グリッターダフォディル
「敵襲だ」
そんな声で飛び起きた。
もうユキやビュークは戦っていたし、アイラも詠唱を始めている。
あ~俺もいかなければと思っていたが、今いる広間ではなく、その奥が気になった。
パーティのメンバーからふらふらと離れ、歩いていくと、そこには上下階に向かう階段と、左右に通路がある。
下の階からは海の臭いがした。
生臭いやつ。
上の階からは風が吹いていく。
タッ!
今自分の脇を誰かが通った、確認しようとすると、下の階に誰かが降りていったのだ。
さて、どちらかに向かわなければならない。
下の階から誰かがやってくるのが見たので、よし上にいくことにしよう。
階段を上り、踊場を通り、また階段を上る。
位置的には、先程敵襲があった場所の真上に出ると思ったのだが…
そこは空が広がり。
ケエエェン
遠くから鳴き声が聞こえた。
「おはようテル」
目覚めは最悪であった。
「よう兄ちゃん、起きたようだな」
小さな国の勇者ユキ、派閥に負けた魔法使いアイラ、寡黙すぎるビーストマスターのビューク、そして一人名前を知らない顔だ。
「こちらの方は、昨日の夜発動したトラップにはじめて遭遇したパーティに声をかけています」
「もうダンジョンの中じゃ中堅、いや古参になるかな、んじゃそういうことだ、俺は次のやつらのところにいくわ、聞きたいことがあったら、声かけ終わってから質問にでも来てくれや」
「ありがとうございました」
「トラップってなんぞや?」
異世界からの来訪者テルが聞くと、ビュークが乾燥した芋が入ったスープを渡してきた。
「ダンジョン内にいる冒険者を強制睡眠状態にして、精神攻撃をかけるものです」
「簡単に言うと悪夢を見せられるんだ、起きてるときだと幻影とか言われるね」
「さっき見てた変な夢ってそれか」
「判断力をまず落とされるから、今日はみんな本調子じゃないよ、テルはどこまで覚えてる」
「どこまでね~」
「みんな同じような夢を共有してるので、登場してる人物は本人と連動したと行動をとってるそうなのですが、テルさんはふらふらと私たちから離れていきましたよ」
「あっ、そうだよな、あれは普段からならありえないよな、俺が一人離れて、別行動しても、満足に戦えるわけじゃないしな」
「それにテルがそうなったら、無理矢理にでも止めそうだけども、それもしなかったし」
「これは全員トラップに引っ掛かっていたということですね」
「残念だけどもそうだね」
「えっ、つまり俺らは死にかけたと」
「運が良かったんだ、他の冒険者の人たちがいたから、助かったんだよ」
「このトラップ、悪夢の一夜に前にも遭遇した経験者の皆さんが、突破したので夢から覚めることできたというわけです」
「悪夢ってどうやって覚めるんだ?」
「そこまでは聞いてなかったな、ただテルがいなくなったあとも戦ってると、途中で誰かが火を使えって言い出したんだよ」
「でもですね、あそこまで判断力が落ちてると、満足に呪文を使えないんですよね」
その前から呪文を使おうとしても何度も不発を繰り返した。
「魔法が必要なのに、魔法を使えない状況にされる。短縮呪文使えなかったら、死んでましたよ、あ~セブンファイア覚えてて良かった」
「セブンファイア?」
「短縮呪文の種類」
「それってどう違うの?」
「魔法ってさ、呪文が長いとその分集中力が高まって、ひねり出せる自由が増えるんですよ」
「その長い呪文を早く唱えるのが高速詠唱」
「早口言葉か、生麦生米生卵だな」
「それなんです?詠唱の練習には使えそうですけど、短縮呪文は逆で短い言葉で魔法を繰り出す方法ですね」
「しかしここまで魔法への妨害されちゃうと、魔法使いの天敵だね」
「魔法使いの教育は長い詠唱と集中力が不可欠と、しばらくはそればっかり練習させられますからね、知らない間に精神攻撃を受けている、それがなんだかわからないのに、さらに判断力落ちて集中できないって、急に対応はできないと思いますね」
「私もセブンファイアは使えるけど、火力はアイラには遠く及ばないものな」
「はいはい!俺も使えますか?」
「使いたい?」
「使いたいです、魔法ってさ、やっぱり夢じゃん」
「ダンジョン出てからならいいよ」
「えーケチ」
「今はダンジョンの中にいるからさ、新しく何かを取得するのを好奇心で選ぶのはやめた方がいいよ」
「ロマンは大事です」
「そんな奴から死んでいくよ」
「おおーい!」
冒険者の誰かが騒いでいるようだ。
「こういうときってさ、あんまりいいことがないんだが…」
「それすごいわかります」
「ダフォディルの奴等はいるか!」
「はいはい!こっちにいます!」
そういってユキが声を出しながら、手をあげた。
「グリッターダフォディル?」
「はい、私がリーダーです」
「名前がみょうちくりんだし、長いな」
「でもかぶらないと思いません?」
「違いない、かぶるとな、最悪だからな、本題だ、お前さんのところは情報交換に同意していたから、メンバーの名簿を預かっていたが、先程その名簿を持ってたやつが襲われた」
「奪われたんですか?」
「いや、散らばっていただけだ」
「あら…これは不穏な空気」
「ピンチじゃないの?」
「…わかりました、注意します」
「話は終わったようですね」
「今は注意だけって感じ」
「しかし、毎回いろんなことが起きるな」
「テルさ、ここをどこだと思ってるの?ダンジョンだよ」
ここは冥界とも奈落とも言われている。
「そーだな、そういえばさっきの人もいっていたけど、グリッターダフォディルってこっちにはない言葉なのか?」
「テルさんの話だと、そちらの世界と類似の部分もありますが、こちらには聞かない言葉です」
グリッターダフォディルは今はアイラが持ってる、テルが異世界から持ってきた手帳からつけられた名前である。
「ここにはなんと書いてるんですか?」
手帳の裏表紙には手帳の話が日本語で載っていたので、テルに説明を求める。
「表紙の花が俺らのところでは水仙、他の国ではダフォディルって呼ばれていて、手帳に使われている革がグリッター素材、きらめきを考えて採用されたって書いてるな」
「その名前は使えませんかね?」
「何に?」
「私たちのパーティ名に、異世界の言葉ならまずかぶりませんし」
「そうそう、かぶると大変なんだよ」
「紋章図鑑のようにこの名前はもう使われていますとか、載っていれば便利ですけど、そういうのはありませんし」
「同じ名前で険悪な関係になるって言うことがないから、いいと思うよ
」
というわけで、小さな国の勇者ユキ、派閥に負けた魔法使いアイラ、寡黙すぎるビーストマスタービューク、異世界からの来訪者テルの四人はグリッターダフォディル。