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現代トラウマヒーロー伝 大魔王遣いヒイロ!  作者: 秋月瑛
Season1 大魔王遣いヒイロ!
13/44

第13話 昆虫戦士G

「にゃははは、血の喝采だよぉ!」

 ブラック・ファラオの笑い声が天井を突いた。

 信者と重なるミサが後ろに一歩よろめく。

 衝撃なできごとにヒイロが正気に戻り、紙袋を脱ぎ捨てた華那太が猛ダッシュでミサに駆け寄る。

 後ろにいた信者に支えられながら、ミサの口元は妖しく微笑んでいた。

 心臓を押さえながらミサは肩を震わせる。

「ふふふっ、うふふふ……カーシャお婆様譲りの悪運かしらね?」

 刺された胸から、黒い服よりも濃い染みが浮き出してきた。

 怒りに燃えるヒイロがミサを刺した信者を殴り倒し、華那太がミサの後ろに信者に蹴りかかった。

「ミサ先輩平気か!」

「月詠先輩死なないで!」

 信者を倒し華那太はミサの肩を抱きかかえ、ミサの体重を全て支えた。

「月詠先輩、月詠先輩……死なないで!(なんで、なんでこんなことに……)」

 ミサの口元は相変わらず妖しい微笑を浮かべている。

「もう一本がスチール缶で助かったわ」

 そう言ってミサは服の中からジュース缶を取り出した。胸の中に隠し持っていた缶だ。

 空き缶と中身の流れ出る穴の開いた缶を地面に置き、ミサは華那太の支えから自分の足で立ち上がった。

「せっかく紅茶は華ちゃんにあげようと取って置いたのに、残念だわ」

 なにはともあれ、ミサは命拾いをしたのだ。

 ミサが無事なことを知って、ブラック・ファラオが唇を強く噛み締めた。

「くそぉ〜あと一歩のところで(運のいい人間だ)。我らが神はお怒りであるぞ、怒りの声が聴こえないかな?」

 なにも聴こえなかった。

 いや、耳を澄ませると風の音がする。

 熱風が唸るような音が徐々に大きくなっている。

 ヒイロは天井に気配を感じて見上げた。

 目線はすぐに落下し、大きな音と共に砂埃が視界を遮った。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ」

 どこかで信者の悲鳴が呑まれ消えた。

 砂煙が晴れると、そこには全長三メートルを越す巨大な生物が鎮座していた。

 ミジンコのような、蚤のような、それでいて身体は黒光りし、ゴキブリのように触覚を世話しなく動かしている。珍妙な昆虫らしき生物が、信者の足を指先に似た口から出しながら、六つある眼で辺りの様子を伺っていた。

 これがブラック・ファラオたちが信仰している神なのか?

 だとしたら、人々が普段想像する神の姿とはかけ離れた存在だ。理性や他の生物とのコミュニケーション能力を持ち合わせているとも考えずらい。完全に異質な存在だ。

 怪物がバッタのように折れ曲がった脚で飛び上がった。

 黒い影は立ち尽くす信者たちのど真ん中に落ち、怪物に踏み潰された信者から短い悲鳴があがる。

 間を置いた次の瞬間、信者たちが一斉に出口に向かって殺到した。

 殺される。永遠の命や不死の身体を得る前に、こんな場所にいては殺されてしまう。

 逃げ惑う信者たちに怪物が噛み付き、崩れたパーツが宙を舞う。

 マネキンや蝋人形だったらよかったのですが、とても残酷な風景になってしましました。

 暴れまわる怪物の出現により、ヒイロ焦る、華那太慌てる、ミサ笑う。

「うふふ、どうしようかしらね、お二人さん?(ゲームのボスだったら逃げられないのが定番だったかしら?)」

「どうするもなにも逃げるだろ普通!(人間外のもんと戦えるかっ!)」

「早くあたしたちも逃げましょう!(お姉ちゃんが帰ってきてから、どんどんあたしの生活が現実から引き離されていくー!)」

「でも、お二人さん、ほら見て頂戴」

 ミサの指が伸ばされた方向は出入り口のドア。

 しまったーっ!

 閉まってる!

 閉じ込められた!

 多くの信者たちはすでに逃げ出し、外への扉は硬く閉ざされていた。

 残された信者も数人いて、扉を叩くが返事はない。もう扉の向こう側から遠くへ行ってしまったに違いない。

 怪物は残った信者たちを喰らいながらも、やっと落ち着いてきたのか、じっと動かなくなった。もしかしたらお腹いっぱいで眠くなっちゃったのかも!

 と、思ったらいきなり飛んだ!

 人間と異質すぎて思考回路がまったく読めない。

 怪物が落ち立ったのはヒイロたちがいるすぐ真横だった。

 六つ眼に映りこむヒイロたちの姿。

 ヒイロの眼に映りこむ怪物の姿。その視線がズームアップされていく。

 怪物の身体は短い毛で覆われており、よく見ると蠢いている。そしてもっと眼を凝らして見ると、小さなモノが蠢いている。

「ぐあぁぁぁっ!?」

 カチーン!

