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14歳の取り扱い方



 駅前から少し離れた、閑静な住宅地。

 その中で、100坪はあろうかという敷地にモダンな外壁を身にまった建物がある。それが彼の家だった。

 しかしその堂々たる外観の内側で、ぎこちない家族模様が繰り広げられていることなど誰も知りはしなかった。



「あら、淳也さんお帰りなさい」

「ただいま」

 学校から淳也が帰ると、工藤さんがキッチンで夕飯の支度をしていた。工藤さんは40代半ばの家政婦で、平日の週5日、こうして夏見家へやって来て家事をしている。

 淳也は2階の自室で私服に着替えた後、キッチンに入り冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出した。


裕紀ヒロキは?」

「まだ帰ってないです」

「……またか」

 ボトルの水をグラスに注ぎながら、淳也は腕時計をちらりと見た。7時15分。

 最近、弟の帰りが遅いことが淳也には何となく気がかりだった。先日母親からの注意された時も、裕紀は全く聞く耳を持っていない様だった。


「それで、夕飯はもう出来ているんですけど、どうします?」

 洗い物をしながら工藤さんが淳也の方を見る。

「んー……じゃあ、俺だけ先に食べようかな」

「分かりました、すぐ準備しますね」

 工藤さんはダイニングテーブルに1人分のランチョンマットを引き、素早く料理を並べていく。本日のメニューは、トマトのチキンドリアに野菜たっぷりの鶏がらスープ。

 ドリアの香ばしい焦げ目や、スープから立ち込める野菜の匂いの湯気、それは世の男子の胃袋を確実に刺激するような眺めだが、なぜか淳也は少々顔を引きつらせていた。


「……工藤さん、これ嫌がらせなの?」

 もともと野菜がそれほど好きではない淳也にとっては、嫌がらせとしか思えなかったのだ。

「あなたの健康のためですよ。ちゃんと食べて下さいね」

「……」

 彼女は昔から責任感が強く、夏見家の健康管理にも人一倍気を使っていた。その気持ちを十分に理解しているからこそ、淳也は工藤さんの笑顔の圧力の前に屈するしかないのだった。

「残さず食べて下さいね」

「……はい」




  *   *




 裕紀が帰って来たのは、8時を過ぎた頃だった。

 すでに淳也は夕飯を食べ終わり、後片付けを済ませた工藤さんも帰宅した後だった。

 自室にいた淳也は玄関の物音に気付き、1階に降りて行った。

 

 リビングを見ると、制服のままソファに座り携帯をいじる裕紀がいた。淳也はドアの前でため息をつきながら腕組をした。

「遊んでたの?」

「……兄貴には関係ない」

 携帯の画面を見つめたまま、そっけなく裕紀は答える。その顔は淳也とよく似ているけれど、全ての事を拒否し、誰も寄せ付けないような瞳をしていた。


「遅くまで外にいても、中学生は危ない奴に絡まれるのがオチだよ」

「どうなろうと俺の勝手だろ。成績も落としてないし文句は言わせない」

「論点がズレてる。そういう話しをしてるんじゃない」

「あのさあ、急に何なわけ? もしかして兄貴らしく心配してるわけ?」

 そう言って鼻で笑う裕紀に、淳也は平然とこう答えた。


「心配してるのは母さんだよ」

「……」

 その瞬間、裕紀は携帯を投げ出し、勢い良くソファから立ち上がった。拳がきつく握られている。

「偉そうに言うんじゃねえ!」

「……」

「母さんが気にしてるのは兄貴だけだろ!」

 顔を赤くさせ、眉間に皺を寄せる裕紀。その怒気のこもった顔に淳也は何も言えなかった。逃げるようにしてリビングを出て行く裕紀を無言で見送る。


 最近、帰りが遅いのも、自分とあまり口を聞かなくなったのも、ただの反抗期のせいだと思っていた。でもそれ以上の“何か”が彼の中にモヤモヤと居座っているのかもしれないと、このとき淳也は思った。



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