帰宅
「ただいまー」
なんて言っても誰も返事をしないのは分かってる。
分かってても、癖で言っちゃうねんからしょうがない。
それにしても、まだ慣れへんなぁ、この感じ。
ちょっと前までは、家に帰ったら絶対お母さんと妹がおったのに……。
うちの家族は、去年の夏休み最後の日に崩壊した。
宿題に追われてたうちは、母親からの呼出に多少イライラしながらリビングに行った。
そしたら家族皆集合してて、妹は泣いてるわ、お兄ちゃんは難しい顔してるわ。
お父さんは怒ってるわで、意味が分からんかった。
離婚の原因は母親の浮気。実は、うちも薄々それには気づいてた。
帰りが遅くなったり。急にオシャレ始めたり。
でも、ホンマの事知るんが怖いから、見て見ぬふりしてた。
その日に離婚届に判子押して、母親は妹を連れて家を出て行った。
うちも付いて行きたかったけど、お金のこと考えると無理って分かってたしな。
ホンマはうちだって……。
「あぁ、アカン」
引っ越したアパートのドアも開けっ放しで、鞄を置いて玄関に座り込んだ。
もう半年以上前やのに、思い出すと涙が出てくる。ほら、今も目の前が潤んでる。
「ヤバッ。洗濯物干しっぱなしやん!」
誰に隠すわけでもないのに涙を拭いて、慌てて洗濯物を取り入れる。これが結構手馴れたもので。
最初は、お父さんのパンツなんて絶対に触りたくなかったけど。まぁ、今でも嫌やけどな。
制服着替えて、ハンガーにかける。まだまだ新品の制服は見るだけでテンションが上がる。
それから洗濯物たたんでタンスになおして、晩ご飯作ろうと思って台所に立ったのは良いけど。
「この冷蔵庫はお茶しか入ってないんかい」
一人ツッコミを入れて、深い溜息。今から買い物行って作るん面倒やな。
でも、お父さんのご飯作ってあげやなアカンし。しょうがない。
この辺のスーパーってどこが安いんやろ?
とか考えながら財布持って、軽くパーカーを羽織って家を出た。