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第十四話◇ 休日

新しい女の子が登場します。おめでとう村山。

 今日はゴルフ日和だ。と言うことで久しぶりのオフに俺はたった一人で比較的都市部のどこかに来ていた。誘うと言っても武藤は絶対剣道部の練習で無理だし、宝条と西暁寺は金持ちだから何かありそうだし、身内もなんかめんどくさいし、じゃあどうする? 一人だよ! といった具合で来たのだ。

 目的と言えばゲームを買いに来たのと、ゲームをやりに来たのと、暇つぶしだろう。発想が貧困ですいません。

「しっかし、カップルとか多いな」

つい口からそんな言葉が出る。休日は大体こんなもんだがな。忌々しい。

 そして軽く歩くと、早速そこでなにか罵声のようなものが聞こえた。悪い予感しかしないが、あの通りか?

 単なる好奇心から俺は右手にある通りに入る。すると金髪の男二人が壁に追い詰めた誰かを囲むように立っている。もしや女か? 気になるし素通りしつつ他の通行人と同じようにチラ見でいいか。

 俺は普通の通行人のように歩き出す。そして軽く横をチラッと見る。

「……?」

 我々の学校の制服を着ているようだ、結構な美人だしナンパ被害にあっても自業自得だな。ほら、不細工な人も不細工で被害被ってるし美人だけ得するのも酷いもんじゃん。世の中はバランスで成り立ってるからこのくらいのイベントは必要だと思うのよ。しっかしあの女の子は一人で歩いてたのか? いや、友人が居るはずだろ、もしくは彼氏が。そいつに助けてもらうべきだな。

 いろいろ考えて顔を上げると女の子が此方を見ている。そういえば俺の足さっきから止まってないか? やべえ! 女の子が口を開いた!

「みてるなら助けてくださいよ!」

ほらこっちに被害が被る。美人はいつもこうだ! なんで俺がこんな責任を負う必要があるんだ!

「んだおめえは!」

金髪の兄ちゃんが俺に気付いてメンチ切ってきた。

「ちょっと待ってください。お嬢さん、私は一生人を殴れない病気でしてね、力になれそうもありません。

 あともう一つ、普段から顔が良いからって良い生活を享受して! 時にはこういうイベントも必要だと思います! 

 美人だから助けてくれると思ったら大間違いなのだよ! うわははははははは!」

日頃の鬱憤も込めて言い放ってやった、笑っていたからその時俺は目を閉じていたらしい。いきなり顔を殴られたようで激痛が走る……涙が出ちゃうよ!

「痛い痛い痛い痛い!」

俺は顔を押さえながらうずくまる。鼻頭殴られると無条件に涙出るよね。それ以前に誰に殴られた? 

 俺は状況も分からないまま顔を上げるとそこには意味の分からない光景が広がっていた。

 男が二人倒れ伏して、女の子はそれをゴミを見るかのような目で見つめている。俺もその目で見られている。通行人は目を丸くして立ち止まっている。つまり、女の子は殴られた俺を助けてくれたのか? いやどうなってんだ?

「いってえ……ところで俺誰に殴られたの?」

聞いてみた。

「むかついたから殴ったのよ」

「俺をあんたが?」

「ええ」

そうですか……そうですか!

「にしてもあんた強いね」

痛いのは我慢。

「一応あたし合気道やってるからね」

なるほど、たしかに男達の体に傷跡らしきものは見当たらない。でもなんで僕は殴ったんですか?

「そうですか、しかし不可解なのは何故俺を殴ったんだ」

「むかついたからよ。言動に」

いやだって、圧倒的優勢だったことを信じて疑わなかったからそんな事を言ったまでで……。

「一種の気の迷いでした。私はこれからしっかり生きていきたいと思います。ではこれにて」

俺はさっさとここを離れてしまいたかった。薬局で軟膏買って顔に塗りたいからな。

「待ちなさいよ」

後ろから声がかかる。どうせかかるとは思っていましたよ。俺は何ですか? と言って振り向く。

「これも何かの縁だわ」

「いやそれは違うと思います」

そう言って俺はさっさと歩き出したかったのに。

 世界が反転する。さっきまで下だった石畳は上に、右に、下に、体は横たわり、激痛が走り、さっきの兄ちゃん達もこんな痛かったんだな、と思った。

「投げただろお前!」

俺は地面に横たわり、袈裟固めで押さえ込まれながら罵声を浴びせる。周囲の人間は奇怪な見世物を見るように此方を見る。

「そうよ、あなたがあまりにも言うことを聞かないから投げたのよ」

「そうか、お前の言いたいことはよく分かったから、早くこれを解いてくれ」

「いやよ、あなたが私の質問に答えなければこれを解くことはできない」

質問って?

「わあった。答えられる範囲なら答えよう」

「あなたはどこの生徒?」

それは知られたくない。

「答えられない範囲だ、次」

瞬間、俺の顔に大きな質量がのしかかり、女性特有のフェロモンの香りと、石畳に押しつけられた方の土の香りがした。無論、不愉快だ。痛いから。

「答えなさい」

「……蘭高校」

「そう、同じ高校なのね、あとで挨拶させてもらうわ」

すんなよアホ。

「良かったな。じゃあ早く解いてよ」

「駄目よ、まだあるわ」

「さっさと質問してくれ」

「お言葉に甘えさせてただくわ。あなたの名前とクラスを教えなさい」

なんでクラスまで教えなくちゃいけないんだよ。冗談じゃないわよ!

「名前だけでお願いします」

「じゃあ名前だけで」

「村山篤志」

少女の体がぴくっと動く。何かあったか?

「もう全部分かったわ。フフフ……」

「不気味な笑いだな……いててててててて!! すいませんでしたあ!」

顔を圧迫するの止めろ。ほんと痛くて抵抗できなくなるから。

 少女はすぐに袈裟固めを解いてくれた。顔の横側が未だにずきずきする。

「私の名前はもう知ってるわよね」

何いってんだこいつ、どっかのアイドル気取ってるのか?

「自信過剰も甚だしい、君のような女性俺は聞いたこともないね! じゃ!」

俺はそう捨て台詞を吐いてさっさと走って逃げる。俺はこういった輩に絡まれるのはごめんなんだよ。チャラ男兄弟に大人しく捕まっていればこんな事にならずに済んだのに!

 一定時間走って後ろを振り返ると意外にも少女は付いてこなかった。俺は安堵してしまった。翌日に降りかかる災厄のことも知らずに。

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