表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汝の零した青き涙に  作者: 嘉野 令
第五章 汝の零した青き涙に
20/64

第四節

 すぱん。

「こら、いつまで呆けてるの」

 幼馴染みと青年騎士の剣戟に見とれていたオリビノエイタはアニエミエリに頭をひっぱたかれた。尻餅をついていたから、さぞ叩きやすかったことだろう。

 だが、恐怖で腰を抜かしたわけではない。思っていたよりエルルティスが強かったのもそうなのだが、中世の国に来て初めて目にした剣闘に感動していた。今もどこか夢見心地だ。

 負けた騎士は天井に刺さった長剣を見上げていた。差し込む夕陽が影を伸ばし、表情までは読み取れない。自らを「剣に生きる者」と称した騎士は敗北に何を思うのか。

 夢見心地は長く続かなかった。アニエミエリに促されるまま階段を下ると、一階の戦いはすでに終わっていたからだ。数か実力か、大きな差があったのだろう。そこにはポテルクワ城伯と五人の同志たちの亡骸だけが横たわっていた。誇らしげに立つ青いマントの一団と、目を開いたまま事切れたポテルクワ城伯。

 血の海に、赤い林檎が沈んでいる。

 本の世界ではない現実の光景。オリビノエイタはそれに捧ぐ言葉を知らずに今日を迎えた。だが、幸いにも今は口に紡ぐべき数節を知っている。

 そっと、覚えたての祈りを唱えた。然して、それは初めて使う魔術だった。


 烏兎の間隙に住まう母なる女神よ

 汝の零した青き涙に

 今も我らは感謝を捧げん

 願わくば再びの慈悲のあらんことを

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