Season2 電波系大神官の復讐 第1話 昆虫戦士の恐怖再び
――二〇XX年、日本に大魔王襲来。
3日のうちに日本列島を制圧した。
でも、市民レベルの生活はそんなに変わらないんですけどね!
しかし、中には人生を変えるほどの“チカラ”を手に入れる者たちもいた。
人々はその能力者たちをこう呼んだ――ニュータイプと。
彼の名前はヒイロ……に敗北したブラックファラオ。
元モッチャラヘッポロ教の大神官である。
彼の人生はある男との出遭いで一変してしまった。そう、忘れもしない憎き貧乏少年覇道ヒイロ15歳、負けず嫌いで虚栄心、うるさい騒がしい暑苦しい、実はネクラでお金に過敏症のあの少年。
そうだ、すべてはあの少年のせいだ。
ヒイロの悪質きわまりないハレンチな戦法により、すっぽんぽんにされて敗北して以来、Bファラオの人生はすってんころりん転落ばかり。
小指をタンスの角にぶつけるところからはじまり、野良犬に吠えられ追いかけられ、ドブにはまって気づけばサイフを落とす。
持っていた株は大暴落、教団の支部が住民トラブルの末に警察沙汰に、その支部から大砲(人間ロケットをするため)が発見され、銃刀法違反で摘発、教団は強制解体を余儀なくなくされた。
追い込まれたBファラオは隠していた資産を使おうとしたが、隠し場所を忘れしまったというウッカリさん。のちに犬の散歩していたサラリーマンに発見された。が、裏金なので名乗るに名乗り出れずに今に至る。
ヒイロに負けて以来、Bファラオは疫病神に憑かれたように不幸の連続だった。
今日もココに来る途中、犬のフンを踏むというお約束をしてしまった。
ちなみにココとはファミレス――の厨房。つまり厨房スタッフのバイトということだ。
バイトの面接時点で落とされる。むしろ履歴書送った時点で容赦なく落とされる。そんなBファラオがやっと思いで見つけたバイト……のようなもの。
というか、ここに食べに来て皿を割って皿荒いというベタ。
さらに実は無銭飲食しようとしていたところを捕まり、警察に通報されたくなきゃ働けと個人経営のファミレス店長(54歳・独身・男性)に脅された。
厨房でさらに皿を割ったBファラオが、加熱したフライパンでぶん殴られた。
「ぼさっとしてねえで働け!」
「にゃーッ!!」
髪が焦げたBファラオは水を張った流し台に頭から突っ込んだ。顔を上げたら水浸し、泡まみれ、口からシャボン玉を吐き出す始末。
Bファラオは拳を握りぐっと怒りを静めた。
「……なんでボクがこんな目に……でもいいさ、もう復讐してやったもんね」
チラッとBファラオが視線を向けたのはカレーを煮込んでいる深底鍋。ルーから作る本格派。ファミレスっていうか定食屋。
でも店長がファミレスと言い張ってるのでファミレスなのだ。
そうそう話を戻そう。
なぜ鍋に視線を向けたのか?
それは……それは……ここでは言えない、言えやしないよ、あんな恐ろしいこと。
まさか鍋の中にアレを入れたなんて……口が裂けても言えやしないよ。
ふふふっと含み笑いをしていたBファラオのケツが蹴っ飛ばされた。
「ボサッとしてねぇーでゴミ捨ててこい!」
残飯が詰まったゴミ袋を3つも渡された。
……これって逃げるチャンス!?
猛ダッシュでゴミ捨て場に向かった。
ゴミ捨て場は店の裏にある。
「食べ物を捨てるなんてもったいないなぁ。ゾンビーたちのエサになるのに」
なんて言いながら律儀にゴミを捨てるBファラオ。さっさと逃亡しちゃえばいいのにね。
しかし、こんな善行が思わぬ幸運を呼んだ!
ゴミを捨てたついでにゴミを漁るBファラオ。まるでホームレスのような行動だが、彼は何かを感じてその場所を探しているのだ。
そう、生ゴミには食べられる物と食べられない物がある――雑草がそうであるように!
