのは初めてだが、肖像画ではその姿を見たことがある。

 白く豊かな白髪とひげを蓄えた王は堂々としており、私達を温かい眼差しで見守っている。

 王妃はブロンドの髪の毛をきれいにまとめ上げ、シンプルな赤いドレスながらその落ち着いた気品はさすがの一言だ。


 横にいる男性に目を移し、私はすこしギクリとする。

 鮮やかな赤い髪が目に入ったからである。

 あの位置にいるということは、たぶん彼は王太子なのだろう。

 鮮やかな赤髪をゆったりと結んで横に流し、白い軍服を着込んでいる。

 すぐ近くにいるわけでは無いので顔の造形まではわからない。


 しかし私はなぜか『違う』と思った。

 何故かと問われると上手く説明できないのだが、二年前に遭遇した男とは別人のような気がするのである。

 圧迫感が無いというか…。

 王太子らしく堂々としているのでカリスマ性やらオーラが無いとは言わないのだが、あの男を前にしたいたたまれなさを感じなかったのだ。


 私がそんなことを考えながら王太子を観察していると、全員の入場が終わったのか、名前の読み上げが始まった。

 最初に呼ばれたのは、ロザリンドである。


名前を呼ばれた後は、全員の名前が呼ばれるまで礼の姿勢を崩さずに待つ。

 これが案外体力と筋力が必要で、真っ先に呼ばれるロザリンドは一番長くその姿勢を保つことになるのだ。

 もちろん、パートナーを務めるラフィルお兄様も一緒である。


「またこの苦行をすることになるとは思わなかった」


 とウェジントン子爵から代打を要請する手紙をもらったラフィルお兄様が遠い目をしていたのを思い出す。

 ロザリンドであればそのままの姿勢でいつまででもじっとしていられそうなので、私は心の中で兄へエールを送っておいた。


 名前は順々に呼ばれていき、あっという間に私の番になった。


 子爵の横に立っていた少女が礼をしたのを視線のはしに捉えて、私は気合を入れる。

 この礼は、大人になってもその出来が話題にあがるもの。

 一挙一動すべてに気を配らなくては。それでいて、力みすぎず、自然に見えるように。


 私は自分の名前が呼ばれたのをきくと、ふんわりと微笑み、優美に見えるよう全身の筋力を総動員して礼をした。

 美しい動きとは、筋肉が必要なものなのである。

 隣の子爵が相変わらずの完璧な動きで礼をしてくれたのも、私にはありがたかった。

 おかげで自然に動くことができる。


 あとはこのまま、全員の名前が呼ばれるまでキープである。

 王様から許しをもらったら3秒数えて顔を上げるのだ。

 数時間同じ体制のまま過ごす訓練をしてきたおかげで、全員の名前を呼び終わるまでの20分程度はなんということは無い時間だった。

 私はやりきった満足感ににやけそうになるのを必死でこらえる。

 まだまだここから、ダンスが待っているのである。


〇・〇・〇・〇・〇


 それからダンスまで、私はこれまでに習得したあれこれを総動員して頑張った。

 一番心配だったダンスもこれまた教科書のようなリードをしてくれる子爵のおかげで、まったくそつなくこなせたはずである。


 ダンスが終わり、王様の「今宵、我が竜王国に新しい華が加わったことを嬉しく思う。みな、大義であった。今後の華たちの彩りを期待している」という一声をもって、拝華祭の前半戦は幕を閉じたのだ。


