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子供達を家に招き入れて三日目の昼のこと。魔女は久しぶりにアップルパイを焼き、子供達に振る舞おうと考えた。しかし、盛り付けようとしたとき、来客用の食器が二つ足りないことに気が付いた。
「グレーテル、白地に細かい花模様の食器を見なかったかい?」
「いいえ。見てないわ」
食器棚の奥以外に思い当たる場所はなかったが、魔女は「きっと物忘れがひどくなっているのだ」と自分を納得させた。長い間ろくに人と話さない生活を続けていたためだ。おまけに、外見は三十代後半でも実際はその五倍も歳をとっていた。
子供達と暮らし始めて一週間が経ったころ。魔女はヘンゼルとグレーテルに新しい服を作ってやろうと思い立った。そして、ほんの少しめかしこんで町の生地屋に行くことにした。
「夜までには帰るから、留守番頼んだよ」
「はーい」
この日も、グレーテルは掃除や洗い物をし、ヘンゼルは家の周りでまきを集めた。
ヘンゼルは、魔女の家の裏手にある川で集めた大きめの石を置きながら、少し離れた場所まで来ていた。
「ヘンゼル、調子はどうだい?」
「順調だよ、父さん」
声をかけてきた木こりの男に、ヘンゼルは答えた。
「油断はするなよ。相手は魔女という噂もあるからな」
「うん、分かってる!」