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本の虫〜6月の図書館〜

作者: *姫林檎*

春の自己紹介がないことを指摘されてようやく気づきました・・・

すみませんでした。

梅雨は嫌いだ。


じめじめしてて、なんだか蒸し暑くて。


髪の毛も広がるから、視界を邪魔する。


雨が降ると校庭が使えないから、普段は図書室に来ないうるさい人もたくさん来るし。


今年の梅雨は好きになれるかな?


近藤君がいれば 好きになれるんじゃないのかな?


どうして私、こんなこと考えてるんだろう・・・


「あ・・・近藤君ッ!」


昼休憩、お弁当を食べ終わった私は図書室へ向かう階段を登っていました。


すると上の方に近藤君の後姿があったので慌てて声をかけました。


「あぁ、今日は早いね。」


近藤君はそう言ってにっこりと微笑んで立ち止まってくれた。


慌てて階段を駆け上がると近藤君は笑った。


「もう梅雨だね。」


近藤君は階段の踊り場にある窓の外を眺めた。


雨なんて降ってないのに。


「近藤君は、梅雨が好き?嫌い?」


「んー、どっちかって言うと嫌いかな。」


「へぇ・・・」


「・・・えっと、ごめん 名前なんだったっけ?」


「へ?」


そうだ 知り合って2ヶ月ぐらいなのに、私は近藤君に自己紹介をしていなかった。


「1年生の、小川春です。」


「小川、春?なんか曲あったよね。春の小川がどうのこうのって。」


そういえばそんな童謡があった。


まさかお母さん達、それで私の春って?


「話戻るんだけどさ。小川さんはどっちなの?」


「私は・・・あんまり好きじゃないかもです。」


「・・・そっか。俺の場合、雨は好きだけど、梅雨っていう季節があんまり好きじゃないんだ。」


「どうして?梅雨って言ったら雨でしょ?」


図書室のドアを開けると、雨を降っていないせいかやっぱり人はいなかった。


いつも私と近藤君が図書室の1番乗りなんだ。


「うん。そうなんだけど・・・梅雨にはあんまりいい思い出がないんだ。」


「どうして?」


「・・・あの本、覚えてる?」


近藤君はそう言って本棚を指差した。


そこは春に、私が近藤君の本を見つけた本棚だった。


たくさんの人達の中から、たった1人の人を見つけるように、私はたくさんの本の中から近藤君の1冊を見つけた。


「うん。覚えてるよ?」


「その中で、主人公が女の子のこと怪我させたでしょ?」


そういえば、確かにそんな話があった。


主人公の男の子の好きな女の子を、怪我させてしまった。


どうなって怪我したんだっけ・・・


思い出そうとしたけど、全然思い出せなかった。


「あそこだけ実話なんだ。」


近藤君はそういうと、私に背を向けて本棚へ向かった。


後姿じゃ、近藤君がどんな表情なのかはわからなかった。


「その女の子は、誰なの?」


「・・・教えない。」




どうしてだろう


どうして今私、凄く寂しいんだろう?


近藤君に好きな人がいても、別に悪いことでもおかしいことでもないはずなのに。


どうしてこんな・・・




不意に、恋愛物の本で見慣れた言葉が浮かんだ。






あぁ そっか






『嫉妬』だ



どうして?え?


私・・・


「だけど、今でも俺にとっては大事な人だよ。」


それは、今でも好きってこと?



どうして私、こんな気持ちに?





近藤君の時間が好きだった。


優しくて 暖かくて、安心できて。


本当に好きだった。


近藤君の言葉も。


近藤君の世界が大好きだった。



なのに、どうしてこんな気持ちになるの?


こんなの、いらないよ




近藤君の世界は、嫌いになんてならない。


だけど



こんな気持ちになるぐらいなら






もう いらない





「近藤君」


「何?」


近藤君は、振り向かずに聞く。


あぁ そっか


近藤君には今、『女の子』しか見えてないんだ。


私のことは見えていない。


「私、教室に帰るね。」


「え?」


近藤君が振り向く前に、今度は私が近藤君に背を向けた。


そして 振り向かずに走り出した。


近藤君の足音は聞こえてこない。


かわりに、雨の音が聞こえた。



雨が窓をたたく。


校舎をたたく。


私達の世界を濡らす。


私の瞳も濡れていた。





桜の葉から雨がこぼれる 6月のことでした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 梅雨の到来とともに失恋ですか…。近藤くんの大事な人が春ちゃんだったらいいのにと思います。春ちゃんのこと応援してますから。
[一言] 今回は、せつないですね。 短い文章と空白の行で、これだけ伝えられるのはすごいですね。 物語のほうも、ますます目が離せなくなりました。
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