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現代トラウマヒーロー伝 大魔王遣いヒイロ!  作者: 秋月瑛
Season1 大魔王遣いヒイロ!
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第1話 ヒーロー登場!?

魔王様は黒猫(大魔王ハルカ)と世界観を共有しております(若干の設定の違いアリ)。そちらも合わせてお読みいただくと、より楽しく読むことができます。単独でも十分楽しめる内容です。

第1話 ヒーロー登場!?


 ――二〇XX年、日本は鎖国した。

 そして、今や日本という国名はなくなり、大日本帝國♪と改名したのであった。

 通称は日本のままだから、普段の生活にはそれほど支障はないけど。

 問題は国名が変わったことじゃない。別にあるのだ。


 ぴーちくぱーちくスズメがさえずり、せせらぎのように爽やかなそよ風、朝日がサンサン眩しい日差し、そして住宅街を駆ける爆走少女。

「遅刻遅刻ぅ〜っ!」

 今朝も遅刻街道まっしぐらの華那汰かなたは、口にキツネ色のトーストをくわえ、ブレザーの袖に腕を通しながら走っていた。

 毎朝の強制的早朝マラソンを欠かさない華那汰だが、高校入学から早一ヶ月、今のところ一度も学校に遅刻したことがないのが彼女の自慢だ。

 なんせ彼女は、一〇〇メートル走を一〇・〇〇秒切ってしまう『能力者』だ。オリンピックに出れば金メダル確実といわれているが、特別地域の出身者や住民は公式の記録大会には出れないので、残念。

 亜麻色のツインテールまで走ってるときの手みたいに動かし、華那汰は最終コーナーを曲がろうとしていた。コーナーでも減速しないことが華那汰のポリシーだ。

 コーナーを曲がったところで華那多の目に突然飛び込んできた人影!?

「危ない!」

 ドン!

 口にくわえていたトーストが宙に舞い、華那汰はアスファルトに尻餅を付いた。

「アイターッ!(ったく、いきなり飛び出して来たの誰よ!)」

 あられもない声をあげて、華那汰はお尻を擦りながら目の前にいる人影を見る。

 するとそこに立っていたのは陽の光を背中に浴びる長身の青年。華那汰はこの青年を見て思った。

「(……ありえない)」

 長身の青年はバランスの取れた体躯で、顔もキリリとした華那汰好みのカッコ良さで、微妙に身体の内から燃える魂が感じられる青年だった。

 だが、しかし!

「(白いガクランって!)」

 思わず心の中でツッコミを入れてしまった華那汰。

 前ボタンを全開にして紺色のシャツを覗かせる白い学生服。しかも、裾が明らかに短くて、ヘソよりも高い位置にある。――特注に間違いない!

 こんな昔のヤンキーっぽい服装、でも今風にアレンジ……みたいな格好をしている学生は、同じ高校にはいない。華那汰はそう断言できる。てゆーか、日本のどこにもこんなやつ……たまにはいるかも。

 日本が鎖国しちゃってからというもの、各地で変人さん、もしくは『能力者』が増えてしまったのだ。その筆頭に挙げられるのが、現在大日本帝國♪を治めている『黒猫』だ。

 黒猫というあだ名かと思いきや、本当に黒猫の姿をした正体不明のナマモノなのだ。しかも、当人(当猫)の黒猫は自称華の女子高生を名乗り、人々からはこう呼ばれている――大魔王ハルカと。

 尻餅を付いている華那汰に白ガクラン青年が手を差し伸べる。

 これって運命の出逢い!?

 差し伸べられる手をつかもうと華那汰が手を出した瞬間、青年の手の形が変わった。それはまるで指を差すような形。

「パンツ見えてるぞ(白と水色のストライプか)」

「…………っ!?」

 M字開脚をしてしまっていた華那汰が急いでスカート押えながら立ち上がった。

 何事もなかったように歩き出す青年の背中を見ながら、華那汰の顔は見る見るうちに真っ赤なマグマになっていく。爆発寸前だ!

