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現代トラウマヒーロー伝 大魔王遣いヒイロ!  作者: 秋月瑛
Season2 電波系大神官の復讐
38/44

第13話 ナメクジ軍団

 カーシャを交えて今後の作戦会議がはじまった。

「ヒイロが出てきたのは偶然による奇跡だ。同じようなことは二度と起こらん(たぶん)」

 と言い切ったふうに見せかけて心では自信のないカーシャ。

 華那汰たちがカーシャの胸から出られる可能性について話し合っていたのだ。

 さらにカーシャは続ける。

「空間を移動するためには向う側にも〈ゲート〉が必要だ。百万歩譲って向う側でその〈ゲート〉が見つかったとしよう。どうやってこちら側と結ぶ気だ?」

 これはすでに判明していた問題点だ。やはりカーシャも同じ結論を出した。

 ミサは深くうなずいた。

「華ちゃんと連絡も取れない状況で、向こうで〈ゲート〉を見つけてもらうのは難しいわね。その発想すら向こうにはないでしょうから」

「第一、〈壺〉の中がどうなっておるのかもわからん。どこかに異世界に繋がっているのか、それとも亜空間があるのか。あくまで妾の胸の谷間に繋がったのたまたまだ」

「たしかに覇道君は〈壺〉の外から外へ移動しただけで、中がどうなっているのかわからないものね。中があったと仮定した話だけれど」

「召喚術で呼び寄せるというのが理論的には可能だろうが、どこにいるかもわからない華那汰

たちを召喚する理論が構築されていないので、ほとんど不可能に近いな」

「強制召喚は手軽にできないですものね」

「確証はないが、〈壺〉を手に入れれば手立ても浮かぶかもしれんな。入った物から出すのが

理に適っておる(ただの思いつきだが)」

 二人の話についていけないヒイロ。

 もう一人ついていけてないハルカ。

 仕方がないので二人はねこじゃらしで遊んでいた。

 ねこじゃらしがヒイロのさじ加減であっちへこっちへ、まるで猫のようにハルカはじゃれた。

 意地の悪いヒイロはなかなかねこじゃらしをハルカに捕まえさせない。

「ほらほら捕まえてみろよ〜」

「にゃーっ、届かない!」

 立ち上がったヒイロはねこじゃらしを自分の頭よりも高く上げていた。

 このときヒイロは気づいていなかった。

 見事にねこじゃらしでハルカを操っている。

 それすなわち念願の〈大魔王遣い〉になっていたことを!

 未だに華那汰の姉のハルカ=大魔王ハルカだと気づいていないヒイロ。

 さきほど美獣がその正体に気づいて口にしたときも、氷付けにされていて見事に聞き逃していた。

 ミサと話を進めながらもカーシャはずっとハルカを観察していた。

「(今は見知らぬ者がいる場所では猫の振りをしろと言ってあるが、あのまま猫化が進めば人間としての記憶も曖昧となってボロが出るかもしれん。それ以前に幼児化のせいでウッカリしておるからな。そうか、逆に完全に猫になってしまえば大魔王ハルカだと露見する心配もなくなるか。そうすればハルカにかけておる情報隠蔽費が浮くな……そして妾の懐へ、ふふふ)」

 ニヤニヤとカーシャは微笑んだ。

「カーシャお婆様、聞いておられますか?」

「……ん?」

 ミサの呼びかけに気づいてカーシャは我に返った。

「すまん、考え事をしておった」

「ですからブラック・ファラオを探し出して、〈壺〉を手に入れましょうと言っておりますのよ」

「うむ、そうだった(ぜんぜん聞いてなかったが)」

「警察もブラック・ファラオを指名手配しているけれど、当てにはならないと思いますわ。それでも居場所くらいはつかんでくれるかもしれないので、情報をこちら側に流すように手配しておきましょう」

