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汝の零した青き涙に  作者: 嘉野 令
第四章 トリスロス侯隷下碧空騎士団
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第一節

 その事件が起こったのはクラリーク帝二年愛華月十五日、すなわち旧大陸革命暦一〇三年四月十八日の昼頃のことである。

 新皇帝クラリーク一世の戴冠式を翌々日に控えた帝都クロスフェールにて、魔術師の少女と旧大陸の青年が誘拐された。

 魔術師の少女はレーナリーク王立魔術院で助手を勤めるミューネ・ルナッド・リューゼ魔術修士、十五歳。

 旧大陸の青年はヴェリアリープ派遣アルテプラーノ陸軍教官団団長の従卒オリビノエイタ・エパスタ、二十六歳。

 事件発生当初から犯人は保守的な攘夷論を振りかざす過激な不逞騎士と目されていた。中でも、ヨッセル上流戦争で主家であるシュラック宮中伯に見捨てられ身分も領地も失った〝敗残騎士〟の仕業に違いないと誰もが考えていた。彼らは当時、地方で要人襲撃などを繰り返し、革命党員よりも過激なテロリストと認識されていたからだ。

 幼いとはいえ魔術師に抵抗も許さず、二人の人間を攫った手際の良さに引き換え、事件の発覚は驚くほど早かった。

 誰がいつどのように把握したのかは記録されていないが、その地区の治安維持を所管するトリスロス侯隷下碧空騎士団に第一報を入れたのは宮廷魔術師である。十八人いる宮廷魔術師のうち誰であるかも記録にはない。

 その宮廷魔術師曰く、魔術師と異国人が不逞の輩に攫われたようだ、と。

 まだ日の高いうちに情報は帝都中を駆け巡った。折りしも帝都は戴冠式当日へ向けた厳戒態勢下にある。誰も彼もが過剰な反応をとった。

 発足まもなく、団員の身分も低い碧空騎士団などはその最たる例だった。碧空騎士団総長の近衛士爵グレクス・ミューガン・ヴァリアマンスは屯所で高らかに宣言した。

「不逞騎士の血を以って、皇帝陛下御戴冠の祝い酒としようぞッ!!」

 敗残騎士などと違って体制側とはいえ、彼らもまた保守派攘夷論者である。そも、この時勢に騎士たらんとする者は外国人も魔術師も嫌いであった。そのため、人質救出よりも犯人の首級を挙げることを目的として血気に逸っていた。

 一方、帝都駐在の列強各国の公使たちは互いを牽制しあった。治外法権で守られたアルテプラーノ人が斬られたとあらば、出兵の理由としては十分だ。だが、アルテプラーノ共和国だけがこの大陸を蹂躙し、権益を確立するのを座して待つほど旧大陸列強は甘くない。ケーネルキー連合共和国、ユミー王国、フルスファー共和国もパワーゲームに加わらんと画策した。

 また、アルテプラーノ陸軍教官団の団長アニエミエリ・フローナースト騎兵中尉も積極果敢に介入した。ケルトケッハ子爵カージルト・ヨハイツ・モデルトレデトによる再三の制止に耳を貸さなかったという。

「たとえ何者が立ち塞がろうとも、我が雇員は我が手で取り戻すッ!!」

 誘拐されたオリビノエイタ・エパスタ青年の雇い主であり、当事者としては当然の理屈であったが、非公式ながら公使から介入の指示を受けていたのだろう。しかしながら、さすがに武装した教官団を動かすわけにもいかない。軍医教育担当のミエードガール・マルメトアン二等軍医に留守を託し、彼女は副官であるエルルティス・ルクスティー歩兵准尉のみを従えて、たったの二騎で帝都郊外の練兵場を飛び出した。

 夕刻、帝都を一気に駆け抜けたフローナースト中尉とルクスティー准尉が碧空騎士団の屯所テファンベル館に到着した頃には、犯人と人質の所在が判明していた。そのため、屯所は出陣の準備に追われ、騒然としていた。

 なお、例によって情報の出所――誰がどのように調べ、誰がどのように通報したのか――は不明である。

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