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第八節
「構えッ!! 狙えッ!! 撃てッ!!」
陽が傾き、寒さを覚える時間までマリエスタ陸軍の練兵をしていたアニエミエリの元へ、またも式部官がやってきた。
曰く、「皇帝陛下の格別なる御慈悲により」などというもったいぶった言い回しをさんざん続けた挙げ句「今宵はゲリークフェン宮殿に部屋を用意した」という。つまり、今夜は宮殿に泊まるが良かろう、とのこと。
この大陸に着いてから初日は汽車、翌日は公使館、そして宮殿。日を追う毎に宿が豪華になっている。野営にも慣れているアニエミエリにとって、これはこれで心地が悪い。
よっぽど皇帝に好かれたか嫌われたかしたのだろう。またしても、アニエミエリとエルルティス、そしてオリビノエイタの三人だ。
戴冠式を翌日に控えた今宵、帝国の中枢にして帝都の中心たるゲリークフェン宮殿に、外国人が宿泊することとなった。これはヴェリアリープ帝国の歴史や習慣において珍しいことであるが、翌日の歴史的行事に比べれば些事でしかない。
しかし、この些事が歴史を変える。