 ヒイロは見てはいけないモノを見て、石化したみたいに身体を強張らせてしまった。

 いったいヒイロはなにかを見たのか!?

 答えはすぐにやって来た。

 怪物が身体をブルブルと震わせると、それが、黒光りするGの大群が怪物の身体から、ササササッと逃げ出したのだ。

 恐怖のGがGが来るぞ!

 太古の昔から地球上に住んでいると言われるGたちは、地球上の生物がみんな絶滅してもGだけは生き残るといわれる脅威的な生命力を持つ。

 ときにGは地面を駆け、ときにGは空を飛び、ときにGは水の上を泳ぐ!

 Gこそ地球最強の戦士――昆虫戦士Gなのだ!

 大群のGは世話しなく足と触覚を動かしながら、ヒイロを避けるように足元を擦り抜けた。

「きゃっきゃーーーっ!?」

 誰が叫んだのか、Gを見た華那太とミサも硬直し、その足元をGが駆け抜けていった。

 体中に蕁麻疹が発症し、Gが姿を消したあとミサは気を失ってしなやかに倒れてしまった。ハンカチ片手におでこに手を当てて、倒れ方までお金持ちだ。

 横にいた華那太も硬直したまま再起不能。

 ヒイロたちは完全に戦闘続行不能状態になってしまった。テレビゲームだったらゲームオーバーだ。

 壇上の段差に足を組んで座り、怪物の動向を今までずっと見守っていたブラック・ファラオが立ち上がった。

「その子のエサにしてもいいんだけどぉ、やっぱりノミなんかに殺されるよりちゃんとイケニエになったほうがいいよね」

 持っていた杖の先で床を確かめるように二回ほど叩き、ブラック・ファラオがジャンプした。

 人間とは思えぬジャンプ力。

 包帯の端をなびかせながら、ブラック・ファラオは優に一五メートル以上もの距離を飛空したのだ。

 空中でカエル見たいに脚を折り曲げたまま、ブラック・ファラオは両手で持った杖を頭の後ろまで振り上げた。

 グフォッ!

 緑色の体液が怪物から激しく飛び散り、ヒビが入った脳天から砕けるに割れた。その光景はまるでスイカ割りのスイカが、割れて飛び散った光景のようだ。今日からもうスイカは食えません。

 怪物を一撃で倒したブラック・ファラオは、ご丁寧に祈りのポーズで地面に横たわっているミサの横に跪いた。

「ぼくが殺したらおもしろみが薄れてしまうけど、この際仕方ないね。きみには死んでもらうよ(と、その前にサングラスの下の顔でも見ておこっと)」

 サングラスに手をかけた瞬間、ブラック・ファラオは自分の背後に強烈なプレッシャーを感じた。

「ミサ先輩に触れるんじゃねえ!」

 振り返ったブラック・ファラオの眼に映ったのは、拳を握り立つ緋色の瞳を燃やすヒイロだった。ちなみに紙袋は被ったままだ。

「ありり、人間にしては図太い神経してるねぇ」

「ガキの頃ゴキブリをペットにしてた時期があんだよ。さすがに今はそんな気起こらないけどな!(ゴキブリをコオロギだって言われて飼ってたんだよなぁ)」

 幼い頃のほろ苦い思い出に浸りながら、ヒイロは寒気で身震いをした。騙されてとは言え、幼い頃からゴキブリと身近な距離にいたヒイロは、それなりにゴキブリに対する免疫力があったのだ。そのため、パーティーの中でいち早く立ち直れたと言えよう。

 ブラック・ファラオとミサを見ていたヒイロだったが、その視線が横に移動したとき、モザイクを掛けないといけないような物体を見てしまった。

「なんじゃありゃー!?」

 そこにあったのは、グチョングチョンのゲチョンゲチョンになった怪物の死骸だった。ヒイロはブラック・ファラオが一撃で仕留めた瞬間を見ていないのだ。

「ぼくが片付けて置いたよ」

「うぇ……片付けたってうぇ……お前たちの神じゃないのかよ(キモチわりぃー)」

「はぁ? あれはぼくが仕える邪神の身体についてる寄生虫だよ。この世界でいうところのノミみたいなもんさ」

「あれがノミかっ!?」

 だとしたら、その邪神とやらの大きさは計り知れない。

 一七〇センチの成人男性と普通の蚤の大きさを二ミリと過程して比較すると、その倍率は八二〇倍にもなる。ということは、さっきの怪物の体長が三メートルほどだったから、な、な、なんと二四六〇メートルにもなっちゃう。○ルトラマンですら、五〇メートルいかないというのにだ。

