バス酔い
翔太くんとまだ気まずいままの状態で、校外学習の日がやってきた。
やっぱり遠足となるとテンションは高くなって、リュックにお菓子を詰め込んでみる。
小学校や中学校と違って、お菓子の値段に制限が無いことに感動した。
なんか大人って認められた気がしたけど、そんなんでテンション上がってる時点で子供か。
朝学校に集合して、そっからバスに乗って移動。私服が新鮮でワクワクを抑えれへん。
バスが出発して三十分ぐらい経って、皆のテンションも落ち着いてきた頃。
「優衣、ちょっと酔ったかも」
真ん中より後ろのほうに座ってたうちは、隣の優衣に声をかける。
窓側を譲ってもらったけど、思ったより険しい道やから酔ってしもた。
乗り物は基本的に無理やねん。ブランコでさえも酔うねんから。
「大丈夫? 前の方で誰か席変わってくれないか聞いてあげようか?」
心配してくれる優衣の好意に甘えて、見に行ってもらう事にした。
全然喋ったこともない人の隣とかやったら気まずいなぁ、って考えてたら余計に酔ってきた。
「大丈夫か? 俺一番前だから代わろ」
そうやって声をかけてきた翔太くんが、心配そうに聞いてくる。
正直もう誰でも良かったから、ありがとうって言って席を移動する。
「あっ、谷くん。」
窓側の席に座っていた谷くんを見て、そう言えば二人は仲が良かった事を思い出した。
谷くんはうちに窓側の席を譲ってくれるらしい。
「笹岡さんも酔いやすいの?」
心配そうに聞いてくれてる本人が、もっと顔色悪い気がする。
そうかぁ、谷くんも酔いやすいんか。意外やなぁ。
「谷くん、窓側の席代わろか?」
うちよりも辛そうに見えたから、心配になって聞いてみたけど、頑固拒否された。
男の子のプライドとか、そういうもんなんかな?
「他に一緒の班になりたかった奴いた?」
しばらく黙ってた谷くんがいきなりこんな質問してくるから、うちはビックリしてえ?と聞き返した。
「ほとんど強制みたいになってたから。実は……翔太がさ、高橋さん狙ってんだよ」
一瞬意味が分からなくて困惑するけど、直ぐに理解できた。
そっか、翔太くんは優衣が好きなんか。じゃあ、うちにあんな事したんも、ただの遊びやったんか。
別に良いねんけどさ。
「それで、個別行動の時二人きりにしてくれって言われたんだけど……大丈夫?」
うちの顔色が悪くなってたんかして、心配して谷くんが顔を覗き込んでくる。
心配をかけるのは悪いから、大丈夫やでー、と笑顔で返す。
谷くんは相変わらず心配そうにしてた。でもこれ以上この話は聞きたくない。
バスが着いて、次々と皆が下りていく。
谷くんは後ろから来た翔太くんと一緒にバスを降りる。
コソコソと喋ってんのは、きっとさっきの話やろう。翔太くんが嬉しそうに笑ってた。
「何か二人で喋ってたん?」
気持ちがモヤモヤしたから聞いてみたら、優衣は大したことは話してないって言った。
なんやあの男、好きな人の前やったら面白い話の一つも出来ひんのか。
そんなん考えながら、自分の気持ちがよく分からんようになった。
嫉妬なのか興味なのか、自分で自己が分からん。
「まだ気分悪い?」
心配してくれる友達を前に、こんなんいつまでも考えてたらアカンな。
もう大丈夫やでーって返事をして、うちらは皆の後についていった。