新しい母と妹
次の日は土曜日で学校が休みやった。
昨日の父の言葉が忘れられんくて、ずっとそれが頭に残ってた。
新しいうちのお母さん。どんな人なんやろ?
うちは、その人と仲良くなって、ホンマの親子みたいになるんやろうか。
そんなうちの不安もよそに、その時がやってきた。
「緊張せんでもええよ」
「あっ、はい」
そんな声がドアの奥から聞こえてきたのは、午後六時頃。
片方は父の声で、もう片方が聞いたことがない女の人の声。きっと昨日言ってた人や。
「ただいまー」
ドアを開けて入ってくる父の後ろに、小柄な女の人が見えた。
前の母親とは違って、痩せすぎってぐらい痩せていて、弱々しく見える。
緊張した顔でこっちを見て、様子を伺ってるみたい。
「おかえり。……こんばんは」
良い子を演じよう。そう心に固く誓って、うちは笑顔で挨拶する。
その人は安心したように笑って挨拶を返してくれた。
悪い人じゃない。でも、やっぱり子供心としては嬉しい事じゃない。
「昨日言ってた、森下 友里子さん。で、こっちの小さいのが美咲ちゃん」
友里子さんの足元に隠れてたから気づかんかった。小さな女の子がこっちを見てる。
うちはかがんでニコッと笑いかける。そしたら美咲ちゃんもちょっとだけ笑ってくれた。
あぁ、これがうちの新しい家族なんか。
「晩ご飯作るんやけど、何が良いかな?」
いきなり友里子さんに声をかけられて、うちは明らかに困惑する。
何が良いかって言われると悩む。どういう答えを返したらいいのか考えてまう。
「美咲ちゃん、何食べたい?」
「からあげ!」
困って美咲ちゃんに尋ねたら、即答してくれた。
うちもそういえば昔は唐揚げが大好きやったなぁ、って思い出す。
「うちも唐揚げ食べたいです」
笑顔でそう答えると、友里子さんは嬉しそうに唐揚げを作り始めた。
いつもは自分が立ってる台所に、知らない人が立っているのが不思議でしゃあない。
ご飯を待ってる間、うちは美咲ちゃんと遊んであげてた。
うちが黙ってても彼女はよく喋った。喋って絵を描いて、ほっといても楽しそうやった。
『いただきまーす』
こんなに大勢でご飯を食べるんは久しぶりや。皆で手を合わせて、皆でいただきますを言う。
唐揚げおいしいな。でも、やっぱり人によって味が違う。
お母さんの唐揚げはこの味とは違う味やった。
「おいしいです」
「良かった。どんどん食べてな」
友里子さんがあまりにも嬉しそうやから、うちはいつも以上に食べてしまった。
ご飯を食べ終わって、父は二人を送って行くと言った。
泊まるんじゃないかと冷や冷やしてたから、正直安心した。
「また遊びに来るー」
「うん。またおいで」
美咲ちゃんと約束したから、きっとまた来るんやろうなぁ。
いつかは帰る家がここになるんやから。
家で一人になったら、すっごい寂しくなってきた。色んな感情が溢れてきて、勝手に涙が出てくる。
「……嫌やなぁ」
ポツリと呟くと余計に悲しくなって、一人で泣いた。
父が帰ってくるまでしか泣けへんと思ったから、その時は思い切って泣いた。
泣いても泣いても、心の中の引っかかりが消えることはなかった。
その日の夜は、何も考えたくなくて直ぐに風呂に入って眠った。
夢の中でも彼女達は現れた。友里子さんと美咲ちゃんと父が楽しそうに喋ってる。
うちも中に入ろうとするけど、途中で足が動かんくなる。
そしたら、三人がドンドンうちから離れていく。どんどんどんどん。
「待って!」
うちが堪らず叫ぶと、父だけがこっちを振り返った。
でもその顔は冷たくて、いつもの父じゃなかった。
「俺はこの人らと住むから」
冷たくそう言い放って父はまた三人で歩き始めた。
うちは膝をついて崩れ落ちた。そのままわんわん泣いて、目が覚めた。