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現代トラウマヒーロー伝 大魔王遣いヒイロ!  作者: 秋月瑛
Season1 大魔王遣いヒイロ!
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第9話 ブタに真珠

 店内は外よりも騒がしく煌びやかだった。

 天井を見れば、贅の極みとしか思えない、重圧感たっぷりで忌々しく輝く巨大シャンデリア。もちろん、ダイヤなどの宝石類が散りばめられている。

 床を見れば、ピカピカに磨かれた大理石を無駄にするように、ボロイマットが敷かれている。良い物を悪い物で潰すセンスが、一般人とは違うこの店のオーナーの贅沢センスなのだろう。

 そして、もっとも趣味が悪いと思われるのが、店の中央部分にある濁った水が噴出す噴水の中央にあるセンスの悪い黄金の豚像。その豚の瞳に真珠が埋め込まれているのはギャグか嫌味かだろう。

 カード、ルーレット、スロットと定番のギャンブルはもちろん、他にもいろいろなギャンブルが取り揃えてある。アンダーグラウンド過ぎて、ここでは言えないような過激なギャンブルが多数あったり、なかったり、やっぱりないかなぁ。みたいな感じだ。

 店内の奥へと足を運ばせるミサに、ヒイロと華那汰はオズオズ怯えながら付いていく。どっちかというと、ヒイロの方が怯えているようだ。場の空気に窒息死させられそうな青い顔をしている。

 奥へ奥へと入っていくと、途中なんども店員に静止させられそうになったが、ミサはその都度ティッシュ配りでもするように紙切れを配っていくのだった。

 紙切れをもらった店員は急にニヤニヤして、丁寧に頭まで下げちゃってくれて、ミサたちを奥へと通してくれた。きっとミサの配っている紙切れには、恐ろしい魔力がこもっているに違いない。

 不思議に思ったヒイロがミサにそっと耳打ちした。

「なに配ってるんスか?」

「うふふ、ヒミツ。水戸黄門の印籠みたいなものかしらね(ヒイロくんに教えたら、また落ち込みそうだもの)」

 オーナーの部屋の前には、体躯のいいプロレスラーみたいな男がドアの前で仁王立ちしていた。

 大男の前に立ったミサが首を大きく曲げて、それでも足りず上目使いをする。その光景は巨人と小人。一五二センチと小柄なミサだが、二メートルを優に超える巨人を前にしたら、誰でも小さく見えてしまうだろう。

「オーナーにお会いしたいのだけれど、取り次いでくださる?」

 ミサの要請に男は無言で答えた。シカトだ。

 数秒間の沈黙が廊下に降り、再びミサが口を開く。

「オーナーにお会いしたいのだけれど、取り次いでくださる?」

 男は微動だにしない。またシカトだ!

 二度のシカトにも涼しげな顔のミサ。目元はサングラスで隠れているのでわからないが……。

 ミサの口元が笑みを浮かべ、マジシャンもビックリの早業で手に両手に扇が!?

 扇状に広げられたそれは札束だった。しかも、御ロし立てのピン札だ!

 一度は誰もやってみたいと思う、札束による両手うちわ。顔をペチペチ叩かれたら言うことなし。それを今、ミサは惜しげもなく、なんの感慨もなく、あっさりとさっぱりとやって見せたのだ。

 だが、しかし!

 男はこれにも微動だいしなかった。

 そこで、ミサは奥の手を使ったのだ。

 サングラスを取り、相手の瞳の奥の奥まで覗き込むように見つめ、濡れた唇で静かに囁く。

「今晩、ホテルで待ってるわ……うふふ」

 なんという反則技!

 まさかミサがこんな裏ワザを使うなんて誰も考えなかっただろう。

 やはり男は無言のままだったが、顔をほのかに桜色に染め、サッとドアの横に退いた。効果があったのだ。

 サングラスを掛け直し、ミサは呆気に取られる華那汰たちのほうを振り返る。

「入れてくれるそうよ、入りましょう」

「は、はい(月詠の先輩の素顔、そういえばちゃんと見たことないや)」

 この間、ヒイロは床に沈んでいた。なぜって、ミサがビックリ発言をした――より前に両手に札束の光景を見せられてノックアウトしてしまったのだ。

 オーナー室に入っていくミサを追いかけて、華那汰が放心状態のヒイロを引きずりながら中に入った。

 豚だ!

 豚がいる!

 あの豚がバナナを食ってる!

 オーナー室のデスクにドッシリと座る豚。どっかで見たこの豚さん。カジノフロアの中央にあった黄金の豚像そのまんまの豚だ。――いや、人間だ。

 そこにいるのは列記とした人間だった。

 そのスタイルは、上半身裸にステテコパンツという珍妙なものだった。白くぶよぶよ肥えすぎだ肌にラード……もとい脂汗が浮かんでいる。チャームポイントは首の赤いリボンだ。

