号泣
「……ごめん」
やっと泣き止んで落ち着いたら、とりあえず翔太くんに謝った。
多大な迷惑をかけてしもた。というか、恥ずかしすぎる。号泣してんの見られるとか滅多にないもん。
転がった野菜とかを袋に入れなおして深呼吸。うん、もう大丈夫。怖くない怖くない。
「コーヒーかコーンポタージュ。どっちが良い?」
その声にふと顔を上げると、翔太くんが缶を二つ持って立っていた。
ビビりすぎて気づかなかったけど、ちょっと向こうに自動販売機があるのが見える。
「コーンポタージュが良い」
実はうち、コーヒーが飲めない人なんです。苦いのが無理で、カフェオレでギリギリ飲めるぐらい。
紅茶も全般飲まれへん。基本大人の飲み物は無理なタイプ。
「はい、どーぞ」
「ありがと」
貰った缶をよく振ってから開ける。思ったより熱かったから、冷ましながらちびちび飲んだ。
冷えてた体があったまってきて、もう完全に落ち着けた。
「で、何してたの?」
呆れたように肩をすくめて聞かれて、うちは顔を真赤にした。自分では見えへんけど、熱くなったから多分赤くなってるんやろう。
「ちょっと散歩しようと思ってたら、道に迷ってもうて、家帰れへんようになって、変な人影があったから幽霊やと思って」
一生懸命説明しようとしてるんやけど、しどろもどろになってるのが自分でも分かる。
よくよく考えると、まだ夜の八時やねんから、幽霊が出るには早過ぎる。
「それにしても、いつもクラスでクールな千幸ちゃんが、あんなに号泣するとはねぇ」
ニヤニヤと憎たらしい笑顔で翔太くんは言う。思いっきり顔面を殴ってやりたい。
別にいつもクールにしてるわけじゃないねんで?
人見知りすぎて、話しかけられたらどうやって返していいか分からんようになってるだけ。
「うるさい。もう帰る」
ようやく飲み終わったコーンポタージュの缶をゴミ箱に捨て、うちはスーパーの袋を持って立ち上がった。
もう、怖くない。多分。あんだけ騒いだ後やもん。
「危ないから、送って行ってあげようか?」
相変わらずニヤニヤしてるから、うちは無視して背中を向けた。
明日学校でこいつに合わせる顔がない。絶対馬鹿にされるやん。
明日学校行くの嫌やなぁ、なんて考えてたら、うちの手からスーパーの袋が奪われた。
横を見ると、翔太くんが自転車のカゴに袋を入れてる。
「……ありがと」
ここは素直に送って行ってもらおう。
そう思ってうちはお礼を言って彼の横を歩いた。