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第一節

 ここに一葉の写真がある。

 ケーネルキーの大手新聞フォービス日報がヴェリアリープ皇帝クラリーク一世の戴冠式の様子を伝えた歴史的な写真である。

 新皇帝戴冠と帝都襲撃事件の第一報は、マリーワールの共同租界から電信にて送られ、三日後の朝刊一面を飾った。だが、写真となるとそうはいかない。船で西大洋を渡らねばならず、そのためこの写真が掲載されたのも戴冠式から一ヶ月半後のことであった。

 この写真は西新大陸人を写した初めての記念写真とも言われている。

 その頃、マリエスタ府内では写真機も珍しい物ではなく、共同租界や領事館、商社などの完成を記念した集合写真は多々あった。しかし、そのどれもが被写体は旧大陸人だ。だからこそ、撮影したのはライムベル・ルーオーというフォービス日報の特派員とはいえ、この写真は西新大陸にとって貴重な一葉とされる。

 写真には最初で最後の女帝となった〝最後の皇帝〟クラリーク一世を中心に、当時のヴェリアリープ帝国高官が立ち並んでいる。六代選帝侯――すなわち、エナスフール王、ハイダウィル公、シュラック宮中伯、ボードリック辺境伯、リジエール大主教、モークロッド学園長は言うに及ばず、戴冠を祝福するため上京したブラントン王立神教会総主教も写っている。

 当然ながら、前夜の鬼人族による襲撃で戦死した近衛騎士団総長であるトリスロス侯や侍従官長の姿はない。そのため、彼らの姿を後世に伝える写真は存在しない。

 一方で、亜人の軍勢から皇帝と帝都を守った英雄の姿が伺える。

 後に〝最後の騎士〟とも称されることとなる碧空騎士団総長にして近衛士爵グレクス・ミューガン・ヴァリアマンスもそのひとりだ。前夜、叛乱を起こしたマリエスタ陸軍から皇帝を救い出した彼はこの直後、近衛男爵に進んでいる。

 また、ヴァリアマンスの腹心にして愛弟子、〝最強の剣士〟と謳われた碧空騎士団のピアニエ・イェンスト・エリーティングスもそこに並ぶ。ヴァリアマンス同様、この後、皇帝自ら叙勲を行い、近衛士爵として正式に騎士と認められた。女帝が女性騎士を叙勲するなど、帝国千年の歴史において初めてのことである。

 当時の彼らからすれば異様とも思える服装の外国人も何人か写り込んでいる。

 旧大陸列強各国の公使たちがほとんどだが、ふたりの女性軍人の姿もある。アルテプラーノ陸軍教官団の団長アニエミエリ・フローナースト騎兵中尉とその副官エルルティス・ルクスティー准尉である。このふたりの列席は皇帝たっての希望と伝えられるが、フローナースト中尉が怒ったような険しい表情をしている理由は定かではない。

 また、実にヴェリアリープ帝国らしく、ローブを纏った魔術師の姿も見受けられる。

 昨夜の襲撃がとある魔術師の手引きであることが判明し、この翌日には引責辞任した高齢の宮廷魔術師長だけではない。後の動乱で頭角を現すこととなる当時の宮廷魔術師のひとり、エルト・カール・デューも写っているため、それだけでもこの写真には価値があるといえよう。しかし、残念なことに、宮廷作法に従う彼ら魔術師はフードを深くかぶっていて素顔を窺い知ることはできない。

 なお、この写真には人の良さそうな異国の青年も背の低い魔術師の少女も写っていない。これはあくまでも歴史の一頁であり、写真機のレンズの後ろ側を写し出しはしないのだ。

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