カレーライス
「そう言えばさ、翔太くんはさっきあそこで何してたん?」
聞くのを忘れてた、と思って今更やけど尋ねる。
だって、あんなになんにもないところで、何してたのか気になる。
「……精神統一?」
一瞬言葉を止めて、何故か疑問形で答えてきた。
なんかよー分からん人やな。あんなとこで精神統一するんか。
「まー、俺のことなんてどーでもいいじゃん。そんな事より、今日の晩ご飯の材料?」
これ、と言ってカゴに入った袋を指差す翔太くん。うちは頷く。
今日は玉ねぎと肉を炒めて、玉子スープも作る予定。
明日のために、カレーの材料も買ってきてある。
「俺、カレー好きだよ。家に食べに行こっかな」
ニコニコと楽しそうに笑いながら、冗談か本気か分からんような事を言う。
食べに来てくれんねんやったら作るけど。
「辛口より甘口の方が好き。とびっきり甘いのにして下さい」
思ったより子供の味覚なんやなぁって思って、ちょっと仲間意識を持つ。
うちもカレーは甘口しか食べれへん。でもお父さんが辛口やから、別々の鍋に作ることになる。
「ホンマに食べんねんやったら、明日家おいでや」
「冗談だってー。食べに行くわけないじゃん」
うちがかなりの勇気振り絞って言ってんのに、笑い飛ばされた。
ムカつく。けど、何でか憎めへんのは、愛想が良いからやな。そうに違いない。
「わざわざ送ってくれてありがとう」
アパートの前に着いて、うちは振り返ってお礼を言う。
正直、一人で帰るよりだいぶと安心できたし、心強かった。
「どーいたしまして」
さっきのニヤニヤ顔ではなく、ニッと笑う翔太くん。
よくよく見ると、翔太くんイケメンやな。
イケメンで明るくて優しくて、絶対モテそやなぁ。
「これからは夜道散歩なんてすんなよ。じゃあまた明日」
早口でそう言って、手を振りながら颯爽と自転車で帰っていった。
もうちょっと喋りたかったなぁ。いや、別に好きってわけじゃないねんけど。
もっともっと関わっていきたいなぁって思わせるような、そんな人やねん。
家に入ってササッとお父さんの晩ご飯を作る。
何時に帰ってくるか分からんから、とりあえずラップして置いとこ。
「今日は疲れたからもう寝よ」
大きい欠伸が出たから、うちはその後風呂に入って直ぐに寝た。