 私はふーっと小さく息をつき、ダンスホールの中央から退場しながら横にいる子爵を見上げた。


「グレイン子爵様、どうもありがとうございます。おかげではじめてのダンス、とても楽しく踊れましたわ。」


「そうですか、そう言っていただけると私の心の荷も降りるというもので…」


 晴れやかな笑顔でお礼をし、グレイン子爵も応じてくれたのだが、彼が最後まで言う前に、私の前に紳士服の一団が現れた。


「はじめまして、レディ。レント=フラットンと申します。もしよろしければ次の一曲ご一緒いたしませんか?」

「いえ、よければその名誉を私に。」

「いや、ここは私に。」


 そう口々に言って押し寄せる男性陣に、私は慄いてグレイン子爵の腕にしがみついた。

 なるほど、これがレディが言ってた10曲踊れるようにしておけということか。

 世のご令嬢たちはこんなお誘いをさばいているのかと思うと、この場にいる先輩の貴婦人たちに尊敬の念を感じる。


「わたくし…」


 誰の手からとればいいのかわからず、助けを求めてグレイン子爵を見上げたが、彼は違う方向に気を取られていた。

 私の手が彼の腕をにぎるのに気づいたのか、視線をこちらへ下ろす。

 しかし彼から出た言葉は助け舟では無かった。


「アリィシャ嬢、お邪魔になってはいけませんので、私は少し失礼します。あちらで少し話をしてきますので、どうぞ夜会を楽しんでください。」


 そう言って、ダンスを求める男たちに押しのけられつつ、その場から立ち去ってしまったのである。

 通常、同じ男性と続けて踊るようなことは無いので、これは当然のことなのかもしれない。

 ここで日和っていては淑女の道は遠いということか。

 つい弱気になってしまった自分を叱咤し、私は背筋を伸ばした。


「まだ未熟なわたくしのためにお時間をいただけるなんて嬉しいですわ。でも困りました、私の身は一つしかありませんの。順番ということでお許しくださいませね。」


 そういっておっとり笑い、最初に申し出てくれた茶色い髪の男性の手を取る。

 早いもの勝ちであれば身分だなんだと面倒なことは無いだろう、と思ったのである。


 手をとった男性は嬉しそうに目を細め、「光栄です。」と私をダンスホールの中央へまた導いた。


「フラットン様とおっしゃると、フラットン男爵家の方ですわね。ご領地では良い紅茶を作られているとお聞きしました。わたくし、先日頂いたのですけど、とても香り高くて素敵なお茶でしたわ。」


 さきほど名乗ってくれた名前を覚えた貴族名鑑と照らし合わせながら、話しかける。

 相手の男性は驚いた顔をしたあと、にこっと人好きしそうな笑顔を向けてくれた。


「当家の名前をお気に留めていただけていたとは僥倖です。しかし我が領地の紅茶も、拝華祭にあつまった華の香りの芳しさにはかないません。あなたを初めて見た時、妖精が華のかおりにつれられて迷いこんできたのかと思いました。」


「まあ、お上手ですね。」


 フラットン様のお世辞に、笑って返す。

 妖精のようだ、とはよく言われる褒め言葉なのだが、私は実のところこの言葉にピンときていない。

 なにせ元妖精だったのである。たぶん、人間も「人間のようですね」と言われて喜べないのと同じようなもんである。


 顔を向けると、フラットン様は赤くなって目をそらした。

 不躾に見つめてしまっただろうか、と心配になりつつも、ダンスはなんとか完遂する。


 お礼を言って彼と別れると、またすぐに手が差し伸べられた。

 さすがに20分耐久お辞儀をした後の三連戦になりそうだったので、少し休憩に断ろうかと目を上げると、灰色の目とかちあった。

 グレイン子爵が戻ってきてくれたのかと一瞬思ったが、シャンデリアの光を反射する金色の髪の毛を見てそれは間違いであることに気づいた。


「クライム様!お久しぶりですわね。」


 知った顔にほっとして、私は思わずその手を取る。


「今日は一段とおきれいですね。沢山の華が咲いておりますが、あなたを見つけるのは容易でした。こんな綺麗な方を婚約者にできる兄に嫉妬してしまいます。」


 クライム様の婚約者という発言に、少しまわりがざわつく。

グレイン侯爵家といえば我が国でもトップクラスのお家柄である。その婚約者という者には、皆興味があるのだろう。私はあまり気にしないよう笑顔で応じる。


「ふふふ、クライム様やグレイン子爵様もとっても背がお高くていらっしゃるから、こんな人混みの中でもすぐ見つけられそうですわ。私なんて、人の波にのまれたら沈んでしまいますもの。」


