アスレチック
バスを降りて五分ぐらい歩いたところに、バーベキュー場があった。
それぞれ班ごとにわかれて準備を初める。うちは、着火剤を先生からもらいに行く事にした。
着火剤を持って帰ってきたら、優衣と翔太くんは楽しそうに笑って喋ってるのが遠くから見えた。
目を逸らしてそこから逃げようとしたら、誰かに後ろから肩を叩かれた。
「アイツらいい感じじゃん。良かった」
振り返ると、谷くんが嬉しそうに笑っている。友達としてこれは喜ぶべき事やねんなって気付かされた。
でもなんか嫌で、モヤモヤした気持ちがなくならへん。
「お前らおせーよ」
こっちに気づいた翔太くんに声をかけられて、谷くんは薪を持って班に戻った。うちもそれに付いて行く。
うちの班は、男の子たちがよく働いてくれていた。
谷くんは肉とかドンドン焼いて、火加減も見てくれて、お皿にもよそってくれる。
翔太くんは、優衣限定に優しく肉を渡したりしてる。なんとまぁ分かりやすい人だ。
彼は優しく笑って、好きな人を大切にしてるって感じが凄い伝わってきた。
「男子もちゃんと食べやー。うちらだけ悪いって」
うちは気を遣ってそう言ったけど、男の子達はテキパキとした動きを止めへん。
こういう時は甘えときって優衣に言われたから、うちはそれ以上何も言わんと食べることに集中した。
「全部食べ終わった班から、自由行動な。16時までにはちゃんとここに戻ってくること」
担任の黒田先生が皆に声をかけて、皆はまばらに返事をする。
そう言っている先生は、まだまだこれから食べますって感じで肉を頬張っている。
噂やけど、黒田先生かなりの大食いらしい。
ドーナツ買うときに、とりあえず全種類一個ずつって頼み方すんねんて。
まぁ、そんな事はどうでも良いねん。それより大切なんはこれからの自由行動や。
二人っきりにしやなアカンねんやんなぁ。
「とりあえず、アスレチック行こっか」
翔太くんがやっとこっちを見て聞いてくれて、うちと優衣は賛成する。
そのために、こんなに動きやすい格好で来てんから。
上はロンTにチェック柄の重ね着で、下はジーパンに運動靴。
赤いキャップを被って髪も短いから、パッと見男の子やと思われるぐらい。
それに比べて、優衣はいかにも女の子って感じの服装。スカートを履いてる時点で女の子決定やもん。
「そこ、足場悪いから気ぃつけろよ」
先頭を歩いてる翔太くんが、そう言って優衣に手を差し出す。その手を握って上に上がっていく。
うちはヒョイヒョイと手もかりやんと登っていく。
「そろそろバックレようか」
途中で谷くんに手を引っ張られて、うちはビックリして固まる。
谷くんは固まってるうちの手を引っ張って、ドンドン二人から離れていく。
二人は気がついてないらしい。うちは連れていかれるのに逆らわずに、引きずられていく。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
十分近く走ったと思う。止まって、谷くんは肩で息をしている。
これで翔太くん達は二人っきりになったんか。今頃どうなってんねんやろ?
翔太くんは優しいし明るいし、優衣も全然悪いとこないしなぁ。
見た目もイケメンと美人さんで、お似合いやし。うちなんかよりは、凄いお似合いや。
このまま二人がくっついたら、一緒に登下校するんやろな。休日は映画とか観に行ったりして。
なんか、悲しいなぁ……。
「あれ? えっと、あ、大丈夫?」
ふと意識を目の前に戻すと、谷くんが慌てふためいていた。
「これ使いなよ」
そう言ってハンカチを渡されて初めて、自分が泣いてる事に気がついた。
何で泣いてんねんやろ? もう、自分のことが分からへん。
「ごめん。大丈夫やから、ごめんなぁ」
ハンカチで涙を拭いて自分のポケットに入れる。後で洗濯して返そう。
「本当に大丈夫? なんかあったら話せよ?」
相変わらず心配してくれるこの人は、何でこんなに優しいんやろうか。
何でこんなに……。
「笹岡さん。翔太のこと好きなんだね」
「え?」
いきなり予想外の事を言われて、うちは驚いた声を出す。
好き、なんかな?
あんな事があって、意識してるだけかもしれへん。でも、気になるのは気になる。凄い気になる。
「……分からへん」
うちが曖昧な答えを出したら、谷くんは困ったように笑って、いきなりうちを抱きしめてきた。
パニックになりかけたけど、あまりにも彼の胸が頼もしすぎて、うちは胸を借りて泣くことにした。
泣いてる間、何度も頭を撫でてくれた。ずっと優しく撫でていてくれた。