第九節
大通りの真ん中で、二騎二十人あまりの小隊が数十匹の鬼人に襲われている。馬上の騎士が翻すマントには王冠泉神紋。エナスフール王立瑞泉騎士団の一隊だ。
「中隊、直ちに横列に展開!」
麾下歩兵中隊へ下命するとモデルトレデト大佐は馬を下りた。
マリエスタ陸軍教導連隊歩兵第一中隊は行軍隊形の縦列から横列に移行。大通りを横切る戦列を敷いた。脇道に伏兵でも潜んでいれば別だが、血に飢えた鬼人が戦闘を目の前にして控えているはずもなく、側背を突かれる心配はない。
こちらに気づいた鬼人が立ち向かってくるも、むしろ距離が縮まり命中率が上がるというもの。ヨッセル上流戦争での敗北が教えてくれたように、銃砲に対して勇気だけで立ち向かうのは愚の骨頂だ。
「装填ッ!!」
大尉の復唱に続き、歩兵が一斉に弾を込める。
「構えッ!!」
ケーネルキー製の最新鋭小銃が首をもたげる。
「狙えッ!!」
百五十もの銃口が鬼神の末裔へと向けられる。
「撃てッ!!」
新たな時代の到来を告げる轟音が鳴り響いた。
硝煙の向こう側で、おもしろいようにばたばたと倒れる鬼人族。破滅の暴風に煽られた鬼人族は生き残った者も散り散りになって逃げ出していった。戦果は上々だ。
しかも、弾が流れ、幾人かの人間も撃ち倒したが中隊に動揺は見られない。これならば、続く命令も滞りなく遂行されるだろう。
「す、助太刀感謝致す!」
戦列歩兵による斉射の威力を目の当たりにして驚いた様子だ。エナスフール王の家臣という保守派の騎士でも、自らを助けたとあっては近代戦力に礼を言えるらしい。
だが、そんなものはいらない。
「装填ッ!!」
兵らは多少の戸惑いを示しつつも、もはや連隊長に逆らえる者はいなかった。そうでなければ困る。この後さらに、本命が控えているのだから。
今こそ訓練の成果を発揮するときだ。
「構えッ!!」
「な、何のつもりだッ!? おい!!」
アルテプラーノ語の号令はわからずとも、向けられた銃口の意味はわかるのだろう。すなわち、このままでは鬼人たちの二の舞になると。
「狙えッ!!」
「やめ、やめろ! やめてくれ!!」
武勇に優れた勇猛な騎士などと呼ばれていたであろう男の顔が醜く歪むも、いつまでもそれを見続けずに済んだ。自分もまた騎士であり、そんな情けない騎士を見るのは忍びない。
滅びゆくものは滅ぼさねばならないのだ。
「撃てッ!!」
モデルトレデト大佐の誇る新式陸軍は鉄火を以て敵を粉砕した。




