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第十二話◇ お昼休み

「なあ武藤、ラブコメについて何か意見はあるか?」

「拙者の好む種類は時代物などでそのような種類はあまり読んだことは無い」

「なるほど、確かにお前はそんな感じの臭いがするな」

まあ、良いかこんな事は。―――閑話休題。

「しかし、剣道部に入ってどんな感じだ? なにか変わったことはあるか?」

「そういうと難しいが……とりあえず拙者は通常稽古では物足りないから特別稽古を組んでもらっておるよ。如月先輩も通ったことがある道だからの、気合いが入る」

なるほど、やはり俺の考え通りこの男は非常に優秀な素材らしい。この学校の剣道部も大きな獲得をしたと考えても良いだろう。

「ほほう」

適当に相づちを打っておく。

「なかなかきついが、強くなれると思えば拙者は苦には思わんて」

「純粋だ。そう言う姿勢は素晴らしいな」

俺には無理だ、一直線に向かう目標が存在しないから。

「お主もそう言った目標は無いのか?」

「拙者にはそれほど大きな目標は無き故、今日明日を生きるので精一杯でござる」

と、似たような口調で返してみる。

「それもまた目標、自信を持つと人生が変わるのだ」

明日今日を生きることもまた目標、とな?

「自信がないわけじゃないんだけどな。確固たる目標というのが持ち辛いだけのことよ。ほら、俺飽きやすいし」

余にとって趣味ははまっても一ヶ月持つか持たないかというほどだ。特筆すれば、作業が複雑もしくは単調な趣味ほど飽きやすい。

「だから文芸部を選んだ?」

「いや、そう言うわけでもない。ただ何となく。しかし楽しませてもらっているよ。小説を書くことは新鮮なことが多くてそれはそれで楽しい」

作業ってわけでもないしな。学校の感想文とも違うし。

「良いと思う。お主はその趣味を大切にするといい」

「ありがたきお言葉に存じます」

武藤武史は同い年だがおそらく人生的な観点から見ると先輩だ。いわば人生の先輩か。

「お前らの会話はいつも珍妙だな」

横からかすかな香水の香りと長い髪が現れる。俺も武藤もそちらを一瞥すると、再び弁当を食べ始めた。

「無言の拒否とはなかなかきついことをするなあ」

宝条はそう言うと俺の机の上にピンクのシルクで包まれた弁当箱をぞんざいに置く。クラスの目が集まる。お前らは黙って昼飯に集中しろよ。

「ちょっとちょっと宝条さん。何がしたいんですか」

俺が質問すると宝条は無言で自分の席に引き返し、今度は椅子を持ってきた。そうか、弁当を一緒に食べたいと。

「昼食をお供させてもらう。いやしかし、村山の弁当はバランスが傾いていて良くないなぁ。武藤は素晴らしい弁当だ。さすが武藤家の食事」

俺の弁当はそんなに駄目か、しかし武藤家ってなんだ。もしや武藤も宝条と同類の富豪だったりすると言うことか?

「武藤家って何だ?」

「うむ、拙者の家は武藤流という流派の武闘家で、あらゆる種目についての道場を開いている。経営に関しては父上が妙に優秀で、関東から近畿まで展開している」

なんだかんだいって自慢げに話す武藤君。

「うお、それはかなり……」

「なに、いままでと変わらず接してくれればありがたい。拙者もその方が良い」

「こいつは私に二言目で敬語をやめた男だ。そんな事言わずとも勝手にそうなる」

「宝条はすこしお黙り」

この女のお口から出る言葉は文句と皮肉しかないのかね。

「ははは、なかなか気骨のありそうな御仁だからな。一目見て分かっていたよ」

武藤も同調している。俺に気骨あるのか。

「私もそう思うよ。こいつは一目見たときから他の奴とは違う気がしたから」

宝条がそんな事を言う。お前の方が他の奴とは違うだろ。

「して、その理由は?」

気になったので聞いてみる。

「まずはだ。村山は女に対しての引きがない」

「そりゃまあ、妹で慣れたからな」

しかもあの性格だし俺あんなのとかまってた所為で女子に対する当たりが強くなっちまったからな。

「そう慣れるものじゃないだろう」

そうかなぁ。俺的にはそんな感じなんだけどな。

「そう思う?」

武藤に聞いてみる。

「そう思う」

武藤は頷きながらそう言った。

「武藤は女が苦手なのか?」

聞いてみた。

「拙者は一応姉が居るが、それと他の女子とは感じ方が違うのだ。本能的に身内と知っている為だとは思う」

なるほどな。

「いや、まあ別に取り繕う必要はないじゃん」

俺は正直なことを言った。宝条はうーむと首をかしげる。

「私の目の前だと大体の男子が身なりを整え始めたり筋トレを始めたりする男子もよくいる。村山は浮世離れしているのかも知れない」

その言いぐさは何だ。俺は枯れた人間か? 仙人か? 愛深き故に愛を捨てた戦士か?

「……なんかしゃくに障るが俺は少なくともお前らよりは俗物だと思うぞ」

「私は相手が私と話すとき緊張しているかしていないか、取り繕っていないかで俗物かそうじゃないか判断しているんだ」

宝条、お前はどこの審判だ。

「少なくともお前と初めて話したときは緊張したよ」

「私だって初対面のお前と話したときは緊張したよ」

「嘘をつくんじゃない」

「いいや、嘘じゃない」

「ほお、緊張しているならまずは敬語からだろ」

「顔を赤くしていたのを覚えていないのか?」

ああ確かに。あれが緊張だったのか。俺は見とれていたが。

「初対面の時は超美人だと思ってたけどな。殻は良いんだけど中身はもう終わって―――いて!」

宝条がつま先でけってきた。しかもすねをな!

「人のことを終わってるなどと言わないでもらいたいものだな」

怒ってるのか? 顔は微笑を浮かべたままだが怒っているのか!?

「いやでもいや何でもありませんからホント股間を足で圧縮するのを止めてぅぐう」

「どうだどうだどうだ? 気持ちいいか!?」

がたぁ! と素早く立ち上がる俺。息子の方がじゃなくてな。

「子供できなくなったらどうするんだ! 自分のやったことを考えろ! ええ!?」

ここは一つ説教しなくてはなるまい。他人の生殖器を脅かすことの重大さを。

「それは確かに困るなあ」

そうだろ?

「でも私の生殖器は圧縮してもそこまで問題はないから村山も問題ない」

でもなんでそうなるんだよ。武藤置いてけぼりだし。

「なんでこうなるかなぁ~。……」

俺は黙って座る。そして宝条とは金輪際目を合わせない。俺はあんな目をしたクラスメイト達を見たことがない。

「どうした、村山」

宝条がいきなり変わった雰囲気にさすがにさっきまでのヘラヘラした笑いが消えた。

「だって空気がさあ」

俺はそう言いながらウインナーをつつく。ウインナー二本さえあればご飯が一杯食べられるのだよ。

「……たしかにな」

宝条も察したのか無言でお弁当をつつき始めた。やり過ぎは良くないと思います。

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