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第十一話◇ 運悪く

放課後の文芸部室にて我々三人は地味に集まっていた。情報交換と雑談のためである。

 ―――とはいってもさっきから話すことが無くなった我々は小説の執筆を始めて黙りこくってしまったのだが。

「村山君」

「なんですか」

すこしの沈黙が流れる中で突如西暁寺先輩が話しかけてきた。

「男ってトイレで尿を排泄するときはどのようにするのかしら?」

宝条のキーボードを打つ手が止まる。俺の口も開いたまま止まる。いやまてよ? 小説の中身でそう言うシーンがあると言うことか?

「……ハッ! 俺としたことが。―――小説の中身にでも出てくるんですか?」

「出て来ないわよ? それが?」

「じゃあ聞かないでください。かってに妄想しててください」

んなこといちいち答えてられるか痴女が。すると今度は宝条が口を開く。

「そうと言わずほら、な」

おい、なんでそうなるんだ。

「そうよ、宝条さんの言うとおり」

昔は男尊女卑の時代が続いたらしい。しかし今の惨状を見れば昔の人は発狂するだろう。見ろ、男性に排泄方法を強制的に聞き出そうとする女性だぞ。

「言うとおりとかいう話でもなく多数決の話でもない。お前ら両方間違ってます」

俺はキーボードを打ちながら答える。

「そんな事言う奴はこうだ!」

西暁寺先輩が無理矢理にノートパソコンを俺から奪い取った。

「壊れちゃいますよ!」

「こんなので壊れたら訴訟よ訴訟」

ユーザーが一方的に悪いだけで訴訟されるのは企業からしたらたまったもんじゃないぞ、ここ日本だし。

「じゃなくて訴訟は置いといて先輩。とにかく排泄如きの問題で小説作成の進行を遅らせないでください」

「いやよ」

なんで! 引き下がれよ! 食い下がるなよ。

「グダグダは勘弁してください」

「じゃあ教えなさいよ!」

追い詰めていく予定で迫ろうとしていたのだが宝条も先輩に加勢してきて、そのままじりじりと宝条と西暁寺先輩に部室の隅まで押し返される俺。なんで?

「さて、村山。私は今くすぶる知的好奇心を押さえつけることができない。なぜだか分かるか? 村山」

宝条はさながら監督のような面持ちで聞いてくる。

「分かるかよ」

「残念だ」

「ええ、残念ね」

何故か二人はそう呟き、さっきよりもさらに追い詰めてきた。なんでこんな下らないことで俺は……。仕方ない、真の村山と言うものを堪能させてやろうではないか。

「しかし、中国四千年の歴史はその程度で破れるものではないのですよ」

そう言って俺は素早く身をかがめ、宝条と西暁寺先輩の間にタックル。俺の体格ならばここは突破できるはず……!

「そう? 私が学んできた武術は一億年ものよ」

なぁにぃ!? どこの流派だ!?

「あなたはここで私に敗れるの。それは必然」

俺のタックルも虚しく俺の上半身は西暁寺先輩の脇にすっぽりと押さえ込まれる。そして……なんと先輩は俺の体を床に対して垂直になるまで持ち上げてきた。無論頭は下。

「ぬぅ!?」

俺はじたばたもがくが……激痛がしたので止めた。どうやらこれには宝条も協力しているらしい。さっきから股間がぬぉぉぉぉ!? しかし、性的興奮はともかく、抑え込みには最強の手段だと言うことをどこで学んだのだろうか。

「痛いから宝条股間は掴まないで! それ以前にお前女だろこんな易々と股間を掴めるお前の神経が心配dぐぉぁぁぁぁぁぁぁ!!」

未来の俺の子供……こ…ど。

「遺言は?」

それにしても、俺は一体何でここまでのことをされているのか全く今でも理解できない。

「まずは下ろして下さい!!」

「分かったわ」

西暁寺先輩はそのまま俺を放す! そこで放すな! 落ちるから痛いから頭から落ちたら死ぬからうわあ!

 鈍い音が頭蓋骨に響く。シャレにならねえぞこれ。

「……」

「動かなくなったようだ」

「どうする?」

「東京湾の穴子の餌にでも」

 聞き捨てならん!

「俺は一応物語の中核だから死ななかったから良いものをあなた方は何殺人未遂を犯しているのですか!」

起き上がった瞬間に怒鳴る。これは怒っているのではない。修正だ。

「いや、だってぇ……」

先輩がなんか髪の毛をいじりながらもじもじする。可愛いんだが……可愛いんだが今の俺には火に油。

「だってぇ……じゃないですよ! とにかく! ノートパソコン返してさっきと同じように話を進めましょう!」

「じゃあさ、男子の尿の排泄について……」

「粘る所違いますから。とっととこの話題は止めましょう」

「いや、私は粘る所だと思う」

宝条が何故かそんな事を言う。

「いやどこがだよ」

「やはり同じ部活動に所属する仲間。隠し事は良くないと思わないか?」

「異性の隠し事は別だろうが!」

「ちがう」

埒が開かんぞこいつら!

「じゃあお前らどうやって小便してるのか教えてみろよ!」

……やばい、勢いに任せて変な事を口走った。口走ってしまった。おや?先輩の手に握られているのは……ボイスレコーダー貴様!

「あらら、女性に対してなんて言うことを聞くんでしょうかこの殿方は。オッホッホッホ!」

西暁寺先輩が口を袖で隠しながら笑う。これを高笑いというのか。

「先輩。何ですかそれ」

「ボイスレコーダー以外の何物でもないわよ?」

「少し貸してください」

「いやですわ」

最初の会話から今までを省みて俺には何か問題があったか? 泣くぞ?

「泣きますよ?」

俺がそう言うと先輩は携帯電話を取りだして俺を撮影しようとする。

「……泣かないのかしら?」

少しは畏敬の念はあったんだよこの人には。昔はな。―――あとそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。

「ファッキン西暁寺。貴様には一つ、教えなければならないことがある」

「村山君の雰囲気が……変わった?」

西暁寺が少しこわばった顔で此方を見ている。

「俺を怒らせると大変だと言うことだぁ!」

俺は西暁寺の手からボイスレコーダーを掴み、一気にひねり取る。そして奥の机に置かれているノートパソコンを取り、ドアに向かうと宝条が邪魔をした。

「残念だが君の命運はここで尽きるよ」

宝条がそう言いながらテコンドーの構えを取る。……そうかならば。

「でぇい!」

ボイスレコーダーを力任せに宝条の顔の真横に投げつける。宝条は予想通り一瞬ひるむ。甘いぜよ!

「うっ!」

「チャァンス!」

俺は宝条をタックルで突き飛ばす。

「キャッ!」

―――宝条も悲鳴を上げるんだな。まあ、怪我しない程度に弱めたから問題ないはず。

「済まん。しかし悪いのはお前だ」

俺はそう言いながらドアを開けて一目散に逃げた。最近疲れることが多すぎて困る。

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