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現代トラウマヒーロー伝 大魔王遣いヒイロ!  作者: 秋月瑛
Season2 電波系大神官の復讐
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エピローグ さらば荒波の海へ!

「ちょっと待って華那汰ぁ!」

 姉の制止を振り切って華那汰は家を飛び出した。

 ぴーちくぱーちくスズメがさえずり、せせらぎのように爽やかなそよ風、朝日がサンサン眩しい日差し、そして住宅街を駆ける爆走少女。

「遅刻遅刻ぅ〜っ!」

 フランスパンを丸ごと口にくわえ、ブレザーに袖を通しながら走る。

 学校への最後のカーブを減速しないで曲がる!

 それがポリシーだから!

 が、いつものパターンで目の前に飛び込んできた人影!?

「またーっ!?」

 ドン!

 口にくわていたフランスパンが宙を舞い、華那汰も転びそうになるが、地面に手をついてそのまま側転しながら、さらにフランスパンもキャッチ。

 どうにか尻餅をついてM字開脚をさらることは避けられた。

 でも、結局パンツを見えた。

 今日はパステルイエローだった。

 華那汰の目の前には、陽の光を背中に浴びて立っている男の姿。顔が陰になっていて見えないが、華那汰にはちゃ〜んとわかっている。

「危ないじゃないのよ!」

 華那汰はフランスパンをスイングして、ヒイロの頭を打っ叩いた。

 フランスパンはちょっと日にちが経っていて硬かった。

「ぐがっ!」

 ヒイロの顔面で粉砕したフランスパン。ついでに歯も粉砕しそうだった。

 鼻からケチャップ……じゃなかった、鼻血を出してうずくまるヒイロ。

「いってー、なんでいきなりぶたれなきゃいけねーんだ!」

「はぁ!? そっちがぶつかろうとしてきたからでしょう!」

「はぁ? おまえがいつも後ろからぶつかって来るんだろうが!」

「ちんたら歩いてるそっちが悪いんでしょう?」

 いや、後ろからぶつかってるなら、華那汰のほうが悪い。車の運転でも、後ろからぶつかったほうが前方不注意で罰せられる。

 二人はあーだこーだと言い合いをしていると、狗の鳴き声がどこからか聞こえてきた。

「ワンワン!」

 二人仲良く振り返った先には、私服姿のミサが美獣の散歩をしていた。

「覇道君と華ちゃん、今日も仲がいいのね、うふ」

 笑いかけたミサに華那汰とヒイロが同時に詰め寄った。

「あたしがこいつとですか!」

「どう見たら仲良く見えんだよ!」

 が、そんな二人の勢いを受け流してミサは淡々と、華那汰を服装を見て言う。

「華ちゃん、ひとつ言っていいかしら?」

「あれ……このパターンって前にもあったような?」

「なんで制服なのかしら?」

「ぎゃーっ!」

 叫んだ華那汰はすぐさまヒイロの学ランをつかんだ。

「だって覇道くんだって……いつも学ランだっけ。でもでも、だって今日って金曜日ですよね?」

「今日は土曜日よ」

「ええーっ!?」

 〈壺〉に閉じ込められていた華那汰は1日分記憶が抜けていた。

 姉の制止を振り切った華那汰が悪い。

 ショックを受ける華那汰をスルーしてヒイロがミサに尋ねる。

「ところで包帯野郎はどうなったんだ?」

「ブラック・ファラオだったら、この子の散歩をしてから朝食を食べて、それからどこかに捨てに行こうと思っているわ」

「お供します!」

 主に朝食のほうに。

 それを聞いていた華那汰が元気よくバシッと立ち上がった。

「あたしも!」

「お前はフランスパンがあるだろうが」

 ヒイロは自分の朝食がなくなると思って華那汰を敵視した。

 華那汰はあきれ顔。

「これは武器だし……じゃくて、変態包帯男捨てに行くのに着いてくって言ってんの(もちろん朝食も食べさせてもらうけど。だって月詠家の食卓なんて、きっと食べたこともないように美味しい朝食なんだろうなぁ)」

 じゅるり。

 モーソーをトキめかせる華那汰はヨダレを垂らしていた。これじゃあヒイロと変わらないじゃないか。

 そんなわけでミサにお供する狗、ヒイロ、華那汰。

 食べものに釣られてお供をするなんて、まるで桃太郎のようだ。


 ザッバーン!

 高い波しぶきが上がった。

 青い空、白い雲、そして荒れ狂う海。

 お供を連れたミサは鬼ヶ島を探して海に出た――なんてことはなくて、貨物ヘリで太平洋のど真ん中まで、Bファラオを捨てに来たのだ。

「ぼくだってきみたちに協力したじゃないかぁ!」

「ウソつくなよこの野郎!」

 ヒイロはBファラオに殴りかかろうとしたが、それをミサは手を前に出して止めた。

「彼はもう十分な報いを受けたわ。ナメクジの呪いが返ってきて一晩中叫び続けていたのだから……ふふふふふっ」

 いつもよりも笑いが多い。ちょっと怖い。

 ミサの支援を受けてBファラオが図に乗る。

「そうだよ、ぼくは十分な報いを受けたんだよ。だからこんなことやめて早く返ろうよ、ねえ?」

「それとこれとは話が別よ」

 ミサはそう行って柩のふたを閉めた。

 メイドがすぐさまふたを接着剤や鎖で固定する。

 もの凄い監禁事件が目の前で繰り広げられているような気がして、正直ちょっと華那汰は引いていた。

「これって……やりすぎじゃ?」

 その問いにたいしてミサはただ妖しく微笑んで返した。怖すぎる。

 ヘリの搬入口が開けられた。

 ヒイロが威勢よく手を上げた。

「はいはい、俺様が落としてやるぜ!」

 張り切ってヒイロは重い柩を押して運びはじめた。

「クソ重てぇ……なに入ってんだよ」

 Bファラオだ。

 そんなヒイロのボケをみんなは華麗にスルーして見守った。

 強い風でヒイロの髪が揺れる。

「もう……ちょっと……だぁッ!」

 最後の一押しで柩はヘリから真っ逆さま。

 ついでにバランスを崩したヒイロも――落ちた。

「ぎゃぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 太平洋のど真ん中に呑み込まれた。

 慌てて華那汰とミサは海面を覗き込むが、見つかるわけがなかった。

「……覇道くん。あははー、どうしましょうか月詠センパイ♪」

「大丈夫よ、覇道君は案外運は強いから。ほら、見て、あそこに影があるわ」

 荒波を必死に泳ぐヒイロの姿。その真後ろからは三角のヒレが追いかけてきていた。

 ミサは微笑んだ。

「ほら、生きてたでしょう?」

 ただそれもいつまで続くか……。

 水しぶきを上げながらサメが顔を出した。

 ヒイロは海中でこっそりチビりながら必死で逃げた。

「助けてくれーーーっ!」

 泳ぐ泳ぐ、猛烈に泳ぎまくるヒイロ。

 その勢いは自力で日本まで帰ってしまいそうだった。

 がんばれヒイロ!

 負けるなヒイロ!

 それゆけヒイロ!

 ヒイロはどこまで行ってもヒイロだった。


 おしまい♪

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