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現代トラウマヒーロー伝 大魔王遣いヒイロ!  作者: 秋月瑛
Season1 大魔王遣いヒイロ!
24/44

第24話 開く魔界へのゲート!

 美獣の必殺撃を受けたニャンダバーZは動かない。

「おほほ、やったわ。手こずらせてくれたけど、次はアナタの番よ!」

 だが美獣は目が回って、足元ふらふらでそれどころではなかった。

「ニャンダバーZは絶対負けなんだ!(立ってくれ、立ってくれニャンダバーZ!)」

 緋色の瞳に熱いものが滲む。

 心を汗は頬を伝わり、床に落ちて四散した。

 その思いが通じたのか、ニャンダバーZの機体が微かに動く。

「お前はまだやれる。行けニャンダバーZ!」

 ヒイロの声に反応して、再びニャンダバーZの機体が微かに動いた。でも駄目だ、ニャンダバーZには、もう立ち上がる力は残っていなかった。

 しかし、ニャンダバーZには最後の切り札があったのだ。

「ニャンダバーZ! お前の力を見せてくれ。行け、超合金ロケットパーンチ!」

 ヒイロの熱い思いが奇跡を起こした。

 ニャンダバーZの機体から超合金ロケットパーンチが発射されたのだ。実際は超合金ではなく、割り箸だが、突っ込んではいけない。

 シュン!

 風を突き、超合金ロケットパンチが美獣の腹を突き刺した。

 顔を歪めて腹を押さえる美獣の指の間には、割り箸と、そこから滲み出す鮮血が!

 本当に刺さっちゃったよ!

 これにはやった本人のヒイロも引いてしまった。まさか、刺さるとは思ってもみなかったのだ。

「まさか、刺さるとは思ってなかったんだけど……いや、そのぉ(ヤバイ刺さっちゃったよ、血が出てるよ!)」

「よ、よくもやってくれたわね……アタクシの身体に傷をつけるなんて……こんな傷痛くも痒くもないけど、もう容赦しないわよ!」

 腹に刺さっていた割り箸が血を噴出しながら抜かれ、その傷は見る見るうちに再生してしまった。

 そして、怒りに燃える美獣はゆっくりと歩くと、床に落ちていたガラクタを力強く踏み潰したのだった。

「ニャンダバーZ!」

「うるさわよ!」

 ニャンダバーZは今度こそ本当に再起不能になってしまった。もうただのガラクタのゴミだ。缶だから分別して捨てなければならない。

 感傷に浸るヒイロの前に立つ美獣。その手が素早く伸びた。

「うっ!?(息が、息が……)」

 美獣の片手がヒイロの首を絞めていた。

 少しずつ、少しずつ、ヒイロの首を絞める美獣の手に力が加わり、鋭い爪が柔らかい皮膚に食い込んでいく。

 血が滲む。

 一思いに首をへし折ることなど簡単にできた。それなのに美獣はヒイロを弄びながら、相手に死の恐怖を味あわせようとしたのだ。

「どう、苦しいわよね?」

「……くっ……く……(こ、殺される)」

「簡単には殺さないわよ。まずは四肢に釘を刺し、爪を剥ぎ、指を折り、全身の皮も剥いであげるわ(煮込み料理がいいかしら、それとも揚げ物にしようかしらね)」

 舌なめずりをする美獣の顔は、肉食獣の顔になっていた。口の中から尖った歯が覗き、紅い舌が物欲しそうに動いている。

 ヒイロ絶体絶命のピンチだ!

 誰かヒイロを助けてくれる者はいないのか!

 あ、そう言えば華那太はどこに行ったんだーっ!

 華那太は天井のライトを降下させるスイッチを押していた。

「こっちに▽マークがついてるか、これでいいのかな?(ポチっと)」

 天井に吊り下げられていたミサとカーシャは、これまた天井に吊り下げられていた吊り下げ式のライトにロープを結んでつけて、そこから吊り下げられていたのだ。

 降下してくる人質の姿を見て、美獣は甲高い咆哮をあげた。

 ヒイロのことなど今はどうもいい。美獣はヒイロをゴミのように投げ捨て、空中に浮かんでいる石々を足場にして、宙を飛び人質のもとに向かった。

「今すぐ叩きとしてやるわ!」

 軽やかに石から石へと飛び移り、美獣はミサとカーシャを吊るしていたロープを鋭い爪で切ってしまった。

 もう駄目だ!

 ミサとカーシャが床に激突してしまう!

 ――だが、ミサとカーシャはストンと軽やかに地面に着地した。実は、美獣がロープを切ったときには、すでに地面との距離は二〜三メートルほどしかなかったのだ。

 美獣痛恨のミス!