「あなたが人混みに沈むなんてことは無いと思いますが…。今日は誰より輝いておいででしたから。それで、もしよろしければ今日一番の華であるあなたにダンスを申し込みたいのですが…。二曲続けて踊ってらっしゃいましたよね。少し休憩されますか?」


 彼の気遣いをありがたく思いつつ、私は少し逡巡した。


「いえ、まだ大丈夫ですわ。せっかくのお約束ですもの。クライム様とぜひ踊りたいですわ。」


 たしかに少し疲れているが、知り合いとならそんなに緊張もしない。

 この後休憩することにしようと考えて私が答えると、クライム様は嬉しそうに破顔する。

 その顔はグレイン子爵にそっくりだが、表情が違うだけでこんなに華やかになるのだな、と私は感心した。

 これではたしかに、ロザリンドがウェジントン子爵の無表情をなげくのも無理からぬことである。

 私も気をつけねば、と顔の筋肉に手をもっていきそうになり、あわてて下に戻した。


〇・〇・〇・〇・〇


 三曲目も踊り終え、さすがに休憩するかと歓談する人たちのほうへ向かおうとしたところ、クライム様もついてきてくださった。曰く


「女性が夜会でお一人というのはあまりよろしくないと思いますよ。私でよければ、お供しましょう。まあ少し、刺すような視線が怖いですが…。」


 とのことで、私を気遣ってくれたらしい。

 たしかに横にクライム様がいてくれると、話しかけてくる男性はいるが、クライム様が「失礼、彼女は疲れていますので」と言うだけで渋々引き下がってくれる。


 彼がグレイン侯爵家の人間だということも大きいのかもしれない。

 逆に、これだけ長身で顔も悪く無く、愛想の良い彼であればモテるだろう。

 

 もしかして私もご令嬢の勘気に当てられているのでは?

 はたと気付き、恐る恐るまわりを見回す。

 すると案の定ご令嬢たちの厳しい視線にいきあたってあわてて前を向き直した。

 さきほどまで初めてのあれこれで必死すぎて周りがまったく見えて居なかった。

 もっと余裕をもって広い目を持たなければ、と反省する。


 とりあえず、冷たい飲み物でも取りに行こうかな、と足を向けると、ほどなくして談笑しているロザリンドとラフィルお兄様の姿が見えた。

 お兄様はともかく、ロザリンドは遠目からでも主張するオーラが漂っているので、すぐにわかる。

 クライム様も気づいたようで、私は彼に視線で了承を得ると、彼女のほうへ少し速度を上げて近づいた。

「ローザ!」と呼ぶと、縦ロールを揺らして振り向いた親友が破顔する。


 そして私はその笑顔と本日の彼女の装いの美しさに思わず足を止めて目を瞬かせた。

 今日の彼女はいつもの巻き毛に赤い薔薇を配し、胸元や腰などにもふんだんに薔薇のモチーフを用いたドレスで、そのドレスのボリュームに負けない彼女の華やかさと相まって、一際輝きが増して見えたのである。


「アリィシャ!どうしましたのそんなところで立ち止まって。」


 私が一向に近づいてこないのに業を煮やしたのか、ロザリンドが近づいてくる。

 彼女の輝きに、霞んでしまいそうな気がして怖気づいたのだとは言えず、笑って誤魔化す。

 そんな私を気にする様子もなく私の前までやってきた彼女は私の後ろのクライム様に気づいたらしく、片眉を上げた。


「まあ、クライム様でしたの。グレイン子爵はどちらへ?」


「グレイン子爵は一曲目が終わった後どなたかとお話があったみたいでわかれたのよ。クライム様はさきほどダンスをご一緒して、私が休憩するのに、ボディーガードをしてくれているの。」