 幾度となく警察の包囲網を掻い潜り、さらには留置場からも脱走したBファラオを捕まえようと警察は躍起だ。

 さらにミサは付け加えた。

「顔写真を公開して指名手配するようにも言っておきましょう」

 この発言はミサが警察への影響力を持っていることを意味する。おそらくミサ本人ではなく、月詠家が警察に干渉できる立場にあるのだろう。

 カーシャは一言放つ。

「めんどくさい!」

 ミサは首を傾げた。

「なんとおっしゃいました?」

 確実に聞こえていたが聞き返してしまった。

 ほお杖を突いてめんどくさそうにカーシャが答えた。

「めんどくさいと言ったのだ。そんなめんどくさい方法などせずとも、もっと手っ取り早い方法があるだろう?」

「そうおっしゃいますと?」

「変態包帯男はヒイロを狙っておるのだろう。だったらヒイロがいる場所を大々的に相手に伝えればよかろう」

「本人が来ないで刺客だけ放つ可能性もありますけれど?」

「それなら刺客に吐かせるなり、相手の魔力の出所を辿ればよかろう」

「本当に辿ることができますでしょうか?」

「知らん」

 キッパリ言い切った。

 カーシャの作戦はただの思いつき発言だった。

 ただ成功すればこちら側から探すよりも効率的だ。

 ミサはうなずいた。

「やってみましょう。覇道君聞いていたかしら?」

「……はい?(昼飯のメニューか?)」

 だいたい時間は昼の12時前。そろそろ昼食の支度をちょうどいいが、ミサはそんなこと聞いてない。

「覇道君がブラック・ファラオをおびき寄せることになったから、これから準備に取りかかりましょう」

「なんだ昼飯の準備じゃないのかよ」

 ガッカリするヒイロに向かってカーシャがうなずいて見せた。

「うむ、準備をするぞ――昼飯の」

「おっし!」

 ヒイロはガッツポーズを決めた。昼飯もタダで食わせてもらう気満々だった。


 ヒイロたちが通う学校は臨時休校だった。

 だが、きのうの生徒大量失踪事件を受けて、保護者集会が体育館で行われていた。

 事件の詳細、今後の対応について話し合われた。

 この話し合いでは転校生のツタンカーメン21号=Bファラオという可能性には触れられず、あくまでツタンカーメン21号もほかの生徒と共に失踪したとされた。

 この場には警察も来ており、近頃の凶悪事件で指名手配されていた包帯男と、今回の失踪事件の主犯が同一人物とされ、警察はなぜBファラオを取り逃がしたか大バッシングの嵐だった。

 体育館は怒号とすすり泣くで声で溢れ、収拾の付かない状況になりつつああった。

 保護者の中には発狂する者も現れた。

 子供が行方不明になったことで混乱したに――違う!

 体育館中から絶叫があがった。

 天井からなにかが次々と落ちてくる。

 ある母親が頭に落ちてきたそれをつかみ、手のひらを開いて絶叫した。

 ナメクジだ!

 人々は体育館の外に逃げようとした。

 だが扉が開かない!?

 パニックになる保護者たちをなだめようと教員や警察が声を張り上げるが、声は騒ぎに呑み込まれてだれも耳を傾けようとはしない。

 館内放送が流れた。

《愚民のみなさんこにゃにゃちわ。え〜、さきほどご紹介にあずかりましたブラック・ファラオだよ》

 だがスルー!

 人々はナメクジ騒動に必死でBファラオの放送なんて耳に入っていなかった。

《きみたちちゃんと人の話は聞いたほうがいいよ。そのナメクジはぼくが操ってるんだけどぉ?》

 だがスルー!