 頭に血が昇りすぎていて、まともな判断能力がなかったのだ。

 ついでに気が抜けて、美獣は乗っていた石から足を滑らせ、床に落下し尻餅をついてしまった。

「痛いわよ、痛いじゃないよ、最悪だわ!」

 最悪なことはこれから起こるのだった。

 尻餅を付きながら、美獣が視線を上げると、視線を合わしたくない人物を合ってしまった。

「私のことを後ろからフライパンで殴ってくれたそうだな?(ふふふっ……仕返しはさせてもらうぞ)」

 そこに立っていたのは、今の今まで吊るされていたカーシャだった。しかも、すでに縛られていた手の縄を解いている。彼女にしてみれば縄抜けぐらいできて当たり前なのだ。

 カーシャのすぐ後ろにはミサも控えていた。

「(お婆様……自分だけ縄抜けできるなんて……酷いわ)」

 こちらは縄抜けを習得していないらしく、手も口も縛られたままだった。

 強敵を前にして美獣は――背を向けて逃走した。

「逃がすか犬めが!」

 カーシャが叫び後を追う。

 館内中央に設置されていた円形に並ぶ金属板の中に美獣が逃げ込み、追いかけて中に入ろうとしたカーシャだったが、強力な結界により火花を散らしながら後ろに飛ばされてしまった。

 金属板に囲まれたガイアストーン。

 その結果の中に入った美獣は妖しく笑っていた。

「本当はアナタたちを始末してからのつもりだったけど、もう段取りなんてどうでもいいわ。この石の力を使って魔界とのゲートを拡張してやるわ!」

 美獣の目的。それはガイアストーンの力を使い、魔界とこの世界との入り口を広げることだったのだ。体育館の中を別世界に変えた数々の品は、そのための装置だったのだ。

 ガイアストーンが暗黒の光を放ち、金属板に描かれていた文様が蒼白く輝く。

 壁に這うパイプから灰色の霧が大量の吐き出される。

 霧に肺をやられて咳き込みながらも、華那太はミサの手や口を縛っていたロープを解いていた。

「月詠先輩、今すぐ解きますから」

 華那太は先に目に付いた口から解き、口を開放されたミサがすぐに叫んだ。

「私はあとでいいから、私のペンダントをカーシャお婆様に渡して!」

「は、はい!」

 華那太はミサに言われたとおり、ミサのペンダントを取り、それを持ってカーシャのもとに駆け寄った。

「カーシャさん!」

「早くそれを渡せ!」

 カーシャは華那太からペンダントを奪い取るように受け取り、すぐさま結界の前に立った。

 淡く輝くフレアがカーシャの周辺に浮かび、巨大な塊を抱えるようにして、カーシャはそれを一気にそれを解き放つ。

「ライララライラ、障壁を破壊する力を我に与えたまえ――流星鳳凰波!」

 蒼白い流星にも似た輝きが尾を引きながらカーシャの身体から放たれた!

 轟々と空気を巻き込みながら、流星鳳凰波が結界に激突する。

 その刹那、閃光が弾け飛び、遅れて爆風と衝撃が広がった。

 結界はどうなったのか!?

 そこには何事もなかったように笑う美獣の姿があった。

「おーほほほほっ。無駄よ無駄よ無駄よ、結界を破るには装置で増幅されたこの石を上回るエネルギーが必要なのよ!」

 唇を噛み締めるカーシャは無言のまま動かなくなってしまった。

「……くっ(ハルカがおればな。こんなちっぽけなガイアストーンの欠片では歯が立たん。絶体絶命……ふふっ……笑えん)」

 勝利を確信した美獣はゲートを開く最終段階に入ろうとしていた。

「我が愛しき君主、魔界の大魔王ルシファー様。アタクシにお力をお貸しください(これで絶対アタクシの株が上がるわ。そしたら、愛しの君にいい子いい子してもらえるかもだわ!)」

 建物そのものが激しく揺れた。

 闇色に染まってしまったガイアストーンから、大量の暗黒フレアが撒き散らされる。

 そして、ガイアストーンの真上の空間が渦を巻きながら歪みはじめた。

 その歪みは徐々に大きさを増し、中から奇声や叫び声が波のように押し寄せてくる。魔界の住人たちが、今か今かとゲートが開くのを待っているのだ。

 このままでは大量の魔族たちがこの世界に解き放たれてしまう。これを食い止める術はないのか!