「まあ、婚約者をほっておくなんて無粋ですわね。」


 ロザリンドが私の言葉に眉を潜めてふんぞり返ると、クライム様は困ったように笑われた。

 まあ目の前で兄に減点を申し渡されては笑うしかないだろう。


 すると、ロザリンドの後ろからラフィルお兄様ともう一人の男性が近づいてきた。

 鮮やかな赤い髪に、白い軍服を着た男性は、間違いなくさきほど壇上に居た王太子だろう。


「ロザリンド嬢、妹がお好きなのはわかるのですが、殿下を置いていかないでくださいますか。」


 ラフィルお兄様はさきほどの20…いや、ロザリンドと一緒だったのだから30分だろう、耐久お辞儀で疲れたのか、すでに少しくたびれている。

 その横の王太子は柔和な笑みをうかべ、金色の瞳を細めてにこにことこちらを見ている。


「まあ、私、殿下の御前で…。はじめまして殿下。わたくし、フェリンド伯爵家の長女、アリィシャ=フェリンドと申します。本日ははじめての登城で、無作法者故ご無礼をいたしまして、申し訳ありません。」


 私があわてて礼をすると、殿下は鷹揚に手をふる。


「はじまして、エラン=ドラグ=ハズルーンです。お顔をお上げくださいレディ、今日の拝華祭はあなたやロザリンド嬢という華を拝し、例年になく華やかな会となりました。父王も喜んでおられます。」


 言われて私は顔を上げる。そこにはあの日見た色合いと同じ、鮮やかな赤い髪の毛と、金色の瞳が優しげな雰囲気をたたえてこちらを見ている。

 そこにやはりあの日の冷たい雰囲気は見当たらない。


「まあ、殿下。お忙しいのですからわたくしにいつまでもお構いにならず、どうぞ他の方とご歓談くださいませ。まわりに順番を待っていらっしゃる方が沢山いらっしゃるのに意地悪をするものではありませんわ。」


 ほっとしたのもつかの間、続いて出る、ロザリンドのあっち行け発言に私はぎょっとする。

 いくら侯爵令嬢でも王太子にそれは無いのではないか、と思ったのだが、王太子はくすくすと笑うだけでまったく気にした様子はない。


「意地悪なのはどちらですか、私はあなたの社交界デビューというこの日をとても楽しみにしていたのですよ。できればお隣で参加したかったのですが、叶いませんでしたので父王に無理を言ってせめて特等席で拝見させていただいたのですが。」


 そう言って、ちらっとラフィルお兄様のほうを見る。

 私もつられて兄を見上げれば、その顔には笑顔であるにもかかわらず、正しく「勘弁してくれ」と書かれていた。

 ロザリンド…全然王太子殿下あなたのこと嫌っていらっしゃらないじゃない。

 ウェジントン子爵がエスコートに出てこられなかったとは言え、これはお兄様がちょっとお気の毒では。

 お兄様には後で何か甘い物でも差し入れしよう。


「まあ、わたくし意地悪を申し上げているわけではありませんのよ。ただ殿下を引き留めているのが申し訳ないだけですの。アリィシャ。わたくし少し人気にあてられたようで、ラフィル様とお庭にでも出ようかと話していたところでしたの。せっかくですから二人で参りましょう。今日の話がききたいですわ。女同士の話ですもの。どうぞ殿方はご遠慮くださいませね。殿下、御前失礼いたしますわ。ラフィル様、クライム様、御機嫌よう。」


 ラフィルお兄様を哀れんでいたら、いきなり次はお鉢が自分に回ってきた。


 悲鳴をあげるのをこらえてロザリンドを見ると、彼女はさっと、優雅に一礼して「さ、いきましょ。」となんてことなさげに歩き始めてしまった。

 私は彼女と王太子殿下を交互に見た後、仕方なく彼女についていくことにする。

 どっちも怖いがここに残るほうがもっと怖い。


「そ、それでは殿下、御前失礼いたします。クライム様。ここまでありがとうございました。またお会いいたしましょう。」


「え、ええ。こちらこそ楽しい時間でした。」


 殿下とクライム様に礼をすると、クライム様が、一瞬遅れて頷いてくれる。

 ここに残して行くのは申し訳ないが、爆心地はたぶんラフィルお兄様のほうなので大丈夫だろう。

 彼はすぐにこの場を離れれば無傷でいられるはずだ。


 お兄様は…どんまい!

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