《だからさ、ぼくの話聞けってば。黙らないときみたちの頭でスイカ割りするぞ!》

 やっと少しずつ静かになってきた。

 Bファラオはナメクジに人を襲わせるのをやめさせ、マイクを持って壇上に現れた。

「学校という施設は砦にちょうどよくてね。これからここを拠点に活動することにしたから。きみたちは奴隷になるか信者になるか、2択と言うことで選んでね」

 そんなことより、股間から生えてる〈壺〉に目がいってしまう。

 人々はさらなるパニックを起こした。

 逃げようとする者もいる中、果敢にもBファラオに向かっていった者もいた。

 壇上に立った独りで立っているBファラオ。数では保護者が圧倒的に有利のはずだった。

「ぼくに刃向かう気なら彼らの相手をしてもらおうかな」

 ニヤッとBファラオが笑う。

 天井から巨大ナメクジたちが次々と落ちてきて、Bファラオの前に並んで防壁をつくった。

 突然目の前に現れた巨大ナメクジにおののく人々。それでも警察は意地でもBファラオを捕らえようと巨大ナメクジに挑み掛かった。

 拳銃が火を噴いた。

 一発では巨大ナメクジはビクともしない。あせって弾数も考えずに何発も撃たれた。そうしてようやく心臓を貫いたのか、巨大ナメクジはぐったとして動かなくなった。

 使役していた怪物が死んだことにより、呪いがBファラオに降りかかったハズだ。

 しかし、Bファラオは平然と笑っていた。

「にゃはは、完成したよ!(ぼくに返ってきた呪いはすべて〈呼吸の壺〉が吸い取ってくれる)」

 ついにBファラオは大いなる力を手に入れたのだ。

 次々と巨大ナメクジが現れた。いくら倒されようとBファラオに怖いものはない。これによって軍隊を編制することが可能にあったのだ。

 その拠点として選ばれたのが学校。ここからナメクジたちが世界を侵略していくのだ。

「にゃはははは、やっと運気が戻ってきたようだね。これも全部ヒイロがいなくなってくれたおかげだね♪」

 Bファラオは気づいていなかった――まだヒイロが無事だったことに。

 ナメクジたちは大人しく待機している。そのため人々も静かにその場で震えていた。

 シーンと静まり返った体育館。

 全体の証明が落とされ、壇上だけにスポットライトが当たった。

 マイクを力強く握り締めたBファラオ。

「今日は気分がいいので、ぼくの歌を聴いてください」

 空気を読まずにBファラオは勝手に歌い出す。

「ナメナメクジクジ〜♪」

 Bファラオの歌に合わせて巨大ナメクジたちが合いの手を入れる。

「べ〜とべと、べ〜とべと」

 すばらしく息が合っている。右へ左へ揺れながら大合唱。Bファラオ・オンステージだ。

 そんなものを見せられて人質たちはどうしろと?

 けれどBファラオは構わず熱唱する。

「ベトベトスキスキ〜♪」

「あいら〜びゅ〜、なめくじ〜」

 巨大ナメクジが踊り出す。

 ミュージカル仕立てになっていく舞台。

 いったいどこで練習してたんだ?

 そんなことより、だから人質はこれを見せられてどうしろと?

 Bファラオもナメクジたちもミュージカルに熱中して、人質たちのことなど眼中から外れていた。

 チャンスは今しかない!

 警官がパイプイスでBファラオに殴りかかった。

 ガヅゥ〜ン!

 後頭部を殴られたBファラオが一瞬脳しんとうを起こして床に倒れた。

 そのおかげで魔力が途切れたのか、固く閉じられていた扉が開くようになった。それに気づいたのは明星だった。

「みなさん外へ、早く!」

 次々とほかの扉も開けられ、人々が雪崩のように外へ駆け出した。

 意識を取り戻したBファラオは警官2人に拘束されていた。

「ううっ、今のは打ち所が悪くてかなりきたよ……きみたち容赦しないよ!」

 Bファラオは軽々と自分を拘束していた警官2人を投げ飛ばした。

 床に激突した警官たちに群がる巨大ナメクジ。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」

 群がるナメクジの山の中から悲鳴が聞こえた。

 Bファラオはナメクジ軍団に命じる。

「行けーっ! 1人も逃がしちゃだめだよ、全部ゾンビー兵にするんだから!!」

 一斉にナメクジたちが体育館の外へ向かう。

 だが遅い!

 致命的すぎる問題点だ。

 体育館の外にナメクジが出たころには、とっくに人々が逃げたあとだった。

 さらに人質になっていた保護者がこっそり警官を呼んでいたのだ。

 校庭にはパトカーが集結して、警官隊がBファラオを待ち伏せしていた。

 すでに学校から一般人の姿はない。大捕物をする条件はそろっていた。

 形振り構わず警官隊がBファラオに飛び掛かる。

 だが、巨大ナメクジ軍団も増殖して、大攻防戦が繰り広げられることになった。

 当初、警官隊はただの巨大なナメクジだと侮っていたが、相手は魔物だった。

 巨大ナメクジが吐き飛ばす粘液によって警官隊の動きが封じられる。

 気づけば警官隊は誰一人として立っていなかった。警棒と拳銃の装備だけでは太刀打ちできなかったのだ。

「にゃはははは、ぼくとやり合いたければ戦車でも持ってくるんだね!」

 ドカーン!