 通学鞄を地面から拾い上げた華那汰が走る。

 走る走る走る。

 一〇〇メートル七秒台で爆走!

 青年の背中に向かって華那汰は速攻を決める!

 華那汰、鞄を持った手を大きく振りかぶったぁっ!

「えっち、痴漢、変態!」

 ズゴーン!

 通学鞄の平らの部分が青年の後頭部にクリティカルヒット!

 不意打ちを受けて青年は前のめりになりながら地面に沈んだ。

 勝者、華那汰!

 ……じゃなくって。

 身動き一つしなくなった青年を見て、華那汰の顔が蒼ざめる。

「殺っちゃった?」

 てへっ♪と笑う華那汰の表情は苦々しい。口元が微妙に痙攣している。内心かなり焦っているのだ。背中なんて汗ダラダラ。

 華那汰はローファーのつま先で、気絶もしくはご臨終している生物のわき腹を突付いてみるが、反応ゼロ。こりゃヤヴァイ!

 右見て左見て、華那汰は辺りに人がいないことが確認すると、何事もなかったように走り出した。

「遅刻遅刻ぅ〜♪」

 爽やかな笑顔で華那汰逃走。しかも鼻歌交じり。けれど全力疾走なのは言うまでもない。


 キーンコーンカーンコーン♪

 鳴り響く学校のチャイム。

 ざわめき立ついつもの教室の風景。

 そして、毎朝恒例の行事がはじまります。

 水泳の飛び込みのように教室のドアから入って来た華那汰。彼女が入って来たのは教室前方のドア。そこから華那汰が飛んだ!

 空中で回転しながら天井に足の裏を向け、華那汰はスカートを揺らしながら華麗に舞ったのだ。そして、教室最後列にある自分の席にストンと座る。

「おぉぉぉぉぉっ!」

 湧きあがる歓声。ほとんど男の唸り声。なぜって、今日は『白と水色のストライプ』だから!

 と、これがいつもの光景だ。

 近頃は男子生徒の間で『パンティー占い』なるものが流行っているが、華那汰はそのことを知らないでいる。

 教室の前から後ろまで飛んで、自分の席に着地した華那汰は、実は運動神経が抜群なのだ。 なんてレベルを凌駕しちゃってるのは明らかだろう。華那汰は普通の人間ではありえない距離を飛んだのだ。けれど、鎖国しちゃった最近の日本では普通なことになりつつある。

 着席した華那汰が、ふと横の席を見ると席が増えてる!?

 昨日までなかった席が明らかに一席増えている。

 ま、まさか!

「(みんなが知らないクラスの仲間がいる!?)」

 華那汰は急に背中に悪寒を感じて身震いした。

 そういえば、クラスで集合写真を撮ったりすると、必ず心霊写真が写るんです。青年の霊が(笑)

 ついにあの子もクラスの一員として認められ、席を設けられたんだね。

 華那汰が無人の席を見ながら妄想を馳せていると、教室のドアが開き生徒たちがさざ波を立てた。

 教室に毛皮のコートを着た二十代後半と思われる知らないお姐さんが入ってきたのだ。

 よくニュースで見る勝手に学校に入ってきて暴れまわる変質者!?

 お姐さんが教壇の前に立った。

「おーほほほほっ!」

 入ってきたお姐さんが突然の高笑い。やっぱり変質者だ!

 だって毛先が縦ロールしちゃってるお姉さんが一般人のわけがない!

 変質者じゃなかったらセレブだ。

「アタクシ、今日からこのクラスの担任になった美獣びじゅうよ!(カッコよく決まったわ!)」

 そう名乗ったお姐さんが黒板にデカデカと赤いチョークで『美獣』と書きなぐった。

 生徒一同フリーズ。

 格好と高笑いも衝撃的だったが、そんなことより『美獣』ってなんだよ。『美』が苗字で『獣』が名前なのか。ツッコミどころ満載だけど、美獣の発する変人オーラが強すぎて誰もが口を噤んでしまった。

 美獣の話によると前の担任は、トラックに撥ねられそうになった少年を助け、自分が代わりに轢かれて重症を負って入院ということらしい。

 段取りがあるのか、一通り話を終えた美獣は教室のドアをあけた。すると廊下から白い影が教室に入ってきた。

 白い影=幽霊

 華那汰の予想が的中したのか?