そして、Bファラオが手に取ったのは食べられない物。
「……なんで……ボクを呼んでいたのはコレか……けど、どうしてこれがここに?」
Bファラオが手に取ったのは古びた本だった。装丁は動物の皮を縫い合わせて作られており、得体の知れない恐怖感を放っている。
「まさにこれは……」
その正体にBファラオは気づいていた。
本から発せられる独特の雰囲気。恐ろしさで、じっとりとした汗を背中に掻く。本自体が力を持っている、まさに魔導書であった。
ゆっくりと本を開いたBファラオが驚愕する。
「なんてことだ……日本語だって!? ありえない、この本の日本語訳が存在しているなんて、いったいどこの狂人が書いた?」
Bファラオは手に汗を握った。それだけではない。汗だけではない、このしっとりした感覚。
なんと魔導書が汗を掻いていたのだ!
「おい、ゴミ捨てまだ終わんねぇーのかっ!」
突然の声。
Bファラオはビックリして振り返った。
そこには顔を真っ赤にして噴火寸前の店長の姿が……。
Bファラオは「いち」「にの」「さん」で全力逃亡。
「覚えてろよ、ボクに皿洗いなんてさせたこと一生後悔させてやる!」
そんな捨て台詞を残したBファラオの背中に飛んでくる中華鍋。
ゴン!
鈍い音を後頭部に喰らって一発KOしちゃいました。
さよならBファラオ!
こうして、気絶したBファラオはオッサン(店長)に引きずられ、110番で駆けつけた警察に引き渡されるのだった。
大魔王遣いヒイロ〜電波系大神官の復讐!(完)
復讐する前に完!
Restart...
自称ファミレスの定食屋にやって来たヒイロ。
貧乏なヒイロがひとりで飲食店に来るわけがない。
これにはトリックがあるハズだ!!
同席しているのは華那汰と、そしてミサ。
ヒイロはニヤニヤしながらミサを見ていた。
「本当にいいんだな?」
「ええ、ほんのお礼よ」
静かにミサは微笑んだ。いつもどおりサングラス装備なので、微笑むと全部怪しく見えるのは仕様だ。
ミサの隣の座っていた華那汰はちょっと恐縮していた。
「あのぉ、あたしまでいいんですか?」
「ええ、華ちゃんも一生懸命探してくれたでしょう?」
そう言いながらミサは自分のケータイを制服のポケットから出した。
小一時間ほど前にさかのぼる――。
ヒイロと華那汰はミサが部長を務める心霊研究部にやって来た。
そこで起きたケータイ失踪事件!
ミサいわく、『どこかに行ってしまったの』というケータイ。何気ない一言だったが、のちのちヒイロと華那汰はその言葉の意味を知って驚愕することになった。
ケータイを見つけたのはヒイロだったが、そのケータイがあった場所というのが!!
ヒイロの白い学ランのポケットだったのだ。
これについて華那汰は疑いの眼差しでヒイロを見つめ、疑われたヒイロは『貧乏人を見るような眼やめろよ。母ちゃんからつまみ食いはいいけど、人様の物は盗んじゃいけないって言われて育ったんだからな!』と涙目で訴えた。
それでもポケットから出てきてしまったのだから、どー考えて疑わしい。
が、ミサはすんなりとヒイロのことを信じた。
『ありがとう覇道君。この部室にいるといつも勝手にどこかに行ってしまうのよね、私の持ち物』
このとき、ヒイロと華那汰は強烈な寒気を感じた。
この世には人間が踏み行ってはいけない領域がある。
決して聞いてはいけない話。
ヒイロと華那汰は互いに笑顔で向き合い、無かったことにした。
――そして、今に至る。
ケータイを見つけてくれたお礼と言うことで、なんでも好きな物をおごってあげるというミサの申し出で、ヒイロは念願の夢の1つを叶えようとしていた。
テーブルで待っていると、しばらくして深底鍋が丸々運ばれてきた。
「カレーを鍋一個分食うのが俺様の夢だったんだ!」
好きな物を好きなだけ食べてみたい。
誰もが一度は願ったことがあるかのかないのかわからないが、比較的ポピュラーな願望と言えよう。だが、意外にやってみるとあまり食べられなかったり、好きな物だったのにイヤになるというトラップが仕掛けられている。
しかし、バイキングのお店がなくならないように、その願望は絶えることはないのだ!
というわけで、鍋ごとカレーに挑戦するヒイロ。
「食って食って食い尽くしてやるぜ! お前らには一口もやんねーからな!」
意地汚さ全快のヒイロをじと〜っとした眼で華那汰は見た。
「大丈夫、まったくいらないから(こんなのひとりで食べれるはずないじゃん)」
冷ややかな態度を取って、華那汰はアイスクリームを食べはじめた。
鍋はふたがされているが香辛料の匂いが漂ってくる。
じゅるりとヒイロは口を鳴らした。
「よし、食うぞ!」
オープン・ザ・ふた!!