 頭の中でマッチョの巨人を勝手に思い浮かべるヒイロを放置して、ブラック・ファラオはそそくさとミサのサングラスを外そうとしていた。

「おい、ちょっと待てミサ先輩に触れるんじゃねえ!(俺様が空想してる間にな目の離せない奴だ)」

「ちょっとだけいいじゃないかぁ。別に服を脱がせてえっちなことしようとしてるんじゃないんだしさぁ(綺麗な子だったら、○○とか△△するつもりだったけどさぁ)」

「とにかく駄目だ。つーか、ここに残っているのはどうやら俺様とお前のようだな。俺様と勝負だ、勝負だ、勝負だ!」

「いきなり勝負だなんて血の気の多い人だなぁ」

「だってお前、大神官とかいうエライ奴なんだろ。お前を倒したらとにかく俺様の勝ちだ!」

 ブラック・ファラオはうんざり顔で、膝についた埃を払いながら立ち上がった。

「いいよ勝負しても。でも、きみ死ぬよ、にゃははは!」

「俺様が死ぬだと?」

「予言してもいいね、10秒とかからないよ(人間ごときに負けるぼくじゃないもんねぇ)」

「俺様を誰だと思ってるんだ。俺様は大魔王遣いになる男だ!(今日もカッコよく決まったぜ)」

「あっそ」

 文字数三でヒイロは拳を握りながらのポーズで、そのまま撃沈してしまった。自信があったときにぞんざいに扱われると弱いようだ。精神的ショックが大きい。

 地面に両手を付いて落ち込むヒイロに敵であるはずのブラック・ファラオが手を差し伸べた。

「ほら、立って。元気出しなよぉ(やっぱり人間の精神ってもんは弱いんだなぁ)」

 手を差し伸べるブラック・ファラオを見て、ヒイロの瞳がキラリーンと輝いた。涙と思いきや、 これは悪事を考えてるときの鈍い輝きだ。

 出された手を掴むことなく、ヒイロの手は別の場所を掴んでいた。

「これがお前の弱点だ!」

 ヒイロが勢いよく引っ張られる。なんと、ヒイロはブラック・ファラオの身体から伸びていた包帯の端を掴んでいたのだ。

 素肌に直に巻いていた包帯を引っ張られ、ブラック・ファラオは『きゃーお代官様やめて、あれぇー』って感じの時代劇でよくあるシーンのように、グルングルンと身体をコマのように回しはじめた。

「あれぇ〜(め、目が回るるぅ)」

 一本目の包帯が取られ露出度が高くなり、ヒイロはすぐさま次の包帯を引っ張りはじめた。

 引き締まった太ももが!

 小ぶりなヒップが!

 黒肌に浮かぶピンクの乳首が!

 ヒイロはどんどん包帯を引っ張っていき、ついには全ての包帯を取ってしまった。

「にゃ〜ん(は、恥ずかしいよぉ)」

 大事なところを抑えながら、ブラック・ファラオは顔を沸騰させた。

「はーははははっ参ったか!(チラッとだけど……お、俺様より……デカかったな……)」

「にゃー! お、覚えてろよ!(この屈辱は忘れないからな!)」

 ブラック・ファラオは股間を抑えながらヒイロに背を向け、お尻をフリフリさせながら走って逃げて行った。

 な、なんとヒイロが勝利を収めたのだ!

 卑怯というか、カッコいい勝ち方ではなかったが、とにかく勝ったのだから良しとしようじゃないか。

「はーははははっ俺様に敵なし!(うぉー今の俺様って飛びぬけてカッコいいぞ!)」

 それはどうだかわからない。

 危機が去り、落ち着いたところで、ヒイロの視線が地面で気絶しているミサに向けられた。

「サングラスか……(ちょっと見てみたいな)」

 そーっとこそ泥のようにヒイロはミサに近づき、震える手でサングラスを掴もうとした。

 が、そのとき、ミサの口元が妖しく笑った。

「ヒイロくん、なにをするつもりかしら?」

「い、いや、気絶してるから起こそうかと(いきなり目覚めやがった)」

「キスならいつでもしてあげるわよ……うふっ」

 イヤらしく舌舐めずりされ、濡れた唇を目の当たりにしてヒイロはミサから飛びのいた。

「と、ととと、トンでもない!」

「ジュース1本でしてあげるわよ、うふふ(ヒイロくんったら意外にウブなのね……ふふ)」

「ノーサンキュー!(いや、でもジュース一本だったら)」

 顔を真っ赤にしながら手を顔の前で窓拭きするヒイロのことなどすでに放置で、ミサは辺りを見回して状況把握に努めていた。

「うーん、危機は去ったのかしら?」

「おう、俺様が大神官を追い払ってやったぜ」

「そう(怪物の残骸……誰がやったのかしら?)。それよりヒイロくん、そこで立ったまま動かない華那太ちゃんを起こしてくださる?」

「おう!」

「それから出口を探しつつ、ガイアストーンの捜索をしましょう」

「おお、ついにガイアストーンか!」

 このあと、ヒイロは親切で起こそうとした華那太に痴漢と間違われ殴られ、気絶したヒイロを華那太が苦笑しながら背負って移動したのだった。

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