保健室
「ケホッ、おは、よー」
学校について挨拶すると、皆が返してくれる。
優衣と友達になってからは、一気に友達が増えていった。
友好的な優衣は、基本的にクラスの子全員と交友関係を持ってるから。憧れる。
「風邪? 大丈夫?」
うちが咳してんのを見て、心配そうに声をかけてくれる優衣。
「かもしれへん」
昨日の奴のが移ったかもなぁ、と密かに考える。
あんだけ近くに高熱をだしてる人がいたら、そりゃ移るかぁ。
喉痛いし、咳出るし、最悪。
「無理しないでね」
「ありがとう」
優しい優しい優衣にお礼を言って、自分の席につく。
キョロキョロと教室を見回してみると、翔太くんがまだ辛そうに咳をしながら友達と喋っていた。
風邪って移したら治るもんじゃないんかなぁ。
四時間目まで授業を受けたけど、だんだんしんどくなってきて、保健室に行くことにした。
昼休みやから、混んでそうやなぁ。
優衣にはついてこやんで良いって言っちゃったけど、一人って心細いなぁ。
「せんせぇ。しんどいです」
ノックして保健室に入ると、先生しかおらんかった。
皆、弁当食べてから遊びに来たりするんかな? まぁ、良かった。
「あらあら、どうしたの? ここに座って熱測って」
言われるがまま熱を測ってる間に、先生には脈拍をはかられる。
脈拍で熱があるかどうか分かんねんて。
「微熱ね。帰る?」
「えーっと、ちょっと寝てても良いですか?」
帰ってもどうせ一人やし、しんどい時に一人ってなかなかキツイから、保健室で寝かせてもらうことにした。
一時間ぐらい寝たら、少しはマシになるかもしれへん。
寝てる間に夢でも見るかと思ったけど、ぐっすり眠れた。
目を覚ました瞬間は、自分がどこにいるんかわからんくて、ちょっとパニックになった。
起きたタイミングを見計らって、先生がカーテンを開けてくれた。
「どう? だいぶマシになった?」
うちは寝ぼけながら小さく頷く。喉はまだ痛いけど、熱は下がったと思う。
時計を見ると、六限目の途中らしい。二時間も授業サボってしまった。
「そこの隣の子も同じクラスでしょ? 一緒に教室戻ったら?」
誰なんやろ?と思って隣のベッドを見ると、茶髪が視界に入る。
何でこういう時って、決まってこの人が現れるんやろうか。
「南君は、ちゃんと睡眠とらなきゃ駄目よ? 後、栄養のあるもの食べなさい」
南君って響きが、新鮮で面白い。
いつも皆からしょーたって呼ばれてるから、教科担当の先生もほとんどそうやし。
「へいへい。んじゃ、戻ろっか」
ニコッといつもの笑顔を向けられて、思わずうちも笑顔で頷く。
あれ? 昨日のことは全部チャラですか? 無かった事なんですか?
「笹岡さん風邪? あー、俺の移っちゃったかぁ」
授業を少しでもサボるために、ゆっくり歩きながら喋る。
苗字で呼ばれたの初めてや。距離置かれたんかな……。
「多分、移ったと思う」
「そっかそっか、ごめんねぇ」
へにゃんっと気の抜けるように笑いかけてくる相手に、怒ることが出来る?うちには無理。
こっちまで気が抜けた笑顔になってまう。
「翔太くん、ちゃんと睡眠とってないの?」
さっきの先生の言葉を思い出して聞く。翔太くんは曖昧な笑顔しか返してくれへん。
返事もしやんと、話題を変えてくる。
「そう言えば六限目ってHRじゃなかった?」
「あっ、校外学習の班決めちゃう?」
「マジかよー! 勝手に決められんのとかマジ勘弁。急ごーぜ」
いきなり大声を出したせいで、知らない教室の先生に怒られた。
そんな事も気にせずに、彼はうちの手を取って走りだした。
え? うちの手を、とってる。手ぇ繋いでるやん!
「ギリギリセー、ふ?」
パッと手を離して、教室のドアを勢い良く開けると、皆の視線がこっちに向いた。
黒板には、校外学習班決め、と大きく書かれている。
大体は決まったらしいけどうちはどうなったんやろ?
「お帰り、大丈夫?」
「うん。うち誰と一緒?」
「私と一緒で、今から男子グループと合体するの」
どうやら話によると、女子二人男子二人の四人組で一グループらしい。
って事はここに男の子が二人入るんか……。いらんなぁ。
なんか男の子って怖いし、何話せば良いんか分からんし。
うちがウダウダ考えていると、いきなり男の子に話しかけられた。
「高橋さんと笹岡さん。まだ決まってなかったら、一緒にどうかな?」
その人はとても好意的な笑顔を向けてくれて、とりあえず第一印象がメッチャ良い!
絶対この人優しい。良い人やぁ。
「私たちで良かったら、お願いします」
優衣が満面の笑みで微笑み返すと、その男の子は照れたように目を逸らす。
そりゃあ、こんな美人さんに微笑まれたら、照れもするよなぁ。
「あっ、自己紹介いる? 俺は谷 雄大、よろしくね。んでもってコイツが」
「南 翔太。って俺有名だから知ってるでしょ?」
あぁ……まさかのこの人か。
こんな素敵な谷くんと、フザケてるような翔太くんが仲いいとは思わなかった。
優衣は心配そうにうちの事見てる。
「千幸、良いの?」
優衣はやっぱり心配そうやけど、うちは笑顔で頷く。
だって、谷くん素敵やねんもん。背高いしガタイ良いし、優しいしな。
「じゃあよろしくお願いしまーす」
ハイテンションの翔太くんの声で、うちらのグループは決定した。