「ギャ〜〜〜ッ!!」
ヒイロの悲鳴。
それを聞いた華那汰も見た。
「キャーーーッ!!」
魂を離脱させた華那汰に続いて、ミサは無言のままハンカチ片手におでこに手を当てて気を失った。
騒然とする店内。
Gが……昆虫戦士Gが……鍋の中から現れたのだ。
しかもただのGではない。
巨大なのだ。
鍋の中身を食い尽くしたGは、丸々太って鍋いっぱいに収まっていた。
このトラップを仕掛けたのは言うまでもない――ブラック・ファラオだ!
だが、されたほうも、したほうも、お互いがまさかヒイロとBファラオだったとは知るよしもなかった。
なんたる奇遇!
叫び声をあげてしまったヒイロだったが、すでに冷静さ――いや、怒りに燃えていた。
「この野郎、俺様のカレーを食いやがったな!」
スプーンを構えたヒイロがGに立ち向かう。
Gが羽ばたく!
辺りに散乱するカレー。
ちょっと見方を変えたらう○ちをまき散らしているように見える。
悲惨だ!
客がヒイロたち3人しかいなかったのは、ある意味幸運だったかもしれない。
まさに戦場と化した店内で繰り広げられる死闘。こんな場所で凡人は生き残れない!
Gがヒイロ目掛けて飛んでくる。小さいGですら飛んできたときの恐怖は壮絶だというのに、デッカイの飛んできたらG嫌いの人からしらた即死もんだ。
だが、ヒイロは屈しないのだ。
ヒイロをそうさせるのは貧乏で鍛えたハングリー精神。
鳴かないコオロギだと騙されGを飼ってた幼少期の痛い思い出。
「お前らが絶滅した地球でも俺様は生き残って見せる!」
ヒイロが繰り出したスプーンによる攻撃。
見事Gの顔面に直撃した――が、ぜんぜん効いてない!?
ヒイロの眼と鼻の先で、ドアップのGが歯をガチガチと鳴らしている。
恐ろしい。
恐ろしすぎる。
もはやここまで来ると宇宙から来た外来生物だ。
ヒイロはGのベタつく触覚を両手でつかみ、どうにか眼と鼻の距離で持ちこたえている。
生であのウネウネする触覚をつかむなんて、恐ろしすぎる!!
いくら消毒してももう手づかみで食べ物は食べられない。むしろ手を交換したい。そんなある意味偉業をヒイロを成し遂げたのだ。
だが、ここでもしも触覚をつかまなければ、あの歯で生きたまま食い殺されるのだ。想像するだけでおしっこをチビりそうになってしまう。
ヒイロは絶体絶命のピンチだ。
脂ぎったGに押し倒され、少しでも触覚を握る手を緩めたら喰われる!
追いやられたヒイロは助けを求めたいが、華那汰もミサも魂を離脱させたまま戻らない。
しかし、運命の女神はヒイロに微笑んだ。
厨房から現れた自称ファミレス(ホントは定食屋)の店長(54歳・独身・男性)が現れたのだ。
フライパンを構えたオッサン(店長)がGに飛び掛かった!
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
Gの硬い甲冑にクリティカルヒットを喰らわしたフライパン。
床にひっくり返ったGを何度も何度もフライパンで叩きつぶす。
完全にグロ画像だ。
さすがのヒイロも精神衛生を犯され、気分が悪そうに壁にもたれかかった。
そのときだった!
店の中に雪崩れ込んできた白い集団。
防護服に身を包んだその姿は、バイオハザードを意味していた。
つまりバイオハザードとは、有害なウイルスなどによる重大な災害。
しかし、突然変異のGが出現したとはいえ、早すぎる対応だ。
フライパンを取り上げられたオッサンが連行されていく。
「なんだてめぇら、離せーっ!」
隔離処理だ。
「有害生物と接触したその子も早く連れて行ってちょうだい」
防護マスクを被った女の命令でヒイロも白い集団に拘束されてしまった。
「俺様まで、なんでだよミサ先輩!」
そう、命令を出した声はミサだった。その手にはケータイが握られていた。つまり、この白い集団を喚んだのもミサだった。金持ちの特権を最大限に活用したのだ。
こうして事件は終息へ向かうことになった。
ちなみに店はこの日のうちに更地にされ、自称ファミレス店長はこの日以来行方不明だという。