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第八節
「遠からん者は音に聞けッ!! 近くば寄って目にも見よッ!!」
自分で思っていたよりもすんなりと大きな声が出せた。
「我は騎士の中の騎士!! 逃げも隠れもせんッ!!」
開明派の父の影響で異国を夢見て生きてきた。彼の国々では自分と同じ年頃なら女学生として、穏やかな日々を過ごせるという。
「我は将の中の将!! この首欲しくば覚悟せよッ!!」
何の因果か、それが皇帝になんかなってしまった。戦場となった夜の帝都で、古めかしいほどの名乗りを挙げている始末。
「我は王の中の王!! 我が軍勢が受けて立とうッ!!」
でも、そんな自分にも出来ることがある。
期待してくれる人がいる。応援してくれる人がいる。
老いたる帝国のために、悩める民のために、自分に出来ることをやろう。
やってやろう。
「我はヴェリアリープが皇帝!! クラリーク一世はここに在るぞッ!!」
これが後の世にいう〝クラリーク帝の大口上〟である。この勇ましさにあふれた名乗りはヴェリアリープ帝国最後の皇帝を語る上で欠かせない挿話として広く知られることとなる。




