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かげろう  作者: 竹叢
6/8

6

姉が自室に戻ってしまうと、母は大きな溜め息をついてソファーに座った。キムラさんもその後を追って、隣に腰かけた。

「ユキ、あんた慰めてあげてきてよ。あたし、酷いことしちゃったから…」

僕は微かに頷いて、姉の部屋に向かった。

姉と僕の部屋は隣り合っていて、三階にあった。姉の部屋にはその時まで入ったことはなかった。

僕は何度かノックしたが、返事はなかった。眠っているのかとも思ったが、何となく気になったので返事を待たずにドアを開けた。姉の部屋は暗く、誰もいないようだったが、姉を呼ぶとベットの足元の辺りから声が上がった。

「姉さん?寝てたの?」

「ユキ?」

僕は電気を点けた。

姉の部屋はきれいに整頓されていると言うより、物がなく殺風景だった。所々に不思議な物体がある。小型の人体模型や、頭蓋骨のレプリカ、大型の地球儀などが並んでいる。気にはなったが、じろじろと見て姉を不愉快にはしたくなかった。

「入っていい?」

「うん、ドア閉めて」

姉はベットの足元に踞って、数日前に体育で作ったと言っていた肘の瘡蓋を剥いでいた。

「血が出てるよ」

僕はびっくりして言ったが、姉はにこりともせずに僕の顔を見た。

「こうしてるとね、何だか落ち着くの。ユキ、お義母さんに言われて来たんでしょ?怒ってた?」

「ううん」

母は、ただ自分のしたことにショックを受けて、姉に謝っていたと言った。姉は興味がなさそうだったが、僕には優しかった。

「ユキにまで迷惑かけてごめんね。お菓子あげるよ、食べて」

姉はふらつきながら窓際の机まで歩くと、引き出しの中からクッキーの缶を出した。

「好きなだけ食べな」

母親のように言った。僕はよく掃除された部屋だったためこぼさないように気を付けて食べた。

ぽりぽりとクッキーを食べる僕の横顔を、姉はぼんやりと見つめていた。普段にこにことしている姉の無表情な顔は、何だか怖かった。姉の顔は、眼だけが印象的で頭に残っていたが、ちゃんと見るのは初めてだったかも知れない。冷たく攻撃的な目以外は、思っていたよりも幼かった。整ってはいるがどこか淡白な姉の顔は、どちらかと言うと派手な僕の顔とは、やっぱり似ても似つかない。

「食べないの?」

僕は居心地が悪くなって姉に缶を差し出した。姉は少しだけ首を横に振った。僕はその場しのぎに聞いただけだったので、あまり強くも勧めなかった。

「顔、痛くない?」

「大丈夫。そんなに強く叩かれなかった」

その言葉はどこか、母の言葉や気持ちは姉の心に響かなかったと言っているようだった。

姉は無表情に僕の頭を撫でた。姉と僕はひとつしか違わない。姉のその仕草は、間違っていると感じた。

「姉さん、俺のこと好き?」

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