第四節
夜風に撫でられ、篝火が爆ぜる。
「集まったのは如何ほどか?」
中庭に集結した戦力を見て、エナスフール王は重臣に問うた。マスティールガー城に駐屯するエナスフール王立瑞泉騎士団は百の騎士から成り、兵も最大動員で千五百を超える帝都最大の戦力である。
「なんとか二十騎三百人ほど……」
鬼人に阻まれたのか、それとも逃げ出したのか。兵卒はともかく騎士ともあろう者が参陣できないとは。
選帝侯でもあり帝国式部官長たるエナスフール王シュター・グドラハネル・ベンピオラット=ガイゲンデンナーは内心で嘆いていた。保守派の領袖として王は誰よりも騎士道を信奉している。異人に負け続けているとはいえ、騎士たる者、一朝事あらばその身を捧ぐべきであろうに。
本陣の床几に掛けて奥歯を噛み締めていると、血相を変えた伝令が駆けてきた。
「申し上げますッ!」
塔楼の物見からの伝令だ。次はゲリークフェン宮殿でも燃えたというのだろうか。
「至聖殿の皇帝旗が降ろされました!」
「何だとッ!?」
エナスフール王は思わず立ち上がった。集結した家臣たちもざわめく。
涙神と龍神に護られた帝冠白翼旗は皇帝の在所を広く知らしめるための物だ。それが燃え盛る至聖殿から降ろされたということは――
「まさか……皇帝陛下はすでに」
「馬鹿を申すなッ!」
顔を青くする一人の騎士をエナスフール王が一喝。
「トリスロス侯はいけ好かん奴だが、お役目くらい心得ておるわ! 奴が皇帝旗を降ろしたのならば、それは皇帝陛下がどこかにお移りになるからに決まっておろう!」
剣の柄を握りしめ、瑞泉騎士団に命じる。
「十、いや、二十騎すべて街に繰り出せい!!」
二十騎出陣となれば供回りはおよそ二百、残る兵力は若干百人。堅牢なマスティールガー城に陣取るからこそできる思い切った策だ。
「皇帝陛下は必ずここに来られる! 亜人共を蹴散らし、手分けしてお出迎えよ!」




