サンタクロースのおじさんは
メリークリスマス!皆さま楽しいクリスマスをお過ごしください!!(^^)!
12月に入ってから、街はクリスマスカラー一色に染まり、LEDだからと、ひと頃の節電ブームを忘れたかのように、華やかな電飾が彩っている。
その街で竹下瑠衣は大勢の人ごみに紛れながら、通りを歩いていた。
瑠衣は子どものころからクリスマスの時期が苦手であった。母親がいなかったせいもあるが、瑠衣は退屈な毎日であろうと、変化のない日々が毎日続いていくことが一番心が安らぐタイプの人間で、このクリスマスシーズンのあわただしさや落ち付かなさや、誰もが同じように、明るく楽しい我が家を持ち、愛し合う相手がいる、と設定された劇場のような雰囲気が苦手であった。瑠衣はごく普通の平凡な人生を望んでいたので、あえてそれに歯向かうということもできない。ただただ、じっと時の過ぎるのを待つ、というのが、毎年の瑠衣の過ごし方であった。
仕事帰りに、スーパーへ寄っても、いつものお惣菜はない。ほとんどがパーティー向けのオードブルに変わる。仕事で疲れるとあまり家事もしたくはないが、この季節は簡単にでも料理をしなくてはならなかった。
だが、そんな瑠衣にも一つだけクリスマスの楽しみがあった。毎年サンタクロースが来るのが楽しみなのだ。
「今年は何をくださるのかしら・・・。」
瑠衣は中学生になったころから、サンタクロースにクリスマスプレゼントのお願いはしないことにしていた。だから、何がもらえるのかは、その時までわからなかった。
瑠衣は今24歳の大人だったが、彼女は信じていた。サンタクロースの存在を。
瑠衣も成長の過程で、もしかしたら、サンタはいないのではないか、と思ったこともあったが、そのたびに、サンタの存在を示す出来事が繰り返し起こり続けたのであった。例えば、瑠衣が小学生のある年には庭にサンタのそりを止めた痕跡があり、トナカイの毛らしきものが落ちていた。
友達は「あなたのお父さんがやっているんじゃないの?」と言ったが、父はやってないと言い張った。その父もおととし亡くなった。母親は生まれてすぐに別れたきりだ。
けれど、去年のクリスマスの朝、目覚めると、いつものように、プレゼントとメッセージが枕元に届いていた。間違いない。いるんだ。サンタのおじさんは。そう信じた瑠衣は、それからメッセージにあった通りのことをしてきた。
まず仕事を辞め、メッセージカードに書いてあった会社に転職した。もともと向いてないと思っていた仕事なので、未練はなかった、そしてほどんどが、父からの遺産だった全財産を指定された口座に振り込んだ。元々自分で稼いだものではないので、未練はなかった。それから、いろいろな場所へ行き、いろいろな人からいろいろなものを受け取り、いろいろな人に会って渡したり送ったりした。ときどき、携帯にメッセージが来た、「いつも見てるよ。いいこにしているね。」と。いい子にしていれば、きっと次のクリスマスもプレゼントがもらえる、いい子にしていれば・・・。
その時、瑠衣は後ろから肩をたたかれた。瑠衣の後ろには二人の男性がいて、ポケットから何かを出し、瑠衣にそれを示しながら言った。
「・・・・だ。少し話を聞かせてもらえるかな。」
瑠衣は、良く聞き取れなかったが、今年も寂しいクリスマスを送らなくても済みそうな気がした。