「おーほほほほっ、これで今までこちらに来れなかった力を持つ仲間が来れ……えっ?(な、なにが起きたのよ!?)」

 渦を巻いていた空間が巻き戻しのように急激に縮まっていく。

 美獣の視線が背後に向けられた。

「なんでアナタが!?」

 驚きのあまり美獣はその場に立ち尽くしてしまった。

 そこに立っていたのは、なにやらプラグを持っているヒイロだった。

「あー、気づいたらこの中にいてさぁ。とりあえずそこら辺にあったコードを抜いてみたんだが、まずかったか?」

 先ほど美獣に放り投げられたヒイロは、偶然にもガイアストーンの近くに投げ飛ばされ、結界発動後も中にいたのだ。

 装置のプラグを抜かれてしまい、空中に開いていたゲートは針の穴ほどになってしまっていた。

 ヒイロが世界の危機をまぐれで救ってしまったのだ!

 結界も消滅し、ガイアストーンが激しく回転しはじめた。ガイアストーンが今まで吐き出していたフレアを吸い込んでいる。

 危険をいち早く感じたカーサシャが叫ぶ。

「小僧、そこを離れろ!」

「えっ!?」

 わけのわからぬままヒイロはその場を走って逃げた。次の瞬間、強烈な風が吹き、空気がガイアストーンの中に吸い込まれていく。

 ゲートを開くために使ったエネルギーを取り戻すため、ガイアストーンにエネルギーが逆流しはじめたのだ。

 後ろに吸い込まれそうになるヒイロは必死な形相で走る。だが、その足は動いても動いても先に進まない。

「覇道くん掴まって!」

 華那太の手がヒイロに伸ばされた。

 ガシッと温かい華那太の手が掴まれ、ヒイロの身体は力強く華那太の胸に抱き寄せられた。

 自慢の瞬発力を生かし、ヒイロの手を引きながら華那太が体育館の隅まで走る。

 いち早く体育館の隅に避難していたミサが華那太たちに手を伸ばしている。あそこまで行けば助かりそうだ。

 ガイアストーンは宙に浮かんでいた七色の石を吸い込み、辺りにあたった装置を次から次へと吸い込んでいく。

 もうちょっと頑張れば、伸ばされたミサの手に手が届く。

「あっ!」

 後ろを振り返った華那太が目を丸くした。

 二人を結んでいた手が、ヒイロの手が華那太の手を離れていく。

「た、たたた助けてくれ!」

 情けない声をあげるヒイロの足が浮き、ガイアストーンに向かって一直線で飛んでいく。

「覇道くん!」

 華那太の悲痛な叫びまでも吸い込まれそうだった。

 しかし、ヒイロが突然床に腹から落ちた。痛そうだ。

「うぐっ!」

 床に落ちて腹を押さえながら転がって痛がるヒイロを見て、華那太はポカンとしてしまった。

「あれ? 治まった?」

 風が治まっている。

 ガイアストーンは白く透き通り、淡い輝きを放ちながら緩やかに回転していた。

 危機は去ったのだ。

 惹かれるようにして、華那太たちはガイアストーン近づいた。痛そうにしているヒイロは放置で。

 安らかに輝くガイアストーンの光を見て、ミサは静かに微笑んだ。

「もう心配なさそうね」

 ガイアストーンを眺めていた華那太が少し下に目を向けると、ガイアストーンの影から小さな影が現れた。

「ワンワン!」

 それは白銀の仔狗だった。

 華那太たちを威嚇して吠える狗の首根っこ掴み、カーシャが低く笑いながら狗を持ち上げた。

「ほう、さっきの狗女か。ガイアストーンに力を吸われ、だたの仔狗になったと見えるな(あとでたっぷり仕置きしてくれる……ふふふっ)」

 なんと物陰から現れた仔狗は美獣の変わり果てた姿だったのだ。きっとこのあと、美獣はカーシャにあ〜んなことやこ〜んなことをされていじめられるに違いない。かわいそうな美獣だ。

 これで全てが終わった……のか?

 まあ、とりあえずミサとカーシャを助け出し、ガイアストーンも奪還し、美獣はただの狗になってしまった。

 あとは家路に着くだけだ。

 やっと安心して家に帰れると、華那太は意気揚々と体育館のドアを開けた。次の瞬間、強風が体育館の中に吹き込んできた。

 外を見ると満天の星空がすぐそこに。下を見ると住宅街の明かりが綺麗だった。体育館は上空に浮かんでいたのだ。

「どうやって帰ったらいいの!?」

 声をあげる華那太にミサが普通に笑って答えた。

「大丈夫よ、さっき迎えに来るように行ったから、ヘリで迎えが来ると思うわ」

 金持ちって偉大だなと、華那太は改めて実感するのだった。

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