夢
「これって失恋?」
翔太くんが帰ってから放心状態やったうちは、何回もこの疑問を口にしていた。
失恋って言うんかな?
別に好きじゃないし、多分。勢いで変なこと口走って、断られて。
あぁ、これが失恋と言うものか……。
「アホぉ」
一言呟いて、うちは気持ちを切り替えることにした。
いつまでもウダウダ言ってんのは、うちには似合わへん。
あんなアホな男忘れて、青春を謳歌しよう!
固い決意をして、その日は残りのお粥を食べて寝た。
夢を見た。
翔太くんと、誰か知らない女の人が喋ってる。
多分、彩さんって人やと直ぐに分かった。女の人の顔は靄がかかって見えへん。
泣きそうな翔太くんが、彩さんを見つめてる。
「ボケ、アホ。大バカヤロー」
デジャヴってこういう事を言うんかな?
ついさっき聞いた事、そのまま翔太くんは言う。
きっとこの後はあの台詞を、さっき言った通りに言うんやろう。
「ごめん、好きだよ。大好きだった。だから……帰ってこいよぉ」
ほら、やっぱり。デジャヴ。
翔太くんは泣いてるけど、彩さんは何にも言わない。
何も言わないまま、背を向けてどこかに帰っていく。
それを見てるんが悲しくて、うちは思わず声をかけるけど、全然届かへん。
「うわぁぁん。うっ…・うっ、うぁぁ」
子供みたいな泣き声にビックリして翔太くんを見ると、いつの間にか小さくなっていた。
見た目が幼稚園児になってる。服装はさっきのままやから、ブカブカや。
「ごめんなさいー。あやまるから、あやまるがら……がえっでぎでよぉ」
幼稚園児の翔太くんが、大声で泣いて謝ってる。
何があったのかは分からないけど、こういうのを見てると、悲しくなる。
でも、うちの声は届かんくて、体に触れることも出来んくて、何も出来ひん。
「ごっめぇんなっさ、い」
しゃくりをあげて泣いてる姿は、本当に見てられなくて、うちは目を閉じて耳を塞いだ。
早く夢が終わりますように、って祈りながら。
「……誰か、助けて」
いきなり耳元で呟かれたところで、夢がやっと終わった。
「最後の声って、うちに助け求めてた?」
自問自答するけど、ハッキリした答えがでやんくて、モヤモヤしたまま時計を見る。
目覚ましがなる五分前やけど、もう起きとこか。
「変な夢やったなぁ」
食パンを焼いてる間に、制服に着替える。
昨日バタバタして寝たから、ちょっと部屋が散らかってる。
ご飯食べたら、時間あるし掃除して行こ。
それにしても、昨日の事が全部夢やったような気がする。
「全部夢やったら良かったのに」
救急箱が出してあるのを見ると、昨日のことは全部ホンマやったんやって感じる。
あれは夢じゃなくて、さっきの夢で。頭がこんがらがってくる。
良いや、忘れよ。うちには関係のない事やし。
そう自分に言い聞かせて、鞄を持って学校に行く。