 ブヒブヒ鼻息を立てながら、豚男がブヒブヒとミサをブヒブヒ睨んだ。

「なんだキサマは、ぶひっ(どっかで見たことあるガキだな)」

「わたくし、月詠幻蔵の孫娘のミサと申します。あなたにお会いするのは、三度目だと思いますわ」

「ぶひっぶひっ、ぶひっ、あの月詠会長の孫か! そう言えば、二年ほど前にもパーティーでお前を紹介されたぶひっ(どえらい奴が尋ねて来たもんだ)」

 ミサの祖父のことを知っている豚男は脈拍数が急上昇、鼻息も一二〇パーセント増しだ。身体から出るラードもテッカテカだったりする。

「ぶひっ、ぶひっ、その孫娘がぶひっになんの用だ?」

「俺様は強くなりたんだ!」

 突然元気になって飛び出すヒイロ。話をぶっ飛ばしすぎだった。そんなヒイロは完全に無視。

 ミサが話を続ける。

「不思議な石が〈飽食街〉にあると聞いて来たのだけれど、そんな話を聞いたことないかしら?」

「ぶひっ? その石は高く売れるのか?(金儲けの臭いがするぞ)」

「あなたには関係ない代物だわ。関わるとトラブルに見舞われるわよ」

「トラブルはまっぴらごめんだぶひっ。ぶひっはここで静かに金儲けしてるのが性に合ってる、ぶひっ」

 この豚男は以前は宝石を取り扱う会社の社長であったが、ある日、忽然と社会から姿を消してしまった。豚男は自分の意思で失踪し、惹かれるようにしてこの〈飽食街〉にやって来た。そして、付き得ぬ欲望を満たそうとしながら、いつしかこの街の首領と言われるまでにのし上がったのだ。

 豚男の鼻から突風が吹いた。

「ぶひーっ、心当たりがあるぞ。だがもちろんタダじゃ教えられない」

 マジシャンも顔負けのワザでミサの手に各種クレジットカードが扇状に出された。

「カードでお支払いできるかしら?」

「だめだ、だめだ、ぶひっは現金か宝石類でしか取引しないぶひっ。払えないなら、そこにいる女と交換でいいぞ、ブヒヒ(元気そうで美味そうなガキだ)」

 雄豚に舌なめずりされて見られた華那汰は背中にゴキブリが走る思いだった。

「イヤ、イヤ、絶対ヤダからね。あんなの女になるくらいなら、死んでやる!」

「ぶひっぶひっ、気の強い女がぶひっは大好きぶふぉ!」

 デスクから立ち上がった豚男が、お肉をぷるるんさせながら、のっしのっしと華那汰に近づく。豚男に通ったあとにはなぜか巨大な水溜りが(笑)

 嫌悪感を抱きながら、華那汰が後ずさりをする。顔が完全に硬直してしまっている。

「来ないで、来ないで変態!(こんな男に襲われたらお嫁に行けなぁーい!)」

「ぶひっぶひっ」

 鼻息が二〇〇パーセント増しで荒くなっている。華那汰絶体絶命だ。華那汰ピンチ!

 豚男のラードたっぷりの手が華那汰に伸ばされたとき、その間になんとヒイロが立ちはだかったのだ。

「華に手を出すな!」

 ベチョッ!

 脂ぎった巨大な手がヒイロの顔に直撃した。手を離されたヒイロの顔はもちろん油まみれで、ベットベト。

「うぇーっうぇうぇっ、キモチ悪い(しかも、なんか臭いぞ)」

 最悪だった。

 助けてもらった華那汰ですら、素早くヒイロと距離を置いている。薄情者だ。

「覇道くん近づかないでよ! 来たらコロスから」

 ガーン!

 ヒイロ的大ショック!

 後頭部をハンマーで殴られたみたいに、ヒイロは前のめりになって床に沈んだ。本当に情けない男だ。

 再び華那汰に襲い掛かろうと豚男が動き出した。その動き、豚というよりもはやナメクジだ。床に粘液を引きずるあたりが特に。

 だが、再び華那汰を守ろうと豚男の前に立ちはだかる勇敢な戦士――ミサだった。

「いくら出せば教えてくださるの?」

「三〇〇万で教えてやるぶひっ」

「一〇〇万円(いきなり吹っ掛けて来たわね)」

「二五〇だ(いきなり値切りやがったな)」

「一五〇万円(そんなだから肥えるのよ)」

「二〇〇でどうだ(やるなこのガキ)」

「やっぱり一〇〇万円ね」

「ぶひぃ!? 一〇〇万だと?」

「だって切りが悪いと数えるのが大変なんだもの」

「わかった、現金で一〇〇万だ、ぶひっ(見事に値切られちまった)」

 商談成立で、ミサは持っていた黒い小さなバックから、帯のついたままの札束を取り出した。

「ちょうど一〇〇万よ。信じられないなら早く数えて」

 一〇〇万円の札束が取り出された瞬間、どこかでバタンと力尽きる音がした。自力で立ち上がろうとしていたヒイロが、札束を見て再び後頭部をズシンと殴られたのだ。本当に仕えない男だ。

 札束の厚さを視認した豚男は満足そうに頷いた。厚さで数がわかるのだ。

「ぶひぶひっ毎度。ぶひっの知ってる情報は、この店を出て3ブロック先に行ったところにあるビルで活動する新興宗教集団の話ぶひっ」

 豚男の話によると、この〈飽食街〉にはいくつもの宗教団体が存在していて、中でも大きな勢力を誇っているのが、モッチャラヘッポロ教といういかにも怪しい宗教団体らしい。

 モッチャラヘッポロ教は自分たちの信じる神を崇め、生贄をささげ、歌を歌い、不思議な石を囲んで踊るそうだ。その石には不思議な力が宿っているらしく、病を治したり、ときには不思議な能力を授けてくれるらしい。きっと石がガイアストーンに違いない。

 華那汰たちは役立たずのヒイロを引きずりながら、カジノをあとにしていったのだった。

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