 Bファラオが爆風によってぶっ飛んだ。

「ううっ……まさか?」

 地面から起き上がりながらBファラオを見た。

「本当に戦車なんか持ってくることないのに」

 眼に映ったのは本物の戦車。だが自衛隊などの戦車などではない。その戦車には月詠グループのロゴが入っていた。

 さらに戦車の上にはカーシャが立っていた。

「ふふふ、よくやってくれた包帯男。おまえがここにいたおかげで、周りを顧みずに楽しんで大砲が撃てるぞ」

 ただ大砲が撃ちたいだけだった。

 さらに戦車は改造されており、カーシャが握るゲームコントローラーと連動して動いていた。

 再び大砲が撃たれた。

 弾はBファラオを大きく外れ地面を抉った。

「チッ、照準がないから当てるのが難しいな。あとで改造するように命令しておくか」

 兵器の実地テストも兼ねていた。

 巨大ナメクジはどこから沸いてくるのか次々と増殖していく。だが、大砲の無差別砲撃を喰らってカーシャには近づけない。

 Bファラオは下唇を噛んだ。

「絶対許さないんだからな。ヒイロの次はあの女だ、あの女さえ倒せばぼくの復讐は完遂して、さらなる野望を成し遂げるんだ!」

 どこからかBファラオは魔導書を出してページを開いた。

「魔導書、〈壺〉、そしてぼくの力を合わせたとき、災狂の恐怖が生み出されるんだ!」

 なにやら呪文を唱えはじめるBファラオ。その言葉が聞き取りづらく、この世のものとは思えない言語だった。

 Bファラオが呪文を唱えている間にも、巨大ナメクジ軍団が一掃される寸前まで追い詰められていた。

 しかし、Bファラオは不適に微笑んでいた。

「にゃはははは、蘇れ混沌の魔物よッ!」

 息絶えていた巨大ナメクジ軍団が、なんと動き出した!

 さらに巨大ナメクジが一つの場所に集まり融合していくではないか!?

 ナメクジの巨塔。

 戦車の上に立ったカーシャも巨大な影に呑み込まれた。

「ありえん……合体するのはスライムだけでよかろうて……(ふふっ、マジ笑えん)」

 苦笑いしながらもカーシャはコントローラーを力強く握り締めた。

「撃て撃て撃てーっ! 撃って撃って撃ちまくれ!」

 怒号のように大砲が雨のように降り注ぐ。

 学校の高さよりも巨大な超巨大ナメクジに全弾命中し爆発して、その体に穴まで空いたハズなのだがビクともしていない。

「にゃはははははは!」

 Bファラオは顎が外れそうなほど声をあげて笑った。

「無駄無駄、すでにそいつはゾンビーなんだ、倒せるわけないじゃないか!」

 さらに超巨大ナメクジは融合と同じような原理で、空いた穴が徐々に塞がれていく。

 さらにもう一つ、超巨大化したことによって問題点だった“遅さ”が解決していたのだ。遅いといったら遅いが、体に見合った遅さのため、結果的に移動速度が速くなったのだ。

 戦車の砲撃がまったく効かないとしってカーシャは怒りに燃えた。

「ふふふ、どうやら妾を本気にさせたようだな」

 魔法詠唱の構えに入る。

「ライララライラ……嗚呼、世の中冷たい人間ばかり、義理も人情もあったもんじゃない。凍える凍える寒い世の中〜、妾の心も冬まっただなか〜、ブリザード!」

 どうでもいいように思える言葉だったが、これによって魔法の効果が増大したのだった。

 カーシャの手から放たれた猛烈な吹雪が超巨大ナメクジを凍らせる。

 ――ちょっとだけ。

「うむ、やはりハルカはないとダメか」

 あっさり認めたカーシャ。逃げる気満々だった。

 戦車を捨てて逃走しよう駆け出したカーシャ。その背中に覆い被さる影。

 振り返ったカーシャが苦笑いをした。

「ふふっ、冗談にしては笑えん」

 超巨大ナメクジの巨大がゆっくりと倒れながら覆い被さってきたのだ。

 どっす〜〜〜〜〜ん!!

 なんとカーシャが超巨大ナメクジの下敷きに!?

 高笑いをするBファラオ。

「にゃははははっ、勝っちゃったもんねぇ〜。これでぼくに恥をかかせた者はいなくなったよ。ついに、ついに復讐が完遂したんだ!」

 超巨大ナメクジの進行がはじまった。

 住宅街へと乗り出した超巨大ナメクジ!

 カーシャがやられた今、Bファラオの野望を打ち砕く者はいるのかッ!!

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