「(やっぱり新しいクラス仲間は入学直前に病で亡くなった山田君なのね!)」

 白い影には足があった。今度こそ今度こそ変質者!?

 だって特注の白い学ラン着てるよ。

 白い学ラン青年の顔を見て華那汰が席からジャンプした。

「あーっ、今朝の変質者!」

 ちょっとパンツを見られただけで、いつの間にか変質者にまでランクアップしていた。

 華那汰と目が合った青年も声を荒げる。

「あのときの暴力女かっ!」

「暴力女とはなによ!」

「いきなり俺様の後頭部を強打したのはどこの誰だ!(気づいたら人だかりに囲まれてて大変だったんだぞ!)」

「それはあんたがあたしのパンツ見て指差すから!」

 教室にいた男子生徒たちが沈黙。華那汰は『パンティー占い』のことを知らない。

「二人ともお黙り!」

 犬を叱り付けるように美獣が吠えた。

 怒られてない者まですくみ上がり、教室がしーんと静まり返る。

 命令を聞く生徒たちを見て美獣は満足そうな笑みを浮かべ、最後に横に立っている白い学ラン青年を見つめた。

「新入生君、自己紹介なさい」

「俺様の名前は覇道はどうヒイロ。夢は――」

「夢なんて聞いてないわよ」

 ヒイロは美獣に背中をど衝かれ、おっとととなりながら後ろの座席に移動させられた。

「覇道の席は、そこの空いている席よ」

 美獣に命令されるままヒイロは席に座った。その横の席では不満顔の華那汰。

「なんであんたがあたしの横なわけ?(サイテー)」

「俺様だってお前の横なんて願い下げだ(こいつの手の届く範囲にいたら、また殴られるかもしれん)」

 コソコソ話だが、二人の気迫は大ボリュームだ。

「そこは山田君の席なんだから、あんたが勝手に座らないでよ。汚れる」

「山田ってどこの誰だよ!」

「山田君は山田君よ」

 華那汰はまだ幽霊青年の話を引きずっていた。

「山田なんてヤツどうでもいいから、お前名乗れよ!(呪いリストに名前を書いてやる)」

 呪いリストとは、ヒイロが個人的にムカついたヤツをリストアップしているノートのことだ。

「あんたになんて教える名前ありませーん」

「名前くらい言えよ、俺様だってさっきみんなの前で名乗ったんだから、お前卑怯だぞ」

「卑怯ってなによ、卑怯って。加護華那汰、華那汰って名前好きじゃないから華って呼んで(華那汰って男の子みたいで嫌。男の子が欲しかったなら、もう一人生めばいいのに)」

 華那汰の名前を聞いて、ヒイロの顔が固まった。そして、ゆっくりと口が大きく開かれ、その中から拡声器使ったみたいに大声を出した。

「キサマが加護華那汰かっ!(ついに見つけたぞ!)」

 ヒイロが席を立ち上がりながら声を大きく出したところで、美獣の手からビシュッとチョークが投げられた。

「うるさいわよ!」

 スコーンと勢いよくチョークがヒイロの額にクリティカルヒット!

 脳内が真っ白になりながら、ヒイロは最後の力を使って華那汰に言った。

「……昼休み、学校の裏庭で待っている」

 完全に意識の途切れたヒイロは机を巻き込みながら転倒してしまった。

 気絶したヒイロが美獣の命令された男子生徒によって保健室に運ばれていく。

 情けなく運ばれていくヒイロを見ながら、華那汰の魂は闘志にメラメラ燃えていた。

「(裏庭に来いってことは果し合いね!)」

 華那汰の中では、『屋上=告白』と『裏庭=ケンカ』の図式が妄想されているのだ。

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